比江島慎

文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、B.LEAGUE

イラン戦の活躍には「満点を与えてもいい」とご満悦

長く続いたアジア予選12試合の最後には歓喜が待っていた。バスケットボール日本代表は悪夢の4連敗スタートから一転しての8連勝で、ワールドカップ出場権を獲得。『日本のエース』比江島慎はカタール戦への勝利を決めた直後の気持ちを「本当に長かった、ホッとした、ついにここまで来ることができた」と表現したが、帰国する飛行機の中で高揚した気持ちが落ち着くに従い、新たなモチベーションが生まれてきたと語る。「世界とやるからには、もっともっと上手くならなきゃって。ほとんど時間がないし、やれることはやらなきゃいけないと思います」

比江島にとってこの予選は、BリーグMVPとなり、オーストラリアリーグに挑戦し、帰国して栃木ブレックスに加わるというキャリアの激動期となった。オーストラリアへの挑戦は、アジアを勝ち抜き世界で戦うために、自分に足りないものを得るためのもの。リーグで結果を残すことはできなかったが、その成果はこの2試合、特にアウェーでのイランとの大一番で発揮された。

「自分の役割は本当にできたと思います。満点を与えてもいいぐらいだと思います。チームが勝ったこともあるし、自分の役割はチームに勢いをつけること、大事なところで決めるところ。それがイラン戦ではできたと思います」と、控えめな比江島が珍しく自分をベタ褒めした。

体格に上回る選手が待ち構えるペイントエリアに仕掛け、得点を奪う。それが比江島の突き詰めてきた武器だが、それと同時に「世界と戦うにはオフェンスで競り勝つのは難しい。ディフェンスの部分でまだ向上の余地があります。そこは自分の中で感じている部分で、オフェンスの部分は多少はできる自信があるので、その精度を高めていくのはもちろんですけど、ディフェンスを向上させるのも大事だと思っています」

比江島慎

「やっと栃木のプレースタイルが分かってきました」

比江島は決して守れない選手ではない。それでも、ディフェンスの激しさやボールへの執着心はもっと高めていく余地がある。シーズン途中で加入した栃木ブレックスはこの点でリーグ屈指のチームであり、ここに順応していくことで比江島の課題は解消されていくはずだ。

「やっと栃木のプレースタイルが分かってきました。ディフェンスをしっかりやらないとプレータイムは伸びないので、その部分を頑張りつつ、自分のプレーも出していければ」と比江島は抱負を語る。

栃木での9試合で先発出場はわずか1。栃木を率いる安齋竜三は厳格なヘッドコーチで、比江島を特別扱いせず、栃木の基準となるプレーの強度を出せないとなればベンチに座らせる。「オフェンスの部分は何も言わないんですけど、ディフェンスは指導してくださいます。そこをしっかりしないとプレータイムをもらえない、その点では本当に厳しい監督だと思います」

独特のリズムで仕掛けるオフェンスはアジアで十分に通用した。ワールドカップ予選の戦いを通じてメンタルの成長も実感できている。あとはディフェンスとボールへの執着心。栃木のスタイルを身に着けることで、比江島はもう一回りスケールの大きな選手に成長しようとしている。