「自分たちのディフェンスをしっかりやろうと話していた」

「率直に悔しいです」。群馬クレインサンダーズの中村拓人は、昨シーズンまで所属した広島ドラゴンフライズに連敗を喫した試合後に胸の内を明かした。その言葉には悔しさがにじんでいたが、表情は晴れやかだった。

中村について書く機会は、今シーズンに何度もあった。群馬の選手として初めて公式戦に臨み、勝利を挙げた開幕節のシーホース三河戦や、キャリアハイ(タイ)の26得点を挙げて大逆転勝利を収めた横浜ビー・コルセアーズ戦……と、中村が群馬に来てからの活躍を振り返れば、これら以外にも彼を取り上げることのできる機会はいくらでもあった。

そのため古巣相手に連敗した今節で話を聞くのは、正直なところ忍びない気持ちもあった。しかし、並々ならぬ決意を持って群馬に移籍した中村にとって、一つの区切りとなったであろう広島戦。彼はこの戦いをどのように受け止めたのか、聞かずにはいられなかった。

ゲーム1は65-88の大敗。ゲーム2は良い時間帯を作りながらも76-83で敗れ、連敗となった。感情は前述のとおり「悔しい」という言葉に尽きるだろう。その気持ちを抱えながらも、冷静に自身とチームの先を見据える中村の姿があった。

「広島さんはタレントが多いですし、すごく良いチームなので昨日は、あの点差でやられてしまった分、自分たちのディフェンスをしっかりやろうと話していました。僕自身も相手ガードに好きにやらせないようにしようと考えていました」。前日の大敗を受けて、そう意気込んで臨んだゲーム2だったが「試合の入りはリズムつかめていましたが、後半にシュートが入らなかったこともあり、リズムが悪くなりました」と振り返る。

この試合、群馬は17本のターンオーバーを記録した。特に第1クォーターで7本、最終クォーターで5本と、試合の入りと終わりという重要な時間帯でミスが目立った。ボールの失い方が悪く、持ち前のディフェンス強度を保てないのも一つの敗因だ。中村自身も2本のターンオーバーを犯し、個人としてもチームとしてもミスの多さを痛感していた。

「前のポゼッションでターンオーバーをしても、次でチームとしてクリエイトができれば、もう少しリズムがつかめたのかなと思います。広島さんは速い展開で3ポイントシュートを打ってくるチームなので、それに付き合ってしまいました」

「得点とアシストをバランス良くやっていければ」

さまざまな要因があるが、もう一つ敗因として挙げられるのは3ポイントシュートだろう。群馬は3ポイントシュートによる得点割合がリーグ5位で、長距離砲を得点源にしている。しかし、ゲーム1ではチームでの成功確率が18.2%と低迷した。

ゲーム2は藤井祐眞やテレンス・ウッドベリーが高確率で沈め、チームはシーズン平均(35.6%)と同等程度の34.5%を保ったものの、中村自身は2試合で7本中1本の成功と苦しんだ。中村の3ポイントシュートはチームにとってファーストオプションではないが、平均試投数は3.2本と決して少なくない。自身の持ち味であるドライブからのペイントアタックをより生かすためにも、外の成功率を高めることはディフェンスに守る選択肢を増やさせる上で効果的だ。

しかし、今シーズンの成功率はここまで22.5%に留まっている。「今シーズン、確率が上がっていないのは自覚しています。空いたら打とうと思っていますし、打たないのが1番ダメだと意識しています」。そう前置きした上で、チームファーストな姿勢を口にした。

「ただ、自分よりも確率の良い選手が多いチームなので、エクストラパスを出すことも考えています。もちろん自分が打てるタイミングでは迷わず打ちますが、ペイントアタックでディフェンスを収縮させて他の選手のノーマークを作るとか、良い判断が必要なので、バランス良くやっていければと」

シーズン開幕前にインタビューした際には、平均2桁得点とアシスト数の増加を個人の目標に掲げていた。ここまで平均9.8得点と2桁に届きそうな数字ではあるが、アシストは平均3.2本。キャリアハイではあるものの、昨シーズンの2.8本から劇的に伸びたとは言い切れない。得点とアシストのバランスは、今後も突き詰めていく必要がある。

「今節はもっとやれたと思うので悔しい」

昨シーズンまで所属していた広島には、ともにBリーグ優勝や東アジアスーパーリーグ制覇を果たした選手も多い。中村は「ずっとやってきたメンバーがいるので、この2試合をすごく楽しみにしていました」と語り、この対戦に特別な気持ちを抱いていた。

「勝ちたかった気持ちが一番にあります」。その言葉の通り、楽しみにしていたからこそ、勝利への思いは強かった。「広島さんはチャンピオンシップにからんでくるようなチームだと思っているので、連敗してしまったのは僕自身も責任を感じています」

決して不甲斐ないプレーをしたわけではない。それでも、チームの勝利に結び付かなかったことが、悔しさをより一層強めた。「この2試合は個人的にも、もっとやれたと思うので悔しい気持ちが強いです」。中村はこう話しつつも、前を向いている。

「ただの負けにしないで、しっかり学んでいきます。今シーズン、これで広島さんとはレギュラーシーズンで戦うことがないですが、チャンピオンシップで対戦することがあれば、成長した姿を見せたいです」

群馬は今節を終えて16勝9敗。現状、ワイルドカード4位でチャンピオンシップ進出圏内はキープしているが、下位クラブが迫っており、負けられない状況が続く。そして、レギュラーシーズンは息つく暇もなく、怒涛のスケジュールで進んでいく。

「自分たちのやらなければならないディフェンスのスタンダードは、ぶれさせてはいけないです。それがチームとして一番求めていることです。もう一度、水曜の試合でディフェンス力を体現したいですし、週末にはまたホームでの試合があるので、切り替えてやっていきます」

悔しさをにじませながらも、中村の言葉は力強く前向きだった。その表情に迷いや憤りはない。強い覚悟で臨んだ古巣との対戦は、連敗という結果に終わった。しかし、この悔しさこそが若き司令塔の糧となり、次のステージへと押し上げる原動力となるはずだ。