2023年、日本バスケットボール界にとって一番のイベントは夏に日本(沖縄) とフィリピン、インドネシアの共催で行うFIBAワールドカップだ。そして、アジアで最上位に入り、2024年パリ五輪の出場権をつかむことを目標に掲げている。そんな代表チームを率いるのがトム・ホーバスだ。東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導く偉業を成し遂げた名将が、男子でも再びサプライズを起こせるのかは日本だけでなく世界のバスケ界が注目している。今年も間違いなく日本バスケ界の中心にいる、アメリカ帰国中の(12月中旬)ホーバスに、オンライン取材にて大舞台に向けた意気込みを聞いた。
「今の日本のスタイルに雄太と塁がアジャストすることが必要です」
──ワールドカップの組み合わせ抽選は4月29日に行われますが、一足早くスロベニア代表が沖縄に来ることが決定しました。日本と同じグループに入る可能性もあります。
もし、スロベニアと同じグループになったらそれは仕様がない、やるしかないです。ただ、ティンバーウルブズの練習を見に行った時、コーチングスタッフと話をして、ドンチッチ選手のこともいろいろと聞いてみました。また、ウルブズのスタッフにはアルゼンチン代表のヘッドコーチであるパブロ・プリジオーニがいます。彼とはたくさん話をしましたけど、彼は日本と試合をしたいと思っているようです。
──日本代表がワールドカップで目標とするアジア最上位となるには、ヨーロッパ勢から勝利を挙げられるかが大きな鍵となってきます。昨年の夏に行われたユーロバスケを見て、どういう感想を抱きましたか。
ヨーロッパはチームバスケとフィジカルが強みで、見ていておもしろいですね。ワールドカップの前にはヨーロッパのチームと練習をしたいです。ヨーロッパ勢から勝つには相手より速くプレーし、細かいことを上手にやる。3ポイントシュートを確率良く決めていく。それしか勝つ方法はないです。
──ユーロバスケではドンチッチのスロベニア代表、ヤニス・アデトクンボのギリシャ代表、ニコラ・ヨキッチのセルビア代表が揃ってベスト8で敗退し、優勝したスペイン代表のようにチームで戦う国が上位に入りました。日本代表は渡邊選手と八村選手が傑出した存在ですが、どんなスタイルを思い描いていますか。
今の日本のスタイルに、雄太選手と八村選手がアジャストすることが必要です。2人が合流した後で彼らに合わせるスタイルを作ろうとは全く思っていません。
──トムさんは女子代表の時、女子では珍しいNBAの戦術を積極的に取り入れ、スモールボールを展開して世界を沸かせました。男子でも同じようにNBAを参考にしたりしていますか。
今、NBAで流行っているフォーメーションはダブルハイスクリーンです。女子代表では東京五輪でよく使っていました。NBAはスイッチングディフェンスばかりやっているので、このスクリーンは結構効くとウルブズのコーチも話していました。NBAに限らず、NCAAのバスケと日本代表のバスケは似ています。NCAAの細かいプレーなどを参考にしていることはあります。
「周囲の低い評価を覆すチャレンジがすごく好きです」
──2022年は代表チームで選手たちと一緒に過ごす時間も増えました。その中で女子代表の時と比べると、試合中にミスをした選手たちに対する姿勢など前よりもソフトになった印象を受けます。男子と女子で接し方を変えている意識はありますか。
選手との関係は深まってきていて、チームの雰囲気は良いし、みんなハングリーで良いバスケができています。これからもっと上手にできると思います。接し方については、優しくなったかもしれません。東京五輪の後で私も少し変わりました。
ただ、何回もミスをした場合など注意する時はもちろんあります。一方で男子はリーグの試合がたくさんあるので、合宿をスタートする時はみんな疲れている感じもします。だから、まずはポジティブな雰囲気を作りたいと思っています。いつも注意してばかりなのは良くないですし、楽しいバスケがやりたいです。選手へのアプローチは毎年変わっています。10年前はもっと厳しかったです。時代にアジャストしたのか、僕が年を取ったからかもしれませんね。
──東京五輪で世界を沸かせたトムさんが、男子代表でどんなバスケットボールを見せてくれるのか。いろいろな人が注目しています。
多分、半分以上の人が日本代表は上手くいかないと見ていると思います。ただ、そういう風に思われることは好きです。私たちはやります。周囲の低い評価を覆すチャレンジがすごく好きなので、上手にチームを作って良いバスケをやります。
──最後の質問です。ずばり、東京五輪と同じくサプライズを起こす自信はありますか。
すごくあります。雄太、八村、馬場選手がこのシステムに入ってプレーするのがすごく楽しみです。良いチームにするには戦術だけでなく、エナジーや雰囲気など、みんながポジティブにやれる環境を作ることが大事です。女子代表はみんなが同じ考え、気持ちでプレーしていました。どんなスタイルで戦うのかも大きいですが、何よりも一つにまとまったチームをしっかり作ることが大事です。みんなが日本代表のスタイルに入って、特別なバスケットボールができる自信はあります。