新たな得点源、サイモンが琉球の堅守を打ち破る
10月17日に向日市民体育館で行われた京都ハンナリーズと琉球ゴールデンキングスのワンデーマッチ、琉球がほとんどの時間帯でリードし、京都にとっては追いかける展開が長く続いた。京都が逆転した後も、次の展開がどちらに転ぶか全く予想のつかないクロスゲーム。40分間のどの部分が勝敗を左右したのか分かりづらい大混戦だった。
試合後の伊藤達哉は勝敗を分けたポイントを問われて長く考え込んだが、結局のところ結論は出せなかった。それでも「1試合を通して気の抜けないタフな試合になりましたけど、チーム全員でつかんだ勝利だと思います」と笑顔で試合を振り返った。
94-89、京都が大混戦を制した上でのポイントはいくつかある。まずは第1クォーター、ジュリアン・マブンガが個人ファウル2つでベンチに下がった後、難しいローテーションを強いられながらチーム一丸の奮闘で喰らい付いたこと。ここで踏ん張ったおかげで、前半ラストに橋本竜馬、ジェフ・エアーズの3ポイントシュートを立て続けに浴びながらも40-48と1桁のビハインドで後半に繋ぐことができた。
その後半にはディヴィッド・サイモンの得点ラッシュがあった。前半にも13得点を稼ぎ出していた新加入のセンターには、後半にはさらにボールが集まる。当然マークは厳しいのだが、難しいターンアラウンド・ジャンプシュートも次々に決めてトータル34得点。フィールドゴール20本中15本成功、フリースローも5本中4本と高確率でシュートを決め続けた。当たっているサイモンを強調しながらも、彼ができるだけ楽な形でシュートまで持っていけるようにパスを出し、またシューターが外のポジションにきっちりと走ることでサイモンが勝負しやすい形をチームとして作り出した点も見逃せない。
琉球を率いる佐々宜央としては、「チームとしてズレを作られた時にどう守るかが練習通りに全然できていない」と、サイモンにやられたこと以上にアウトサイドの抑えが効かなかったことを課題に挙げた。相手のエースにある程度やられるのは想定内だとしても、サイモンを意識するあまりチームのディフェンスルールを守れずに決められた3ポイントシュート、このやられ方が悪かったと悔やむ。後半5本浴びた中でも最大のものが、残り1分半で岡田優介に決められた逆転の一発。これが会場を沸かせ、限界ギリギリで戦っていた京都から『最後の力』を引き出した。
後半になって確率を高めた3ポイントシュート
後半にサイモンを強調したのには、彼自身が当たっていたこと以外にも理由がある。京都は前半に18本の3ポイントシュートを打っていた。「このままだと1試合40本の3ポイントシュートを打つチームになってしまう。それでいいのか」とハーフタイム、浜口炎ヘッドコーチは選手たちに問いかけた。京都のスタイルはバスケットへアタックすることが生命線、いくら良いシューターを擁していても、アタックする姿勢を忘れるな、ということだ。
後半の3ポイントシュート試投数は9本へと減少。それでも打つべきシチュエーションを見極めて打つことで、前半の18本中4本成功から、後半は9本中5本成功と確率は格段に上がった。そしてバスケットへアタックする意識を強めたことで、前半は6つしかなかった琉球のファウルは14へと増え、試合を通じて25本中21本を決めた京都のフリースロー成功率の高さが重みを持つことになった。
サイモンが勝負しやすいシチュエーションをチームで作り出したこと。それによりアウトサイドに生まれるチャンスを、セレクション良く打って決めたこと。さらにはマブンガの活躍も見逃せない。第1クォーターにはファウルトラブルでチームに迷惑をかけたが、後半に挽回。昨シーズンよりもさらにオールラウンドなプレーをするようになり、しばしば伊藤に代わりポイントガード役も務めた。試合を通じて12アシスト。まだ5試合しか経過していないとはいえ、平均10.2アシストはリーグトップを独走する数字だ。
また、勝負どころでの守備も見逃せない。88-86と1ポゼッション差の残り52秒から、チーム全員で24秒バイオレーションをもぎ取った。これで琉球はファウルゲームをせざるを得なくなったが、フリースローが当たっている京都は危なげなく逃げ切った。
「全員がダシツクして、タフなゲームを勝てた」
「全員がダシツクして、タフなゲームを勝てた」と浜口ヘッドコーチは試合を振り返る。「ジュリアンの3ポイントシュート、サイモンの1on1など個人の実力で勝っている面もあるので、これから相手が対応してきた時にはまた何か考えないといけない」と課題を挙げつつも、チーム作りが遅れたまま開幕を迎えたにもかかわらず、初戦を落とした後は4連勝という現状に「意外とできている」と頬を緩ませた。
勝敗のポイントは……とボックススコアを眺めて「ウチのマジックナンバーは25です」と話す。これはフリースロー試投数が25を超えたら勝てる、という意味。奇しくもこの試合で京都がもぎ取ったフリースローの数は25ちょうど。インサイドの強みを強調し、そこを起点とするオフェンスを展開する、プラン通りのバスケットを大混戦の中もしっかり遂行できた結果だ。
昨シーズン、その攻めの核になったジョシュア・スミスは退団したが、サイモンはそれ以上のタレント。韓国KBLを席巻したベテランセンターは、その得点能力だけでなく、チームのアップテンポな展開についてく足、38分のプレータイムにも「問題ない」と言い切る献身的な姿勢で、京都の大きな力になっている。
もともと接戦に競り勝つ精神的なタフさには定評のある『逆転の京都』だが、「琉球は確実に優勝を目指せるチーム。そんなチームを相手にホームを守れたことは自信になる」と浜口ヘッドコーチは言う。まさにチーム一丸の勝利、長いシーズンの先に繋がる勝利となった。