ドイツ

個人技が輝く、若き才能のぶつかり合い

ユーロバスケット2022、開催国ドイツvsボスニアヘルツェゴビナ。連勝を目指す両チームの対戦は、第3クォーターの悪い時間帯を耐えられなかったボスニアヘルツェゴビナに対し、リズムの悪い時間帯を耐えたドイツが92-82で勝利しました。ドイツが上回ったのは28-11の第3クォーターだけで、ボスニアヘルツェゴビナとしては勝てる試合を落とした形です。

3ポイントシュートが25%と低調だっただけでなく、フリースローが59%しか決まらず、なんとももったいない負け方でしたが、言い換えればシュートの調子が悪くても82点を奪えており、ドイツがインサイドを固めているにもかかわらず、ユスフ・ヌルキッチを中心に強気なアタックは大きな武器でした。上半身裸になって大声を張り上げる無骨なファンの応援も含めて、戦いへの気迫の強さを持っているチームです。

その中で23歳のジャナン・ムサは、途中で右足首を負傷してベンチに下がるアクシデントもありながら、最後まで華麗なアタックを見せ続け、フィールドゴール17本中13本を決めて30得点4アシストと、別格の輝きを放ちました。滑らかな身のこなしでディフェンスの間をすり抜けるドライブもあれば、プルアップ3ポイントも決め、さらにディフェンスの逆を突くカットプレーに、タイミングをずらしたアシストとファイターが集まるチームスタイルの中で、一人だけ別の世界にいるような鮮やかさを見せてくれました。

特にリング周辺でのステップワークとフィニッシュスキルは目を見張るものがあり、ペイントの外から左手でのフックなど華麗なプレーに加え、リングと逆方向へステップを踏み、腕を使ってディフェンスとコンタクトしておき、逆の手でフィニッシュに行くフィジカルなプレーも織り交ぜてきました。19歳で挑戦したNBAでは失敗に終わったものの、スペインリーグで得点王になった実力は本物で、コート上のNBAプレーヤーの誰よりも輝いていました。

ドイツの21歳フランツ・ワグナーは、前半は素晴らしいドライブを見せながらもファウルトラブルでプレータイムが限られました。特にリバウンドの攻防に苦戦してフラストレーションを溜めましたが、後半になるとドイツの勝利を決定づけるプレーで、NBAの超有望株である才能を見せつけました。

ボスニアヘルツェゴビナが固めてきたインサイドでは分が悪いと踏んだドイツは、ハーフタイムを挟んで、ビッグマンのアウトサイドシュートを増やしていきました。この戦術変更に沿うように、ワグナーもステップバック3ポイントを沈めれば、ディフェンスがアウトサイドへおびき出されたのをみて、ゴール下へのカットプレーを決めるなど、ムサ同様にオンボールでもオフボールでも違いを生み出していきました。

22分のプレーに留まったものの18点を奪ったワグナーは、若さゆえの脆さも見せつつ、段違いのポテンシャルを持っていることを示し、最後も3ポイントシュートで試合を決めました。連続得点でラッシュしてきたムサに対して、ワグナーは決めるべき時にしっかりと決め返すことでアンサーしました。

昨年のオリンピックで主力だった選手がベンチから出てくるなど、総合力ではドイツの方が上でしたが、その差をムサの個人能力が埋めていきました。それでも最後にはドイツの若きエースが見事な個人技で振り切り、若き才能のぶつかり合いを制しました。ユーロバスケットらしくチームでオフェンスを組み立てながらも、個人技が輝く見ごたえのある試合でした。