Bリーグでは新シーズンから『アジア特別枠』が導入される。中国、韓国、チャイニーズ・タイペイ、フィリピン、インドネシアの5カ国の選手を対象に、帰化選手と同じ枠での登録、起用が可能となる。これまで各チームの編成では帰化選手枠をどう活用するかが重要だったが、これから選択肢が増えることで競争力アップに繋がりそうだ。日本バスケの『国際化』は、競技力向上にもビジネス拡大にも大きな意味を持つ。今回はそのキーマンとなる葦原一正(日本バスケットボール協会理事)、斎藤千尋(Bリーグ国際グループマネージャー)に話を聞いた。
「日本バスケ界は環境も整っているしアジア各国から注目されている」
──新シーズンからBリーグでは『アジア特別枠』が導入されます。まずはそもそもの話として、Bリーグが『国際化』に力を入れる理由を教えてください。
葦原 2016年にBリーグが立ち上がり、東京オリンピックまでのフェイズ1は国内基盤強化がメインでした。お客さんが入っていないところからスタートして、B1では7割から8割の収容率となって、次を見据えた展開の一つが国際化です。アジアは距離的に近いだけでなく、世界のGDPを見ても大きな地域で、バスケ人気も総じて高い。そのアジアの中でBリーグが最高峰のリーグでありたい、世界で見てもNBAに次ぐグループにいたい、という思いがあります。最高峰の定義はいろいろ考えられますが、市場規模はもちろんですし、バスケットボールのレベルでもアジア各国が目指すものでありたい。日本バスケ界は環境も整っているしアジア各国から注目されている。だったら交流を促すために、来やすい環境を作るべきだろう、という考え方です。
斎藤 八村塁や渡邊雄太がNBAに挑戦している今の時代において、国際化を複合的に進めたいというのが私たちの考えです。日本が一方的にアジアの国から選手を取ってくるのではなく、行き来できるようにしたい。トップの選手だけでなくユースの交流も広げ、ビジネスも一緒にやりたいです。グローバルな思考を持たないと、そこそこのレベルで成長が頭打ちになります。国際化の目的は市場拡大だと見られがちですが、私個人としては手段に過ぎないと思っています。バスケ界全体でフィジカルもマインドもグローバルを意識して、より成長していきたいと思います。
──中村太地選手が韓国KBLへ挑戦します。アジア各国のリーグの中でも、韓国との交流は最も進んでいるように見えます。
葦原 そうですね。Bリーグの法人設立は2015年で、そこからすぐにKBLを訪問しました。2016年にはKBL事務局長、各クラブの実務トップがみんなNBLプレーオフの視察に来て、そこから意見交換が活発になりました。Bリーグ1年目のオールスターの前日に東アジアクラブチャレンジカップを開催し、川崎ブレイブサンダースと安養KGCがクラブの日韓戦を戦っています(上写真)。大会はその時の1回限りになってしまっていますが交流は続いていて、ユースの交流も行われるようになりました。KBLは歴史こそ長いのですが、彼らには成長という面で停滞感もあるようで、そういう意味で日本の新しいリーグにすごく興味を持っています。一番深い議論ができている相手なので、今回最初に移籍が成立したのだとも言えます。
──今回、中村太地選手の移籍に際して、皆さんから実現に向けた後押しはあったのですか? またBリーグにアジアの選手が来る動きは?
