男子日本代表

3ポイントシュートの試投数は1位、成功率は2位

5年ぶりの開催となった『アジアカップ』はオーストラリアの2連覇で幕を閉じた。

日本はベスト8で終了したが、準々決勝ではアジア王者のオーストラリアに対し、富永啓生を主体とした20本の3ポイントシュート成功で最大21点差から9点差まで猛追。最終的には14点差で敗れたが、日本の目指す形で勝負できたことは大きな成長だった。

日本の目指すスタイルは、サイズのなさを克服するためにトランジションとカットプレーからスペースを作り出し、3ポイントシュートの試投数と確率を上げることで、得点効率の良さで相手を上回るというものだ。前任のフリオ・ラマスヘッドコーチは、サイズと個人技量、ディフェンスのスタンダードを引き上げることでレベルアップを図ったが、トム・ホーバスヘッドコーチは東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導いたように、日本人選手の特性を全面に出すことで活路を見い出そうとしている。ただ、オーストラリア戦でここまで3ポイントシュートに振り切ったことには驚きもあったが、同時に、ホーバスヘッドコーチは女子でも同様の試合をやっていたことを思い出した。

2020年2月に開催された五輪世界予選。日本はインサイドの髙田真希を腰痛で欠き、ベルギーに最大18点ビハインド。そこから町田瑠唯と本橋菜子の2ガードを起用し、林咲希の神がかった3ポイントシュート(13本中8本成功、61.5%)で3点差まで迫った。8点差で敗れたものの、37本中17本の3ポイントシュートを決めた(45.9%)この試合をホーバスヘッドコーチは「負けたけれど小さい布陣の『マイクロボール』に手応えあり」と語っていた。ホーバスヘッドコーチはとにかく試すコーチなのである。この試合が大きなヒントとなり、東京五輪で披露した『スモールボール』へと繋がったのだ。

日本はアジアカップでダントツで1位となる1試合平均40.2本の3ポイントシュートを試投し、成功率は41.3%で2位(1位は中国の45.3%)の数字を残した。シリア戦というボーナス試合はあったものの、1試合平均1本以上試投がある中で40%オーバーが6人(確率順に西田優大、井上宗一郎、富樫勇樹、須田侑太郎、佐藤卓磨、富永啓生)というのは驚異的であり、3ポイントシュートを打つ迷いがなくなったことで、『ホーバスバスケ』のスタート地点に立った大会だと言えるだろう。

だが、成長したことを喜んで終わってはならない。大会を通して見ると、依然としてアジアには厄介な国が多く、日本が再現性あるプレーで混戦を勝ち切れるかどうかという疑問は残る。日本には八村塁という切り札や、これから活動する後半組の代表選手が不在だったという見方もあるが、主力が欠場した国はいくつかあり、その中で接戦に持ち込んでいるのだ。今大会のライバル国の奮闘ぶりから、アジアにおける日本の立ち位置を探りたい。

レバノン

厄介な中東勢がアジアで再浮上

大会の話題を独占したのは、2007年以来の準優勝となったレバノンと、2011年以来となるベスト4に入ったヨルダンら中東勢だ。ヨルダンは日本が完敗したイランに走り勝ち、レバノンは中国に競り勝ったうえで、決勝ではオーストラリアをスタミナ切れに持ち込む粘りで2点差まで追い詰めている。

両国の躍進は決して番狂わせではない。もともとレバノンとヨルダンは、2000年代に入って強力な帰化選手を導入して存在感を示してきた国である。一時期低迷したこともあったが、今回のように選手層を揃えて来た中東勢のしぶとさには凄まじいものがあった。それもそのはずで、彼らは現在、ワールドカップ出場が濃厚な位置につけているのだから、アジアカップで真剣勝負の経験を欲していたのだろう。レバノンとヨルダンで目を見張ったのは、帰化選手を含めた各ポジションのバランスの良さと戦い方の上手さだ。両国が破ったイランと中国と言えば、ハメド・ハダディ(218㎝)とジョウ・チー(214㎝)のインサイドが強力だが、レバノンには205㎝超、ヨルダンには210㎝超の複数のインサイド陣とディフェンス力があり、トランジションを織り交ぜる走力があった。またレバノンはワエル・アラクジ、ヨルダンにはダー・タッカーといったクラッチタイムに強いエースを擁していたことも躍進の要因として挙げられる。

