宇都宮ブレックスはBリーグ初年度の2016-17シーズンに続き、昨シーズンのBリーグで優勝した。親会社を持たないプロクラブでありながら常にB1トップレベルの競争力を保ち、観客数やアリーナの熱気でも指折りで、2022年6月期の決算は売上14億8000万円、2期連続の黒字を計上してもいる。多くの面で他のクラブから手本となる存在だが、新B1のスタート、さらにその先を見据えたクラブの舵取りは決して簡単ではない。代表取締役社長を務める藤本光正に、今のクラブ経営について語ってもらった。
「魅力的な舞台があるからこそ競技力も高まっている」
──まずは藤本社長のこれまでの経歴、バスケとのかかわりを教えてください。
バスケは小学生からやっていて、プロになりたかったんですけど1990年代の日本にプロはありませんから、高校からアメリカに留学しました。さすがにプロにはなれず日本に戻ったのですが、アメリカ生活で日本の環境面があまりにも遅れていると感じました。日本のバスケが強くならない、発展しないのは、DNAによる体格や運動能力の差ではなく、環境面に原因があるんじゃないかな、と思ったんです。
Jリーグが立ち上がってワールドカップに出るようになったサッカーと比較すると、バスケも業界自体を大きくして、メジャーにしなければならないと高校生ながらに感じ、それを自分のライフワークにしようと決めて大学でスポーツビジネスを学びました。
そこからバスケ界にすぐ行く道もあったのですが、まず自分がビジネスマンとして成長してからの方が目標達成に近いだろうと、リンクアンドモチベーションに入社しました。そこで本当に運の巡り合わせがあって、会社が栃木県でバスケチームを作ることになり、大塚商会さんから権利を受けてJBL2に入ったんです。新卒1年目の途中、当時の社長の山谷拓志さんと私で栃木に移り住み、チームを立ち上げました。
新人だったので大変でしたが、山谷さんという優秀なリーダーがいたので「ついていけば何とかなる」という気持ちで必死にやりました。チーム名を決めたり選手をリクルートしたりホームページを作ったり試合の準備をしたり……。最初はほぼ全部を2人でやっていました。途中で役職が付いたりして、2020年に社長になって今に至ります。
──「バスケをメジャーにする」をライフワークに決めた際、コーチやトレーナーといった現場寄りの役割ではなくフロント側を選んだのはなぜですか? プレーヤーの延長線上であれば、現場寄りの意識になりそうですが。
日本と比較した時に、アメリカってバスケが生活の一部になっているとすごく感じたんです。プロスポーツ全体が自動車産業や映画、音楽産業と同じぐらいの扱いを受けていて、みんなプロスポーツにあこがれを持っています。ビジネスとしても大きい、魅力的な舞台があるからこそ競技力も高まっていると感じた部分があって、その舞台を作りたいと思いました。
自分がこれだけ愛してやまないスポーツを、もっと多くの人に好きになってもらいたい、一般の人にもその魅力を届けたいという気持ちが大きかったです。バスケがバスケ自身で稼いで、その魅力を世の中に広げていく、そういう拡大再生産のサイクルを作らない限りは、いつまでたっても狭い世界のままだと感じたのが大きかったです。
「社員がやりやすい環境を作る側に回りたい」
──藤本社長は「いずれは社長になりたかった」タイプか「気付けば社長だった」タイプか、どちらですか?
常に自分のキャリアよりも、バスケットボールを大きくする、そのステップとしてチームを大きくすることを考えてきました。そのために自分の目線を高めて、いろんなことに取り組んでいたら、自然と社長に任命されたという流れです。「社長になりたい」と意識しながら働いていたわけではないです。
──社長のマネジメントにもいろんなタイプがありますが、藤本社長はどんなやり方ですか?
