ニック・ファジーカス

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

注目すべきはファジーカスの得点、リバウンド、強い意志

ワールドカップ予選ラスト2試合は、イランとカタール、いずれも遠い中東でのアウェーゲームとなる。2つ勝てば自力で予選突破が決定するが、特に大事なのが現在グループ3位の一つ上にいるイランとの直接対決。FIBAランキング47位の日本が26位のイランとどう渡り合い、勝機を見いだすか。日本の注目ポイントは『ファジーカスの得点』、『リバウンド』、『強い意志』だ。

イランはフィジカルでも経験でも日本を上回るアジアの強国だが、ヘッドコーチのフリオ・ラマスも選手たちも「相手どうこうではなく、自分たちのバスケットをすることが大事」と口を揃える。相手への対策を軽率に語るわけにはいかない事情はあるとしても、アジアで堂々の戦いを演じられるようになった今、自分たちを必要以上に過小評価する必要はない。ここまで突き詰めてきたスタイルを出すことで勝機を見いだすことができる。

そこで大切なのは、昨年春に日本国籍を取得して代表に加わったニック・ファジーカスの強みを存分に生かすこと。イランのメンバーには『英雄』ハメド・ハダディが入らなかったが、たとえ彼がいたとしても、同じセンターのポジションで優位にあるのはファジーカスであったはずだ。ハダディはサイズの利を生かしてリバウンドで強みを出せるかもしれないが、ミドルレンジでも高いシュート精度を誇るファジーカスを抑えるのは相当に難しい。そのハダディは招集に至らず。誰とマッチアップするにせよ、日本代表としてはいかに効率良くファジーカスに得点させるか、どうやって彼のところにチャンスを作り出すかがポイントとなる。

昨夏の手術でBリーグのシーズン前半戦はコンディションが上がらず苦しんだファジーカスだが、このWindow6を準備万端で迎えられた。「ここ数週間は非常に良い状態でプレーできているし、シュートの調子も良い」と語るファジーカス。オーストラリア撃破に象徴される日本代表の成功の立役者を、ここで過小評価する必要はないはずだ。

田中大貴

田中大貴「ディフェンスを一番に体現するのは自分」

ディフェンスに目を向けると、ファジーカスが加わったのを機に、つまり6連勝している期間を通じて多用しているゾーンディフェンスがカギになりそうだ。頻繁にゾーンディフェンスを使うことで相手のリズムを狂わせるとともに、ゴール下のファジーカスに守備の負担を軽減させて得点に集中させる意図が当たっている。

長く取り組んだことでゾーンディフェンスの遂行力は上がっており、田中大貴は「試合で相手に効いているイメージはあります」と手応えを語る。

相手の出足を止める効果は期待できるが、その反面で注意すべきなのがリバウンド。「次のイランは高さがあってフィジカルも強く、その部分では差をつけられると思います。ゾーンはマッチアップする選手が決まっていない分、リバウンドでいつも以上に頑張らないといけない」と田中は言う。「ニックの高さだけではどうにもならない部分があるので、自分や比江島(慎)、(馬場)雄大がどんどんリバウンドに絡んでいくのが大事だと思います」

「ガンガン来る相手に対してディフェンスをしなければいけない。このチームで誰がそれを一番に体現するのかと言えば、自分がそのポジションにあると思っています。相手の起点となる選手をしっかり止めないといけないです」と、田中はディフェンスからチームを引っ張る自覚を語っている。

富樫勇樹

代表で求められる役割を個々がどれだけ徹底できるか

最後のポイントはメンタルの持ちようだ。このレベルの試合で出だしに相手に主導権を取られ、一気に先行されると、そこから取り返すのに大きなエネルギーを要する。出だしで意識で受けに回ってしまうのはそれ以上のリスクとなる。

今の日本代表は若いチームではなく、竹内譲次、田中大貴に比江島慎とローテーションの中核を担う選手たちは国際経験が豊富だ。ロスターのバランスも良く、試合途中で状況に応じたアジャスト能力を見せられる。逆にアグレッシブに行きすぎて序盤からファウルトラブルになるのは怖いが、だからと言って出だしで慎重になりすぎることは要注意。良い意味でアグレッシブに、試合開始とともに相手を打ち倒す意識を持ってプレーしてもらいたい。

得点についてはファジーカスにある程度託す形でいい。富樫勇樹、比江島や田中が多くの得点を奪う必要はなく、ファジーカスを軸に組み立てて、得点力のあるペリメーター陣はオフェンスの幅を出すためのサポートを意識するぐらいでバランス良く回るはずだ。

多くの選手が国内リーグほど得点を求められないのとは対照的に、身体を張るフィジカルなプレーが求められる。ディフェンスでは遂行力はもちろん、フィジカルで負けない強度が求められるし、リバウンドに全員が飛び込む意識を40分間保ちたい。イメージすべきは失点を56に抑えて勝利した昨年9月のホームゲーム。あの試合、プレーの強度とリバウンドを引っ張ったのは八村だった。だが、『八村がいないから勝てない』チームでは世界と戦えない。その殻を破ってこそ、ワールドカップへ行く権利を勝ち取ることができると言える。

高さとフィジカル、身体能力に勝る相手に対して自分たちのストロングポイントを生かすこと。意識として受けに回ることなく、アグレッシブな姿勢を保つこと。これは今回のイラン戦に限らず、日本代表がこれからアジアで、世界で戦っていく上で必ず必要になる要素だ。『世界への扉を開ける』一戦で、これらの課題をクリアして勝利することを期待したい。

ただ予選突破するだけでなく、常にアジアのトップチームであり続けているイランを敵地での真剣勝負で撃破できれば、チームの成長は確実なものとなる。その自信はワールドカップへ、そして東京オリンピックへと繋がるはずだ。