一昨年は福岡第一が2冠、昨年は福岡大学附属大濠がインターハイを制覇──。全国優勝を狙えるチームが県内に2校あることは、ライバル意識が刺激となり互いの成長を引き出す面もあるが、どちらかは全国大会に行けない、という非情な現実もある。このところはどちらかがシード権を取り、福岡県からは両校がインターハイ、ウインターカップに出場して全国優勝を争うのが常だったが、今年は違う。夏のインターハイは日本代表とスケジュールが重なり、大濠から3人、福岡第一からは2人の主力選手がU18日本代表に招集されて不在という状況で、ともに早期敗退。11月3日に行われた『福岡決戦』はウインターカップへのただ1枚の切符を懸けた勝負となった。終盤まで差がつかない大接戦の末に敗れた大濠のシーズンは、ここで終了。切磋琢磨を続けてきた両校の選手が涙とともに健闘を称え合う中、大濠の片峯聡太監督はただ静かに結果を受け止めていた。非情な結末から約10日、片峯監督に胸中を聞いた。
「やりきった選手たちを、全国に連れていけなかった」
──まずは新チームが始まってからの1年間を振り返っていただけますか?
井上(宗一郎)が抜けて戦力的にはダウンしたと思いましたが、今の3年生がチームのことをよく考えてくれて、新チーム結成当初から主体的にリーダーシップを取ってくれたので、時間がかかったとしても必ず頂点を目指せるチームになると考えていました。この選手たちをいかに伸ばしていけるか、自分の中でも挑戦の年でした。
福岡第一とは、新人戦から中部地区、県大会で対戦しても粉砕されるばかりでした。選手たちには「自分たちは3周遅れ。見えている背中は3周先の背中だ」と伝えていましたから、そういった面では逃げずによくまとまって、チーム力を持って戦い抜いてくれました。
──シーズンの最初のハイライトがインターハイになります。アンダーカテゴリーの代表に主力選手を取られ、大濠だけでなく福岡第一も早期敗退を強いられました。
やはりこのチームで全国の舞台を戦えなかったことは非常に悔しく、残念でした。一方で、ウインターカップの県予選の決勝ではピークパフォーマンス、我々が持っているものをすべて出し切ることができ、3年生はよくやってくれたと思っています。彼らはこの悔しさをいつまでも忘れることなく次のステージで晴らしてほしいし、残っている生徒はこの悔しさを次のシーズンに持ち越してやっていかないといけないです。
──今シーズンはセットオフェンスで個人を生かしたチーム作りをしようだとか、逆にそうではなくてトランジションを速くすることで高さをカバーしようだとか、具体的にどういうチーム作りを目指したのですか?
最初から型にはめてしまうと、ある程度コントロールができて上手くできるのかもしれませんが、それは僕らの考えに反しています。いかに選手たちの個を最大限に伸ばしていくかが私の指導の考え方なので、夏までは個を最大限に高めるということをやりました。特にウチのビッグマンで言えば、浅井(修伍)や木林(優)はこれから伸びる選手です。型にはめて小さな選手で終わらせるわけにはいかない。しかし、自由にさせるがゆえに強さに結びつかない難しさもありました。
夏以降、代表を経験した選手たちがもう一皮剥けて本格的にチームとして戦うために準備してきたのが9月からの3カ月間です。代表組がいない中で遠征をするなど、様々な調整をしましたが、大会に向けていろいろなことを乗り越えることが難しかったと思います。
「練習の量や質の求めるレベルが至らなかった」
──決勝の福岡第一戦はどのような気持ちで臨んだのですか?
ウチはずっと負けていたので、負けたまま終わらず、最後は勝って終わろうということで思い切りよくプレーさせました。決勝までに福岡第一の細かな対策など最善の準備をし、できる限りのことをやったから、あとはコートで自分たちがしっかり自信を持って判断したことが正解だ、それが思い切りの良さに繋がる、といった声をかけて試合に入らせました。
──第4クォーター終盤の勝負どころはどう振り返りますか?
今年は福岡第一に劣るという私の見方があったので、第一にどれだけバスケットをさせないかの戦術を用いていました。残り5分からの数分、互角か自分たちが少し有利という展開の時に、同じバスケットをしてしまいました。あの点差から僅差で勝ち切るか、20点差を付けられて敗戦するかというゲーム展開に持っていかなければならなった。そこで選手たちにリスクを背負わせられなかった指導の甘さです。リスクをみんなで背負い、それをチーム力でカバーして自分たちの良さを出し切るべきでしたが、それをされられなかった。もちろん、選手たちは戦略をもとに戦術を用いて戦っていました。あとはチーム全体で走り切れるか、タフな1on1でシュートをねじ込めるかという、最も魅了でき興奮するシンプルな部分の勝負でしたね。
──最もタフな勝負どころで、さらにもう一歩踏み込む必要があったということですね?
