多嶋朝飛

取材=鈴木栄一 構成=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、©LEVANGA HOKKAIDO、B.LEAGUE

昨シーズンのレバンガ北海道は大きな飛躍を遂げた。激戦の東地区で堂々たる戦いを見せ、長らく勝率5割をキープ。ラスト13試合で2勝11敗と失速してチャンピオンシップ進出を逃したものの、内容的にはBリーグ1年目から大きく上積みする充実のシーズンだった。ホップ、ステップ、そしてジャンプといきたいBリーグ3年目、新ヘッドコーチにブラジル人のジョゼ・ネトを迎えて、チームはさらなる高みを目指す。このチームで3年目のキャプテンを務める多嶋朝飛に、勝負のシーズンに向けた意気込みを語ってもらった。

「不安もありますけど、期待感も同じぐらいあります」

──開幕1カ月前の9月6日に北海道胆振東部地震が起き、アーリーカップの参加を断念するなど、プレシーズンの練習には大きな影響があったと思います。チームの現状はいかがですか?

震災の影響で練習ができない時期はありましたが、コーチが求めていることをチーム全員で体現しようと一生懸命に準備している段階です。他のチームがいつから始動しているのか分かりませんし、ウチも早いわけではないとは承知しているんですけど、コーチが誰であろうと自分たちが昨シーズンよりレベルアップするためにオフシーズンを過ごしてきました。

そして新しいヘッドコーチとストレングスコーチが来て、やることも変わって、慣れるのは大変だし今は必死でついていっている状態です。もちろん厳しいし、怒られることもたくさんありますが、「自分たちが良いプレーをしたい」としている部分についてはすごく褒めてもらっています。「褒める」という表現が正しいかどうか分からないですけど、「それが良いんだ」としっかり伝えてくれるコーチなので、自分たちが求められていることをしっかり理解して、それを体現していく上で不安もありますけど、期待感も同じぐらいあります。開幕までにまだまだ積み上げるものはたくさんあるので、そこは期待ですね。

──新しいヘッドコーチを迎えましたが、主力メンバーは変更がありませんでした。その部分は新シーズンを迎える上での自信になっているのでは?

そうですね。マーク(トラソリーニ)が残ってくれたのはチームにとって大きいです。彼の良さはチームメート全員が分かっていて、そこが中心になってくると思います。あとは今のバスケットにどう合わせてアジャストしていくか。新加入の選手も含めて全員がレバンガとしてチームになることです。誰がどういう組み合わせで出ても、しっかり自分たちのプレーができるように。簡単なことではありませんが、練習からしっかり良い準備をしていきたいです。

多嶋朝飛

「身体をガンガンぶつけてフィジカルに戦うのがベースに」

──ヘッドコーチが交代したことで、レバンガのバスケットにはどんな変化がありますか?

今までとは違ったことが求められています。バスケットボールをやっている限り、ディフェンスを頑張るとかファストブレイクを狙うとか、大きく変わらないものはありますが、コンセプトだったり細かなルールは少しずつ変わっています。そこでコーチの求めるレベルまで自分たちが持っていくことができるか。今はトレーニング量もすごく増やして身体の変化も得ているので、フィジカル面や身体能力の面で昨シーズンとはまた違ったものを見せられると思っています。

昨シーズンまでもディフェンスは一生懸命やっていたし、オフェンスはボールと人が常に連動性を持つよう心掛けてやっていました。それでも今シーズンからの変化としては、身体をガンガンぶつけてフィジカルに戦うのがベースになります。コーチはいつも「ハッスルチームを目指す」と言っていますが、やはりルーズボールやリバウンド、ディフェンスに表れるので、まずそこを自分たちのパフォーマンスとして出していきたいです。

ブレイクのコンセプトもちょっと変わりました。ハーフコートのオフェンスでもフォーメーションで解決するより、流れでディフェンスを読むとか、周りのプレーヤーの動きを読むといった連動性を求められていて、そこは今まで決まった形のものを遂行するより難しいです。

──そこが変わるとポイントガードとして意識することもかなり変わってきそうです。

今までの自分はコントロール重視で、誰が出ているから、じゃあこのコールをして、という形に当てはめて、それを突き詰めていく感じでした。ですが今シーズンのオフェンスには、自分がこう動くからチームメートがこう動いて、ではなく、スペースを広く取ってインサイドを狙ってピック&ロールするようなシンプルなことが多いんです。

自由度が増す中で自分が「今は止めるのか」、「行くのか」という部分であったり、流れを読んでコートで指示を出すことをある程度は任されています。そこはコーチが考えていることを練習中から意識して、「今コーチは何を求めているのか」を考え込むことなくスムーズに出せるようにしたいです。今はまだ「おっ、どうする?」と止まってしまうことがありますが、そういった時に自分がシンプルなオフェンスをコールして打開しなきゃいけない。そうすればチームメートも迷うことなく思い切りプレーできると思うので。

そこで気負うわけじゃないんですけど、責任感を持ってやろうと考えています。コーチは自分がリングに向かってプレーしないことをすごく怒るので、タイミングは見ながらですけど、しっかりリングを見てプレーして相手の脅威になりたいですね。

多嶋朝飛

「どんな時でも成長をあきらめず、前を向いて」

──相変わらず東地区は強豪揃いです。チャンピオンシップ出場は簡単ではありませんよね?

今シーズンは過密日程なのでどこまで練習で追い込めるか分かりませんが、試合を通してでも常にチームとしても個人としても成長できるように、そうやっていった結果がチャンピオンシップ出場になり、その先の景色になるんだと思います。

もちろん簡単なことではないと理解はしています。自分たちがやらなければいけないことはすごく多いのですが、まずは相手のチーム名や選手の名前、代表選手だとかMVPだとか関係なく、どの試合でも自分たちが主導権を握って、自分たちがコントロールする気持ちでやることです。

コーチもそれを求めているし、そういった難しいこともやってみせるという手応えを持ってシーズンを迎えられるようにやっています。今はまだ準備段階ですけど、少しずつですがチームとして「こうしていくべきなんだろうな」というのが見えてきました。そこを突き詰めれば、もっともっと違ったレバンガを見せられるはずです。

──3年目の開幕に向けた今の心境を教えてください。

これまで強豪と言われるチームではなかったし、優勝を義務づけられるようなプレッシャーはないんですけど、「やってみないと分からない」という期待と不安がある中で戦うことを積み重ねてきました。そこで積み上げた経験や自信は、シーズンでもし何かあった時とか、大事なところできっと出てくると思っています。勝って喜んだり、負けて悔しがったり、それはシーズンを通して何度も出てきますけど、どんな時でも成長をあきらめず、前を向いてやり続けます。それができれば昨シーズン以上のものを必ず残せる、それをまず信じてやっていきたいです。まずはそこだけ意識して、先のことは考えずに集中したいと思います。

震災があって、被災された北海道の方々に僕たちがバスケットボールでどれだけのものを与えられるかと言ったら、微力だと思うんです。それでも自分たちにはコート上で精一杯のプレー、ひたむきな姿を見せられるし、ブースターの方々と喜んだり楽しんだりする時間を共有できます。コート外の活動ももちろんですが、開幕が迫っている今は良い姿を見せるための準備をするのが一番だと思います。もちろん、勝ってみんなで喜ぶ回数を多くするにこしたことはないんですけど、北海道の皆さんはたくさん試合に来てくれて、たくさん声援をくれるので、そういった方々と一緒に戦っていきたいです。