八村塁

獲得するチームにとっては『リスクを極力排した即戦力』となるのが魅力

『The Athletic』の報道を機に、日本でも八村塁のトレードが大きな話題になっています。しかし、現状はウィザーズが「トレードの可能性を探っている」段階で、何かが決まったわけではありません。今一度、ウィザーズの状況とトレードの可能性について整理していきましょう。

4年間のルーキー契約が最終年を迎えている八村は、今シーズン終了とともに『制限付きフリーエージェント』になります。これは他のチームとの交渉が可能になった八村が契約条件で合意したとしても、ウィザーズが同条件を提示すればチームに残すことができる制度で、現時点でトレードされれば移籍先のチームにこの権利が引き継がれます。

このタイミングで八村を獲得するチームの視点では、シーズン後半に起用してみて「フィットすれば長期契約」、「フィットしなければ今シーズン限り」という選択ができ、リスクを極力排したトレードとなります。これは八村に限らず、ブルズのコビー・ホワイトやホーネッツのPJ・ワシントンなど、制限付きフリーエージェントになる4年目の選手は、トレードデッドラインで注目を集めるのが通例です。

特にサラリーキャップに空きがない強豪チームにとって、比較的安い契約で済む上に来シーズン以降の保証を負う必要がない選手は、今シーズンに結果を残すための魅力的な補強になります。ただし、戦力を削らずに済むドラフト指名権がトレードの対価になります。

ウィザーズが八村の放出を検討している理由は、オフにフリーエージェントになる権利を持つカイル・クーズマとクリスタプス・ポルジンギスとの契約延長を優先事項と考えているからです。特にクーズマを残すのであれば大幅なサラリーアップは避けられず、そうなるとオフには八村を残留させるのが難しくなります。その想定の上で、夏にフリーで出ていかれるよりも今のトレードで対価を得ようとする、分かりやすい計算です。

一方で戦力的な面で考えると、ウィザーズが納得する対価を得るのは簡単ではありません。今シーズンのウィザーズは従来の突破型ではなく、コントロール型のモンテ・モリスをポイントガードに置き、ウイング陣の得点力を生かす形を取ってきました。エースのブラッドリー・ビールに欠場が多いにもかかわらず、モリスのオフェンスレーティングは117.0を記録しており、スターターのクーズマとポルジンギスにベンチから出てくる八村を加えた3人で合計56.3得点と、ウイングスコアラーを上手く機能させています。

トレードで八村以上の得点力を持ったウイングを獲得するのは難しく、噂に上がるジェイ・クラウダーのようなディフェンス力のあるウイングか、得点力のあるガードの方が現実的です。前者の場合はビールが休まずに試合に出ることで機能し、逆に後者の場合はビールが試合に出るならば限定的な役割になります。いずれにしてもビールの健康状態が不明瞭な中では、シックスマンとして得点を奪える八村を放出するのはリスクです。そんなリスク以上のメリットが期待できる選手となれば、トレードの交渉は簡単にはまとまらないでしょう。

デッドラインでのトレードは、1試合ごとに変化していくチーム事情を鑑みながらジャッジされます。ウィザーズが「トレードの可能性を探っている」のは、自分たちの成績とビールの状況次第で動ける体制を作るためであり、他のチームからすると八村というローリスクの選択肢が浮上したことになり、ベンチの得点力に困っているならば検討する案件になったはずです。

日本時間2月10日のトレードデッドラインまでにトレードは起こるのか、それとも何事もなかったように残留するのか。噂は噂で終わることも多いですが、日本のファンにとって噂話が気になる日々になりそうです。