文・写真=泉誠一

長きに渡ってヘッドコーチや主力選手が変わらぬシーホース三河や川崎ブレイブサンダースは、チームカラーがハッキリしている。一方で、その方向性がヘッドコーチによって様変わりするチームも多い。チームカラーをパッと思い浮かべることができるクラブはどれほどあるだろうか。

ヘッドコーチ交代、主力が抜けても変わらぬスタイル

旧JBL時代から長きに渡って『ディフェンスのチーム』と呼ばれ続けているのがサンロッカーズ渋谷である。2012-13シーズンに小野秀二(現アースフレンズ東京Zアドバイザー)が退任して以降、5シーズンで4人もヘッドコーチを交代している。核となるような選手が長年在籍しているわけでもない。ベテランの広瀬健太は休部となったパナソニックトライアンズから2013-14シーズンに移籍してきた。在籍6年、一番の古株である満原優樹に至っては、「過去5年間は暗黒時代だった」と自虐的に話すほど主力として起用されてきたわけでもない。

そんな安定感のないSR渋谷だが、その印象は今も昔も『ディフェンスのチーム』なのだ。今シーズンは前節で千葉ジェッツに敗れるまで10連勝を挙げていた。その要因として、「安定しているディフェンスができれば勝てる」と満原は自信をうかがわせている。

ではなぜ、コロコロとヘッドコーチが変わり、エースが簡単に移籍するようなクラブにもかかわらず、同じスタイルを貫けるのか? 今シーズン、アシスタントコーチから昇格した勝久ジェフリーヘッドコーチにこの疑問を率直にぶつけてみた。「ヘッドコーチが誰であってもまずはディフェンスを第一に考え、そこから走るバスケットスタイルというビジョンがクラブのフロントサイドにあり、そのことを最初に示されました。私の考えとも一致していますし、大事なポイントです」

一貫した強化方針があれば、リクルートも明確に

いくら優秀な選手がいても、チームとして機能しなければ勝つことはできないのがチームスポーツだ。選手のためにチームがあるわけではない。チームのために選手はある、とはスポーツの決まり文句でもある。SR渋谷の試合を見れば、誰が出ても変わらずに全力でチームのためにハッスルしていた。

「気持ちが強く、常にチームのために貢献できることを考える選手たちが集まっており、実際にプレーで示してくれることで、チームメートにも良い影響を与えてくれています」と勝久ヘッドコーチは評価している。10連勝を挙げた12月9日の千葉戦ではコートに入った瞬間からすべての選手が身体を張っていた。プライドが高いであろう元NBA選手のロバート・サクレやジョシュ・ハレルソンであっても、ダブルチームでプレッシャーをかけるディフェンスは見ていて気持ちが良い。

チームの強化方針が明確だからこそ、新たに獲得する選手も納得させられる。今シーズンより獲得した山内盛久、菊池真人、得点での貢献が際立つ長谷川智也に至ってもディフェンスがベースにある選手たち。山内は前線からプレッシャーをかけ、いつでもスティールを狙っている。191cm94kgの菊池は「ここに来たのもディフェンスが評価されたからだと思っています。オフェンスよりもディフェンスで頑張らないとプレータイムももらえない」とそのやるべきことはハッキリしている。今ではSR渋谷のスターターに起用されるまでの信頼を勝ち取っている。

数字に表れない仕事を大事にすること

『ディフェンスのチーム』と呼ばれることに対し、広瀬は「チームスピリッツとして残していかなければいけない大切な部分」と言っていた。一方、「特に意識したことがなかった」と話す満原にしても、「言われた以上はチームのスタイルとしてがんばらなければいけない」と勝久ヘッドコーチの教えをしっかり守り、6年目にしてようやくその実力を発揮し始めている。

現在B1東地区の失点数を見れば、1453点のSR渋谷が一番少ない(B1全体では西地区1位の琉球ゴールデンキングス:1385点)。スティールやディフェンスリバウンドこそあれ、なかなかスタッツとして現れないのもディフェンスである。だからこそ勝久ヘッドコーチは、「数字に表れない仕事を大事にすること」を徹底させていた。

ディフェンスやコート上だけではない。ロッカールームでの声がけやベンチでの振る舞いなど、スタッフも含めた全員が同じベクトルでチーム力を向上させている。ケガ人が続く不運に見舞われているSR渋谷だが、チームワークと伝統のディフェンス力でこの窮地を乗り越えていくことだろう。

強化方針がしっかりと固まっているクラブは、簡単には崩れない。仮に崩れたとしても、道標がある分、再建にも時間はかからないはずだ。集客やスポンサー獲得に勤しむビジネスオペレーションと、チームの強化を担うバスケットボール・オペレーションの両輪が同じように動いてこそ、クラブは前進できる。10連勝を挙げた日のホーム青山学院記念館は立ち見が出るほど盛況だった。

来春から本格スタートするU15ユースチームにも同じく『ディフェンスのチーム』を柱とすることで、未来のSR渋谷を担う即戦力の誕生が楽しみでもある。