サーバント型リーダーシップですね。自分がグイグイ引っ張るより組織のメンバーになるべく主体性を持たせて、組織として強くしていくことを目指しています。ブレックスメンタリティーと呼ばれるチームカルチャーとも通じますが、個の力に依存せず組織全体としての強さを高めていき、仮にですが自分が抜けてもちゃんと成長できる持続性のある組織を作っていきたい、という考えです。
トップダウンではなく下から上がってくる意見に対してアドバイスを出し、対話しながら形にしていく。アイデアをなるべく引き出してあげることで、現場に近い彼らがモチベーション高く働けていれば、良いアイデアを出せると思います。それが顧客提供価値の向上にも繋がります。サービスを生み出すのは人なので、「お客様に良いサービスを届けたい」という強い想いを持った社員の人数をいかに増やすかが重要です。なので、もちろん大きな方向性や組織としての価値観は示しますが、私自身はメディアに多く出たりSNS発信するわけではないですし、社員がやりやすい環境を作る側に回りたいタイプで、実際、自分が褒められるより、社員や組織が褒められる方が確実にうれしいと感じます。
──社長に就任した時にはパンデミックの真っ只中です。そこではどんな方向性を打ち出したのでしょうか。
何が正解か分からない状況は本当に難しく、一度はシーズンが中止になって大赤字を出したので、まず短期的には「潰さないで乗り切る」でした。そこはコストカットしかないのですが、コストカットにも2種類あって、一つはBリーグがスタートして右肩上がりの成長期にはコスト管理が緩くなり無駄遣いも発生していたので、まずそこを徹底的に排除しました。
もう一つは「これを削るとチームの価値が下がることになる」という部分で、ここは慎重さが求められます。とはいえ無駄遣いのコストカットだけでは十分ではなかったので、やらなければいけませんでした。例えば演出の部分だと、照明の数を減らしたり、外注していたWEBデザインを内製化したり、そういった工夫は特にコロナ1年目には思い切ってやりました。
「新規ファンを呼び込む努力が足りていませんでした」
──「なんでこのタイミングで社長に……」と嘆く気持ちはありませんでしたか?
それはありませんでしたが、「責任を持ってやらなければ」という覚悟はありました。サイン会やトークイベントなど選手と触れ合う機会が全部なくなる状況で、ファンの気持ちをブレックスにどう繋ぎとめるかを一番考えました。結果、オンラインの接点をできる限り増やすことにして、『VR BREX WORLD』というアプリをファンタスティックモーションと共同開発してトークイベントをやったり、LINEライブもかなり力を入れてやっています。コロナ前までは気付かなかったメリットが出てきている、そんな時代だと思います。
──「潰さないで乗り切る」との言葉がありましたが、潰れる危機感は実際ありましたか?
2020年当初はありましたね。ホームゲーム30試合のうち12試合がなくなり、不安ではなく「このままでは無理だ」と誰もが思ったはずです。次のシーズンは収容制限がかかり、途中で100%に戻るかもしれないと言われていたのですが、結局戻りませんでした。その時も潰れはしないにしても、黒字に戻せるかは正直分かりませんでした。
──Bリーグ自体、2016年のスタートから時間が経過して、「新しいリーグが立ち上がった」という新鮮味はもうありません。コロナの影響も残る中、新B1の基準をクリアする必要もあります。
Bリーグ自体の注目が右肩上がりだった時期と比べれば、確かに新鮮味は少し薄れたのかもしれません。しかし、地元で生活していて「ブレックスが気になるんだよね」という声は増えていると感じています。ですが、気になっているけど実際に会場に足を運ぶアクションに結び付いていない、そのギャップが課題です。
今まで一度もアリーナに行ったことのない人が初めて行くのは、決意が必要ですよね。熱狂的な人ばかりで自分は疎外感を感じるんじゃないか、子供連れでも大丈夫なのか、会場でどう楽しんだらいいのか、バスケのルールが分からない……。いろんな漠然とした不安があると思います。コロナの時期は「50%なら満員になる」という状況で、コロナの冷え込みとは別に新規ファンを呼び込む努力が足りていませんでした。「気になっているけど行かない人」の不安を取り除くアクションを、今シーズンはかなり力を入れてやるつもりです。
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