ブラッドリー・ビール

来シーズンが素晴らしいものになっても、出てくるのは『契約問題』

ウィザーズはラッセル・ウェストブルックを1年で手放した。評価の分かれる選手ではあるが、NBAでも屈指の能力を持つプレーヤーなのは間違いない。彼を失ったのは痛手だが、トレードで『価値ある資産』がやって来た。カイル・クーズマ、モントレズ・ハレル、ケンテイビアス・コルドウェル・ポープが、そしてレイカーズから手に入れた指名権をすぐにトレードに出し、ペイサーズからアーロン・ホリデーも加わった。

もともとウェストブルックは昨年12月、フロントへの不信感を持ったウォールのトレード要求を受けてトレードで獲得した選手だ。ウォールは高年俸でケガ明けのベテランで、短期間でトレードをまとめるのは至難の業。その状況が1年後に若手有望株のクーズマを筆頭に、主力になれる戦力4人に変わったのだから、結果的にウィザーズにとってはプラスになったと見るべきだろう。

ウォールはウィザーズが2010年のNBAドラフトで全体1位指名した選手で、長らくエースとしてプレーしてきた。コート内外のリーダーシップに加えてバスケ以外の活動にも精力的で、ウィザーズを象徴する存在だった。そのウォールを手放すのは心情的につらいことだったが、その決断ができたからこそチームは前に進むことができた。

次はブラッドリー・ビールの番だ。もう何シーズンもウィザーズはこの決断を下せずにいるが、今がその時だ。

ビールを中心にレイカーズから来た選手たちが活躍し、八村塁やトーマス・ブライアント、デニ・アブディヤといった若手の成長を待つ。この体制で望める成績は昨シーズンとそう変わらないだろう。端的に言えば、プレーオフ1回戦敗退は成功とは言えない上に、ドラフトの上位指名権が手に入らず、次にも繋がらない。この位置で何年もくすぶり続けるのは、チームにとっては非常に良くないことだ。

もし素晴らしいシーズンを過ごしたとしても、今後数年に渡る成功が約束されるわけではない。ハレルの契約は1年しか残っておらず、クーズマとコルドウェル・ポープも2023年オフにはフリーエージェントになる権利を有する。そしてビールは2022-23シーズンの契約がプレーヤーオプションで、来年の夏には契約延長の必要がある。舵取りを一つ間違えば、これらの資産すべてを失う可能性があるのだ。

ビールの契約問題は一筋縄では片付かない。ビールはウィザーズに忠誠を誓っているが、球団にすべてを捧げるからこそ、次はマックスかそれに近い契約を要求するだろう。来年オフにはNBAキャリア10年を迎える彼は、5年で2億5000万ドル(約280億円)の契約が可能になる。そこで安い金額を提示されたら、ビールは「忠誠を裏切られた」と感じるに違いない。

だが、平均年俸5000万ドルの価値を考えるべきだ。レブロン・ジェームズやステフィン・カリー、ケビン・デュラント、ヤニス・アデトクンボといった『チームを優勝に導いたエース』ならともかく、ビールはそれに見合うタレントだろうか? 優勝経験がなくNBAのトップサラリーを得ているのはデイミアン・リラードしかいない。ビールにそれだけの年俸を払えば、他にしわ寄せが来る。それでプレーオフに出るか出られないか、出られても1回戦負けのシーズンを繰り返すのだとしたら、それはナンセンスだ。

ビールにはまだ向上の余地はあるが、彼が一人で引っ張るチームで優勝を望むのは無理と言うもの。ウォリアーズに行って『王朝』復興の力になるのを始め、ヒートにセルティックス、セブンティシクサーズと選択肢はいくらでもある。彼が自らの可能性をさらに引き出し、NBA優勝リングを手に入れたいなら、ウィザーズを離れるべきだ。球団に忠誠を誓う彼が自分からトレードを要求できないのであれば、球団がその道を作るべきだ。

ウィザーズとビールはお互いのリスペクトが遠慮になり、身動きが取れなくなっている。しかし、決断の時は来ている。ウォールがそうしたように、これまでの貢献に感謝して別れのハグを交わすことで、お互いが前に進むことができる。