8月15日の片柳アリーナ。『バスケットボール女子 U24 4ヵ国対抗』の試合が行われる前のコートでは、女子日本代表スポンサーの三井不動産による『バスケットボールアカデミー』が行われ、約60名の子供たちと一緒に女子日本代表の大﨑佑圭と宮澤夕貴がボールを追っていた。アカデミーを終えた2人に気持ちを切り替え、アジアカップを振り返ってもらった。
「難しい」と感じた大﨑、「勝てる」と感じた宮澤
日本代表は2013年、2015年に続きアジアカップ3連覇(アジア選手権時代を含む)。それでも今回は、オセアニアからFIBAランキング4位のオーストラリアが新たに参戦した。アジア最高位(10位)の中国よりも上、大﨑は「オーストラリアが入って、どんな感じだろうって手探り感はありましたね」と言う。
結局、そのオーストラリアが一番の難敵となった。グループリーグ最終戦では接戦に持ち込むも敗戦。結果的に、決勝での再戦に勝ってアジアカップ優勝を決めたのだが、最初の試合に敗れた時点で「やっぱり勝つのは難しいなと感じました」と大﨑は正直な気持ちを明かす。大﨑に言わせれば、決勝で勝てたのは勢いの部分も大きいとのこと。「中国戦でワーッと勢いが付いて、それで行けるかなと思いました」
一方、宮澤は逆の印象を持っていた。「WNBAでプレーしている選手がいない時点でチャンスはあると思いました。1試合目も『勝てる』という感覚です。負けてしまいましたが、決勝で当たったら次は絶対勝てるという自信はありました」
今大会、宮澤は4番(パワーフォワード)でプレーした。大﨑は不動のセンター。フロントコートでコンビを組んだ2人は、国際試合でのサイズの差に直面しながらも、しっかりと勝利に貢献した。サイズとパワーに差がある以上、マッチアップで負けるのは仕方のないこと。重要なのは「どれだけ踏ん張るか」。1on1でやられて気持ちが折れるのではなく、相手を少しでも邪魔して踏ん張ることがチームへの貢献になる。
「それこそ私のポジションはそうです」と大﨑。「だから、自分はどれだけ相手の点数を抑えられるか、相手を嫌がらせるか。特に前回のオリンピック予選からすごくそういうイメージが強くなりました。国際試合でのディフェンスはうまくなっていると思います。このタイプの選手はこう守ると嫌がるなとか、そういうのは頭に入っています。トム(ホーバス)も細かく教えてくれるので、いろんな守り方ができるようになりました」
宮澤はスモールフォワードでプレーすることも多く、「ぶつかられるのは嫌いなんですよね」と苦笑するが、試合となればそうも言っていられない。「ポジショニング一つだったり、数字に残らない部分で守ることを今回は意識しました。一つコースを締めることで相手がドライブできなかったり、中にパスできなかったり。そうやって相手を嫌がらせることができたと思います」
宮澤はリオ五輪の1年前から「5倍ぐらい」と自信を伸ばす
「普段の練習から、そういうプレーを『徹底』してますから」と大崎は言う。
この『徹底』というのが、トム・ホーバスの流儀だ。宮澤は言う。「以前は海外の選手と対戦すると、リバウンドで負けそうだったらチップしろと指示されていました。それがトムさんになってから『絶対にリバウンドで負けちゃいけない』と徹底されました。ボックスアウトでも『フィジカルで相手を止めろ!』ですから、ワンランク上のことが求められています」
2人が所属するJX-ENEOSサンフラワーズは、昨シーズンにホーバスヘッドコーチ(当時)の下で全勝優勝を成し遂げている。優勝を決めた時に、選手たちは口々に「トムとの戦いでした」と語っていた。大﨑は「練習は本当にキツい。練習がキツすぎるので、試合で怖いことなんかないんです」と話す。
だが、アジア3連覇は半端な成果ではない。男子へと目を向ければ、Bリーグで切磋琢磨した選手たちが必勝を期してレバノンへと乗り込んだ。健闘はしたし、見るべき向上はあったが、結果としてはベスト8入りも果たせず大会を終えている。勝つために努力する、というアプローチは同じに見えるが、勝者と敗者の差はどこにあるのだろうか。
大﨑はホーバスの言葉を引用してこう説明する。「トムはいつも『どのチームよりも自分たちはキツい練習してきたし、どのチームよりも仕上がっている』と言います。実際にそれだけの練習をしてきたと自分たちも分かっているので、『よし!』という気持ちが作れます」
それだけではなく積み重ねがあってこその成果だと大﨑は言う。「それで今こうやって結果を残せているんですけど、ロンドンのように、目の前にオリンピックがあるのに勝ち切れず、2本3本のリバウンドを取れずにオリンピックを逃しました。その経験の強さがあります。もちろん3連覇しているんですけど、最初から勝てるチームじゃなかったよ、というのはあります。今も『あの悔しい思いだけは絶対したくない』というのが私の中にあるんです」
では、ロンドンの悔しさを経験していない宮澤はどうだろうか。「やっぱり自信ですかね。一人ひとりが自信を持って、仲間を信じてプレーすることがチームを強くします。今回のアジアカップは、それを感じた大会でした」
宮澤はリオ五輪を戦った1年前と今の『自信』を比較して、「全然違いますね、5倍ぐらいになりました」と断言した。これについて大﨑はこう補足する。「その自信は試合に出ることで得ていくものです。代表にいても全然試合に出ていない時期が自分にもあったんですけど、やっぱり試合に出ないと目の色は変わってこないので」
『2020』にメダルを取るために「負け癖を付けないこと」
準決勝で中国を、決勝でオーストラリアを破った。渡嘉敷来夢が不参加だったことに加え、吉田亜沙美のケガというアクシデントがありながらもアジアを制し、女子日本代表は順調すぎるほど順調に2020年へと歩みを進めている。そこに死角はないのだろうか? そう問うと、大﨑はしばし考えた後に「海外に対して負け癖を付けないこと。勝ち癖を付けるというより、負け癖を付けないことがすごく大事です」と答えた。
「どんなに相手が強くても『やっぱりこのチームには勝てないや』じゃなく、とにかくどの試合も勝ちにいって、自分たちがそのレベルに入っている意識付けをすることです。以前は強いチームを相手にすると『さすがに勝つのは無理だ』とか、そうでなくても『自分たちのバスケをどれだけやれるか』と考えていました。でも今の日本代表はそのレベルではないと思っています。3連覇で東京に向けた最初の土台はできたので、そこからしっかり上積みを作っていきます。どんなチーム、どんな選手が相手でも『負けて仕方ない』ではなく、結果に真摯に向き合うことです」
また宮澤は「普段から国際試合を意識しようと思います」と言う。「個人のレベルアップはもちろんですが、まずは身体を強くしなきゃいけない。フィジカルで当たってバランスが崩れて、シュートを入れられる場面がすごく多かったので、まずは一人ひとりが海外を意識して、リーグ中からそういうプレーや身体作りをしていくのが大事だと思います」
勝って驕らず、負けて腐らず──。女子日本代表の強さが垣間見える内容だと言っていいのではないだろうか。