「泥臭い部分で絶対に負けないことを意識していました」

島根スサノオマジックは12月20日、川崎ブレイブサンダースとのゲーム2を72-69で競り勝ち、前日に敗れたリベンジを達成した。この試合、島根は白濱僚祐が脳しんとうで欠場、ジェームズ・マイケル・マカドゥもベンチ入りはしたがプレーせず。主力2人を欠く苦しい台所事情の中、前から仕掛けるディフェンスで主導権を奪い、終盤にプレー強度が落ちてしまったものの川崎の猛追をなんとか食い止めて逃げ切った。

この試合、島根の介川アンソニー翔は、15分32秒出場で5得点2リバウンド1ブロック1スティールを記録。マカドゥ欠場を受け、控えのビッグマンとして見事な繋ぎ役を果たした。介川は、自身のプレーをこう振り返る。

「いつもなら3番ポジションがメインで、少し4番をやるのが、今日はマック(マカドゥ)がいないことで4番がメインになっていました。サイズのミスマッチはありますが、とにかく自分からフィジカルに相手の外国籍ビッグマンに当たっていく、あとは泥臭い部分で絶対に負けないことを意識していました。そしてスピードはこちらの方が上だと思ったので速攻で走ったり、ルーズボールの取り合いで勝とうという意識は高かったです」

介川は開志国際3年時にエースとしてウインターカップを優勝、専修大でも1年から主力として活躍すると、大学2年目のシーズンを終えた昨年12月にプロ契約を結んで島根に加入した。だが、昨シーズンは故障もあってわずか6試合の出場にとどまり、今シーズンも開幕1カ月は出番が皆無だった。それがバイウィーク明けとなる12月からは安定したプレータイムをつかみ、今はローテーション入りを果たしている。

「プレシーズンが始まった当初は試合に出られていましたが、シーズンが始まると全く試合にからめなくなりました。正直に言うと、めちゃくちゃしんどくて『今後どうしよう』という気持ちでした」

こう率直な気持ちを明かす介川だが、同時に「ただ、ここで拗ねて何もしないのは良くないので、とにかく自分が成長するため、これから試合に出られるように毎日努力をする。それを続けていたらいつか結果が伴ってくると信じ続けて、自分ができること、目の前のことを一生懸命やり続けていました」と、日々のハードワークを継続した。その成果が今、少しずつ結果にも出てきている。

この介川の姿勢はしっかりと指揮官にも届いていた。ペータル・ボジッチヘッドコーチは、介川の成長ぶりを次のように見ている。「まず彼は練習、試合の中でも取り組み方が素晴らしくなっています。だから試合での出番が増えており、ディフェンスではハードに、オフェンスでは賢くできていると思います。彼は若く才能があります。今の彼のパフォーマンスは非常にうれしいです。今回、彼はチャンスを生かしてくれました」

「ディフェンスでサイズがあって動ける部分をもっと活用」

また、ボジッチヘッドコーチは「もしかして変わっている考え方かもしれないですが」と前置きをして、自身の若手育成に関する考えを教えてくれた。「まずは試合に出るためには、どんなレベルのインテンシティ、フィジカルが必要なのかという部分から始まります。その後、技術的に向上させていくアプローチです。彼はフィジカルな部分で存在感を示してくれていて、これから他の部分もついてくると思います」

出番を増やしつつある今、介川は「12月に入る前の試合に少し出た時、『ここでもっと行けたな、こうすれば良かった』とアグレッシブさが少ないことに気づくことができました。そして試合後に映像を見て、『今度はこうしよう』というところをやっていくことで、今のプレータイムに繋がっているのだと思います」と手応えを語る。

そして、大きく変わったところとして、ディフェンスに関する意識の変化を挙げる。高校、大学と得点面がより目立っていた介川だが、今はディフェンスファーストの姿勢を徹底している。

「自分のバスケットボール人生において、プロになるまでディフェンスの意識がそこまで高くありませんでした。今まではオフェンスでどうにかするタイプでしたが、ディフェンスでサイズがあって動ける部分を試合中にもっと活用しなくてはいけないと気づきました。そこをコーチに見てもらって少しずつ信用を得られていると思います。ディフェンスから入って、その上でオフェンスのアグレッシブさを忘れないようにしたいです」

また、オフェンスについては「今はちょっと消極的になっているので、そこが課題だと思います」と語り「(岡田)侑大さんやビッグマンにばかり頼っていると、オフェンスがきつくなってくるので自分もアタックできるタイミングではしっかりと仕掛けていきたいです」と続ける。

197cmのサイズと機動力を備えた介川はリーグ屈指の日本人ウイングプレーヤーになれる可能性を秘めている。また、4番としてビッグマンと渡りあえる部分を示したのは、帰化枠がいない島根にとって、外国籍がベンチ登録2名のオン・ザ・コート1となる天皇杯において大きなプラスとなる。大前提として今は目の前のリーグ戦に集中している上で、介川は「天皇杯はたくさん出られるチャンスがあると思うので、そこに対するワクワクはあります」と語る。

ここから過密日程に突入するが、3番、4番のどちらもこなせる介川の存在感はチーム内でどんどん高まっていくだろう。そして「いつ信用を失うのかわからないので努力を続けないといけないです。毎試合、緊張感を持ってプレーをしています」と強調する危機感を持って、これまでと同じくハードワークを続けていく限り、彼のステップアップは続いていく。これからのシーズン後半にかけて介川こそ、島根がチャンピオンシップ戦線を勝ち抜くためのキーマンとなってくる。