3歩行かないとダメです。3歩行くほどのリスクを背負わなければいけないほど、力の差があったということです。それをさせられなかったのは私の責任です。選手たちは試合の中で考えて判断してパフォーマンスを上げてきたけども、1年間の取り組みの中で走らせる量やキツい場面で判断させる練習の量や質の求めるレベルが至らなかったということです。
「結果として負けましたが『敗北』ではありません」
──大濠と福岡第一の選手たちは、ライバルでありながら代表や国体で一緒に戦った仲間でもあり、試合が終わるとチームに関係なく泣きながら抱き合い、会場も感動が渦を巻く状況でした。一方で片峯監督は感情を表に出しませんでしたが、どういった心境でしたか?
彼らはよく戦ってくれました。チームは結果として負けましたが『敗北』ではありません。自分たちのことをやれたから、選手たちには胸を張ってほしかった。リーダーである私が泣き崩れてしまっては元も子もないですから。悔しい気持ちもあるし、この選手たちともう試合に出られないというのはすごく残念で悔しくて、何とも言えない申し訳ない気持ちでしたが、そこはチームとしてやりきったという姿を私が見せなければと、気丈に振る舞いました。自分の感情よりも自分の立場としてどうあるべきかいう方が強かったです。
──自分の感情を出せたのは自宅に戻ってからですか?
もう使い物にならなかったですよ。ロッカールームで選手たちに悔いはないかと聞いたら、歯を食いしばりながら「はい」と答えたので、なおさら申し訳なかったです。選手たちはやりきったと言うのに、なぜ全国へ連れていけなかったのかと。それで涙を流してしまいました。
──試合後、片峯監督と大濠の選手たちは福岡第一の応援団の方に歩み寄って一礼しましたが、最後まで礼儀や相手へのリスペクトというのを見た気がしました。
福岡第一も同じで、井手口孝先生や選手たちには気を回していただいています。勝者がいれば敗者もいます。でもお互いに血と汗がにじむような努力をして、それを認め合い高めあうことが本当のライバルです。出てしまった結果に対してどうこうではなく、お互いにやりきったのか、ぶつかり合ったのか。その結果がお互いのそういった行動に繋がったのだと思います。
──今年、田中國明先生が亡くなられましたが、田中先生は天国でどういう気持ちで見ていらっしゃると思いますか?
田中先生は全国大会で負けるよりも福岡第一に負けることのほうが「なにくそ!」と思っているでしょうね。田中先生が亡くなられた年に負けてしまいましたが「片峯、ここからだぞ!」と言われている気がしています。
「自己満足ですが、間違っていなかったと思います」
──敗戦からしばらく経ちました。これからは新チームとなります。
この時期はウインターカップに向けてどうチームを仕上げていくかで、こういう状況になるとは思っていませんでした。時間があるので焦らずじっくりチーム作りをしていこうと思います。昨年のチームも船出は不安でしたがあれだけやれたので、チーム力を大事にすることはもちろん、それぞれに目標を与えながら、春先までは個をしっかり大きくさせたいなと。それから新入生も加わってドシッとした強さがでるようなイメージでやりたいなと思っています。
──気持ちの切り替えはできていますか? 少しゆっくりしたいとは思いませんか?
ゆっくりしたいとは思いませんが、この時期は試合がないので急かして頑張らせても生産性は上がらないし、じっくりやれる時期にケガしてリハビリだけになってしまっては損なので。1日に目的を一つに絞って、ウエイトならウエイト、走るなら走る、スキルならスキルと狙いを定めるようにしています。そうやって身体を大きくし、スキルを増やすことを2月までやります。3月と4月にゲーム慣れをして、インターハイ予選に向かいます。
焦らずじっくりやろうと思います。自分たちのやっていることが全く上手く行かず、最後の最後で福岡第一に手も足も出なかったら焦るしかありませんが、今回しっかり戦えたことが1年生、2年生の自信になります。自己満足ですが、間違っていなかったと思います。「もっと焦れよ」と言われるかもしれませんけど、計画を持ってやれば大丈夫だと思っています。
──最後に大濠を全国の舞台で見たかったファンへメッセージをお願いします。
7年連続でウインターカップに出場していたのですが、今年は出場できずということで、応援してくださっている方々には申し訳ないという気持ちです。全国の舞台で活躍してこその大濠トロージャンズです。今年の分を次のチームで晴らせるような魅力あるチームを作っていきたいと思いますので、是非、来シーズンもトロージャンズの応援をよろしくお願いします。