ディアンソニー・メルトン

広いスペースをカバーしてパスワークを分断、セルティックスのリズムを乱す

セルティックスが第2戦で52本の3ポイントシュートを放ち、20本を決めた時点でシリーズは簡単に終わるものと思われました。セブンティシクサーズのディフェンスには弱点が多く、完全に攻略されています。ここ数年に渡って同じようにやられてきているため対応する手段もなく、ジリ貧に見えました。

しかし、第3戦からプレータイムを伸ばしたディアンソニー・メルトンが一人でチームディフェンスを引き上げています。

メルトンがコートに出てくるとセルティックスは攻め手に困り、その変化は劇的です。第3戦以降、メルトンがコートにいなければ41%決まっている3ポイントシュートは、メルトンが出てくると30%まで下がり、明らかに苦しいシュートが増えます。100回のオフェンスで見れば、メルトンがコートにいるとアシストは9回も減り、ターンオーバーは3つ増えます。メルトンの存在は特定の個人ではなく、セルティックスオフェンス全体を困らせているのです。

セルティックスは5人が大きく広がってスペーシングし、ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウン中心にドライブで切り崩し、そこから連続したパスワークでワイドオープンのシュートを生み出します。動きの遅い選手が多いシクサーズはヘルプに出てはノーマークの選手を作ってしまい、ローテーションも間に合わず、簡単に3ポイントシュートを打たれてしまいます。このディフェンス自体はメルトンがコートにいても基本的には何も変わりません。

しかし、スピードがあって広いスペースをカバーでき、なおかつパスへの反応が極めて早いメルトンは、3試合で15回もパスに触ってコースを変え、5つのルーズボールをカバーしてシクサーズボールにしました。それまで簡単にパスを回していたセルティックスでしたが、メルトンが出てくると一つのパスを出すにも細心の注意が必要となり、それでテンポを悪くして、結果的に3ポイントシュートの成功率が落ちるのです。

ピック&ロールを仕掛けられてもスクリーナーをかわして無効化したり、抜かれそうになってもハンドラーに襲い掛かってスティールしたりと、セルティックスがやりたいことをやらせないシーンが目立ちます。1on1のディフェンスで止めまくるわけではありませんが、細かく対応を変えてくるメルトンは、同じプレーを何度も繰り返されてしまうことが多いシクサーズの中で異分子となって効いています。

この3試合でシクサーズのディフェンスレーティングは、メルトンがコートにいれば108ですが、ベンチに下がると124まで悪化します。一人でチームディフェンスを劇的に向上させるメルトンがいなければ、シクサーズの連勝はなかったでしょう。冷静にパスを回し、しっかりと3ポイントシュートを決めるだけで良かったはずのセルティックスを混乱させていくメルトンのディフェンス。これが最後まで効果を発揮できるかが、シリーズを勝ち抜くためのキーポイントになっています。