葦原 リーグの仕事はあくまで制度設計で、獲得に動くところはコントロールしません。新型コロナウイルスの影響もありますし、すぐにアジア特別枠を活用してほしいという焦りはありません。2023年には沖縄でワールドカップの開催もありますし、数年かけて進んでいけばいいと思います。
──アジア特別枠はあくまでBリーグの話で、相手のリーグからすれば登録枠、移籍金など問題が出てくると思います。
斎藤 韓国では年俸がすべて公開されていて、ドラフトとサラリーキャップの制度がしっかり決まっています。年俸で上位30人に入る韓国人選手が移籍する際には移籍金が発生します。同じように日本への移籍にも移籍金が発生するとなれば、なかなか進まないとは思いますが、ここはKBLと協議する中で先方のコミッショナーの理解もあり、移籍金は発生しないことになりました。
葦原 このケースだと選手を日本に行かせないために、海外に行ったらKBLに戻れないルールを作るようなことになりがちです。昔で言う野茂英雄のMLB挑戦のケースですね。そうならないためにもKBL関係者とは何度も会って、日韓の人材交流がお互いのリーグにメリットになるとの共通認識を作りました。KBLにとっては勇気ある決断ですが、彼らも成長が頭打ちになっている現実があり、アジアのバスケットボールを盛り上げる必要性を感じています。そこでどの国と本気で向き合うかを考えると、日本になっているのだと思います。
「収支が成り立ってるリーグは、世界を見てもほとんどない」
──Bリーグが国際的に注目されている理由を教えてください。どの部分がポジティブに見られているのでしょうか。
斎藤 NBAに次ぐグループという話が出ましたが、ヨーロッパだとまずスペイン、次がドイツ。ユーロリーグに出ているクラブは別格という感じがあります。オーストラリアも競技レベルが高く、NBAでプレーするオーストラリア人選手も多いですよね。ただ、スペインリーグでも各クラブは赤字体質で、世界のどこを見ても親会社に依存しているのが現状です。これからの時代はサステナブルかどうかが問われてきます。Bリーグは今年はちょっと難しい部分がありますが、どのクラブもお客様からチケット代をもらい、企業からスポンサー料を集めて運営している。収支が成り立って経営的に自立しているリーグは、世界のあちこちを見てきましたがほとんどありません。当たり前のようであっても、当たり前じゃないんです。スペインでもオーナーが毎年のように入れ替わります。投資の形態の一つと見ることもできますが、バランスは良くないですよね。
葦原 いろんな国の人たちが「どうやっているんだ!?」と驚き、何か秘密があるのだろうと質問しますよ。ですが、各クラブが頑張って真っ当な経営を作っただけなんです。たった4年間のリーグですが『Bリーグ・ウエイ』のようなものは存在するので、アジア各国のクラブに共有していきたいですね。
──Bリーグにアジア特別枠ができ、各国で選手の交流が増えていった数年後には、どんなことが起こるのでしょうか?
葦原 選手が行き来することで刺激が生まれます。KBLが第一号になりますが、台湾もフィリピンもバスケ熱はすごいですから、日本の若い選手が海外で良い経験を積んで、またBリーグに戻って来てもらいたいです。アジアの選手を一方的に取るつもりはないと言いましたが、そこは競争になりますから、Bリーグの顔と呼ぶような選手の移籍も起こるかもしれない。でも、それをタレントの流出だとは思わず、彼らが戻りたいと思うちゃんとしたステージを作るのが大事です。
斎藤 今はアジア特別枠の対象となるのは5カ国ですが、実際はあと何カ国か対話はしています。そういった国からも代表クラスの選手が来てくれて、アジアでBリーグが人気になってくれればいいですね。
葦原 そこはBリーグの各クラブにも新たな刺激となるはずですし、各国で刺激し合えばレベルは上がります。選手年俸で負けて選手を取られるのであれば、負けないように稼げばいい。そこはブレずにやっていくべき。新しい選手が来ることで新しい化学変化が起きて、バスケのレベルは上がっていくはずです。
斎藤 またU15では日本と韓国のクラブが大会に招待されていますし、ユースの選手たちの交流も今後さらに進むはずです。若い選手が日本以外の環境を知るのも大事です。
葦原 将来的にはグローバルレベルのクラブコンペティションができるでしょう。各国リーグのトップのチームが出場する大会です。そこにはNBAのチームも参加するかもしれません。そのためには整備することがたくさんあって、まずはアジアでの人材交流が進み、アジアでのクラブコンペティションを成立させることが大事になります。私としては、日本のバスケ好きがNBAにあこがれるように、アジアにおいてBリーグがそうなりたい。Bリーグだけが良くなればいいのではなく、環境面で恵まれていない国もたくさんあるので、アジアで一体となって新しい可能性を追いかけたいです。アジアのどこかの国に仕事で行った時に、現地の子供がBリーグのチームのウェアを着ている、そんな瞬間を早く見たいです。
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