ヨルダンに関しては、ベスト8をかけたチャイニーズ・タイペイ戦で敗れてもおかしくはなかったが、ブザービータースリーで逆転勝利を収めたことで、勢いを引き寄せて台風の目となった。3位決定戦ではタッカーとインサイドのアフマド・アル・ドゥワイリの2枚看板が負傷欠場したことで接戦を落としたが、ブザービーターを決めた25歳の司令塔フレディ・イブラヒムといった新しいスターが誕生したのはホットな話題だ。

中国

敗れても地力を持つ中国と韓国

東アジア勢がベスト4から消えたのはアジアカップ史上初めてのことだった。しかし、それでも強力だと思わせたのが中国と韓国だ。今回はアクシデントをチーム一丸で乗り越えることはできなかったが、それでもあと一歩でベスト4をつかめるほどの接戦を展開していたことに、地力があることを証明した。特に中国は、7月上旬に開催されたワールドカップ予選Window3において、今大会よりも選手層が厚かったオーストラリアに対して1戦目で接戦に持ち込んだことからも、優勝候補の一角であったことは間違いない。だが、Window3後にコロナ陽性者が多数出たことで、メインのポイントガードとインサイドの数人を大会直前にエントリー変更しており、NBAサマーリーグには3名の選手を送り込んでいる。

それでも、半数の主力が残ったことから杜鋒ヘッドコーチは、「アジア王者を目指す」と目標を掲げて臨んでいた。それほど、2019年の自国開催のワールドカップで決勝トーナメント進出を逃した失望からの再建にかけていたのだ。準々決勝でレバノンに屈したのはガード不足によるゲームコントロールに差があったことは歴然だが、200cmのシューターが台頭するなど、駒不足の中で見えた好材料もあった。

韓国もガード不足に陥った。オープニングゲームで中国との決戦を制し、グループラウンドを3連勝で終えた後、よもやのアクシデントに見舞われた。司令塔とシューターに負傷者とコロナ陽性者が出て2名が欠場。そこに来て、準々決勝のニュージーランド戦ではテクニカルファウルによる退場者を2人も出したことで、ポイントガード2人を含む4人の主力を一気に失って逆転負けを食らった。退場者を出したのは失態であるが、現在の韓国は、200cm前後のサイズを持つ選手が多いことから『フォワードバスケ』と名付けたオールアウトの戦法に取り組んでいる最中だ。今回は選出されなかったが、NBAドラフトにアーリーエントリーしたシューターに、U19ワールドカップの得点王といった、昨年の代表ですでに活躍している若き200cm台の選手もいる。今後、フォワードバスケを練り上げる必要はあるが、ポイントガードが健在ならば、やはり手強い相手である。(ただし、韓国はコロナの影響でワールドカップ予選を4試合辞退したことで失格となっている)

男子日本代表

42名のトライアウト中。日本の今後は?

アジアのライバルたちは、サイズを生かしながら一歩先を行く駆け引きを展開しており、アジアを勝ち抜くことの難しさを痛感する。日本の場合、イラン戦のように対策を練られると、高さの攻防でミスマッチを突かれ、相手の土俵で戦ってしまう課題も残った。現状では、粘って接戦を勝ち切るようなゲーム経験があまりにも不足している。ものすごくポジティブに考えれば、ペイントエリアの得点とリバウンドが課題でも、オーストラリアから85点を奪うことができた。渡邊雄太が健在ならばペイントアタックもあり、張本天傑にもカットプレーが出てきている。ならば、やらなければいけないのは失点を抑えるチームディフェンスの強化である。

直近の目標は「来年のワールドカップで(オセアニアを除く)アジア1位となり、パリ五輪の出場権獲得」であることは発表されている。経験を持つアジアのライバルたちを超えなければならず、時間はない。後半組の代表活動を含め、この夏で大方のトライアウトを終え、主軸を固めてチームを機能させていく段階に移行しなければならないのではないだろうか。