「言葉を交わさずとも共通理解を持ってやれていた」
「流れから言ったら負けゲームだったと思います」。そう桶谷大ヘッドコーチが振り返ったように、琉球ゴールデンキングスは川崎ブレイブサンダースとの第1戦で苦戦を強いられた。だが、最後まであきらめない姿勢が劇的な展開を生んだ。残り3.2秒、3点ビハインドで迎えた琉球のラストポゼッション、ジャック・クーリーがスクリーンをヒットさせ、ノーマークになった岸本隆一がトップからディープスリーを射抜き、残り0.6秒で試合を振り出しに戻した。
九死に一生を得た琉球はオーバータイムを18-7と圧倒し、最終スコア93-82で勝利した。桶谷ヘッドコーチも「岸本(隆一)ですよね。隆一がスクリーンに引っかけて3ポイントシュートを決めたところ。次に繋がるなと思いますね」と、クラッチスリーを決めた岸本を称賛しつつ、劣勢を挽回したチームへの手ごたえを口にした。
チームを救う3ポイントシュートを沈めた岸本は12本中6本の長距離砲を含む26得点を記録。特に終盤は千両役者ぶりを発揮し、第4クォーターに8得点、オーバータイムは足がつって交代するまでの約3分間に放った2本の3ポイントシュートを決めた。それだけに岸本は「最後のほうだけ持って行けたかな」と自虐交じりで試合を振り返った。「試合を通して我慢の時間が長かった印象です。最後の最後でなんとか試合をひっくり返せて、そのままの勢いで持って行けました」
試合は上位対決らしくハードなディフェンスの応酬となり、ロースコアゲームの様相を呈した。だが、オーバータイムを含むラスト約7分間で琉球は28得点とオフェンスが爆発した。岸本は無言ながらもコート上の5人が同じ目線に立っている感覚があったという。「出ている5人が今どこが効いているのかを、言葉を交わさずとも共通理解を持ってやれていた。ゲームの終盤もそうですし、特に延長はそういう感覚でやれていたのが大きいと感じています」
「経験上、決めたいと思ったらだいたい外れるので(笑)」
そして、岸本を語る上で、残り0.6秒に決めたディープスリーについて触れないわけにはいかない。外れたら負けという極限状況の中、いつもと変わらぬメンタルで打てたと岸本は言う。
「経験上、決めたいと思ったらだいたい外れるので(笑)。感覚的にはそんなに深くは考えていない状況でした。一瞬ですけど『外れたらすいません』という気持ちもありつつ、総じて普段通りだったのが一番良かったと思います。ラストショットという意識よりもみんなが協力して自分のために動いて、結果的に自分のところが空いたので。周りに感謝しなきゃいけない瞬間でした」
桶谷ヘッドコーチはラストプレーのファーストオプションが松脇圭志だったことを明かしており、一つ目のプランが崩れたことでラストショットが岸本に回ってきた。狙ったプレーではなかっただけにビッグショットを自画自賛してもいいはずだが「『持っていない』タイプだと思うので、みんなのおかげです」と、最後までチームメートへの感謝を強調した。
そして、岸本はポジティブでもネガティブシンキングでもない絶妙なメンタルで後半戦を戦っていくと誓った。「良い時もありますし、良い時は長く続かないです。悪い時もありますし、悪い時もそんなに長くは続かない。常にフラットな気持ちでシーズンを戦うことも大切なので、そのバランスを自分なりにとって戦っていきたい」
残り46秒、相手のポゼッションで4点差。絶望と言える状況の中、トラップを成功させ、フリースローのミスにも助けられるなど様々な要因が重なって劇的な勝利を手にした。良い時も悪い時も続かない、岸本が提唱するブレないからメンタルが呼んだ1勝であった。