2試合続けて30得点超えの渡嘉敷「ゴール下の1対1は負けられないし、負けてない」

ENEOSサンフラワーズは第89回皇后杯の決勝でデンソーアイリスを76-66で下し、大会10連覇の偉業を達成した。試合は第3クォーターまで一進一退の攻防となったが、第4クォーター開始からENEOSは渡嘉敷来夢と長岡萌映子によるツインタワーを軸に10-0のランに成功。これで一気に抜け出すと、最後まで強度を保ったディフェンスでデンソーの反撃を防ぎそのまま逃げ切った。

77-57で快勝した準決勝のトヨタ自動車アンテーロープス戦での32得点と2試合続けての大爆発で大会MVPを受賞した渡嘉敷は、このように大会を総括する。「苦しい展開もありましたが、本当にチーム全員で最後まで踏ん張ることができてうれしく思っています。10連覇を意識せずに一戦一戦、しっかり勝ち切ることが大事と思っていてそれが皇后杯で出せて良かったです」

そして自身の圧巻のパフォーマンスに関しては、インサイドの1対1でリーグ最強であることを証明した。「準決勝、決勝と本当にゴール下で1対1の状況だったので、ボールをもらったら積極的に攻めていこうと思っていました。ゴール下の1対1は負けられないし、負けてない。自分を止めることができるのは自分と思ってやっていたので、パスをくれた仲間たちに感謝しています」

終わってみれば今シーズンの皇后杯もENEOSがいつも通りの勝負強さでタイトルを見事に守った。しかし、振り返ればシーズン序盤のENEOSの戦いぶりは盤石とは程遠い内容だった。Wリーグの開幕戦ではトヨタ自動車に序盤からリードを奪われ、第3クォーター終了時点で26点のビハインドと57-70の最終スコア以上の完敗を喫した。そして翌日の試合では73-68とリベンジに成功したが、翌週の富士通レッドウェーブとの対決では初戦で54-91と衝撃的な大敗。続く2戦目は序盤に大量リードを奪うが、第4クォーターに失速し59-63と痛恨の逆転負けと苦戦続きだった。それが約1カ月半で見事に修正に成功し、劇的な進化を遂げた。

シーズン序盤の1敗にも悔しさを露わにする一戦必勝の精神が浸透したチーム文化

シーズン当初と現在を比べると、故障からの復帰直後でプレータイムに制限があった林咲希が40分フル出場できるコンディションとなったことに加えて、新加入の長岡が試合を重ねることでよりチームにフィットしていった。そして、昨シーズンまで出番の少なかった星杏璃が、主力選手として完全に一本立ちするなどENEOSの浮上には様々な要因が挙げられる。だが、やはり復活の肝となったのは、どんな苦しい状況でも言い訳をすることなく一つの負けに悔しさを露わにし、常に勝利を貪欲に求め続ける姿勢がチームの文化として浸透しているところだろう。

例えば富士通の2戦目に敗れた後の取材で渡嘉敷が、まだシーズン序盤戦でいくらでも挽回できる時間があるにもかかわらず悲壮な覚悟を語っていたのは記憶に新しい。「でも今日は絶対に勝てました。絶対に勝てました。絶対に勝てました。もう3回、言っちゃいました。この連敗で良い形に進んでいくんじゃないかと感じています。ただ、これでダメだったらそこまでだと思います。これで何も変わらなかったら、『何を変えたらいいのか』というところからもう一回探さないといけないです」

渡嘉敷とともにチームの中心を担う宮崎早織も同じように生粋の負けず嫌いであることを渡嘉敷はこう振り返る。「開幕戦で負けた時、宮崎が『タクさん、もう負けたくない』と自分の前で言って泣いていました。その時は自分も本当に悔しくてちょっとウルウルしていました」

宮崎は当時の危機感を明かす。「リーグが開幕してトヨタ自動車、富士通と負けが続いたことで正直、このままで大丈夫なのかという不安がすごくありました。萌映子さんが来てくれたことはすごくプラスですが、林さんは故障から復帰したばかりで、岡本(彩也花)選手は復帰できていない。私とタクさん(渡嘉敷)の2人が中心となって頑張っていかないといけない時、負けによる私自身のダメージが強くて、このままで勝てるのかという不安がありました」

「みんながどんどん攻めて、どこも捨てさせないで絶対に負けない試合をしたい」

皇后杯の10連覇に加え、WリーグでもENEOSは2010-11シーズンから前人未到の10連覇を達成するなど、どこよりも勝ち続けている。それでも個々の選手たちは常に勝利に対してハングリーであり続けて、目先の勝利を全身全霊でつかみにいく姿勢に全くブレはない。この日々の積み重ねが、一発勝負のトーナメント戦で無類の勝負強さを発揮する土台となった。

また、チームを強くするためには柔軟に変化も受け入れる。攻守に渡って持ち前のフィジカルの強さを生かしたプレーで活躍した長岡は、昨シーズンまでライバルのトヨタ自動車に在籍していた。生え抜きを主体にずっとチームを作ってきたENEOSにおいて、リオ五輪と東京五輪の日本代表である長岡は、これまでにない一流の実績を備えた即戦力の新加入選手だ。

長年、『打倒ENEOS』でプレーし、実際に過去2シーズンはトヨタ自動車でWリーグ連覇を成し遂げている彼女の知見はチームの成長の大きな助けとなっている。長岡は語る。「これまで『対ENEOS』で10年間やってきました。ENEOSが変わろうとしている中、トヨタが勝つためにどこで勝負をかけていたのかを伝えてプラスになるところもあると思います」

10連覇の偉業を成し遂げたENEOSだが、彼女たちの目標はあくまでリーグ戦との二冠でうれしさはあっても充足感はない。リーグタイトル奪還を果たすための鍵はベンチの底上げだ。決勝では渡嘉敷、長岡、林が40分フル出場だったが、それまでの試合のベンチメンバーのパフォーマンスを見れば致し方ない選択と納得できる。ただ、リーグのプレーオフはセミファイナル、ファイナルと2戦先勝となっており、今回と同じように先発5人で押し通す選手起用はさすがに厳しい。そのため、故障から復帰したばかりで現在は1試合5分限定のプレータイムとなっている岡本のコンディション向上に加え、何よりも若手の奮起が待たれる。

また、準決勝、決勝における渡嘉敷のパフォーマンスにより、大一番になればなるほど相手はより彼女を徹底マークしてくるはずだ。そこで大事になってくるのは、渡嘉敷が9得点に終わるも9アシストと攻撃の起点となって92-73で快勝した準々決勝の三菱電機コアラーズ戦のように、渡嘉敷に依存しないバランスの取れたオフェンスだ。

宮崎はその点について自信を見せる。「皇后杯でインサイドがすごく強いことはいろいろなチームがより分かったと思います。外は私のところだったり、他の選手が捨てられることは多かったですが、皇后杯でどの選手も3ポイントシュートが入って積極的にアタックできて、どこからでもシュートが打てることを証明できたと思います。リーグ戦でもみんながどんどん攻めて、どこも捨てられないようにして絶対に負けない試合をしていきたいです」

リーグ戦は今週末から再開し、ENEOSも23日に羽田ヴィッキーズとの対戦が控えている。そして約1カ月後の1月14日、15日にはデンソーと再び激突する。この優勝を大きな弾みとし、ENEOSがどんな進化を見せてくれるのか。これからのリーグ戦がより楽しみとなる今回の皇后杯だった。