比留木謙司

比留木謙司はオンリーワンのキャリアを歩んでいる。それは『変化を恐れない』と同義だ。bjリーグからNBLへ移り、3×3にいち早く飛び込み、SNSでの面白い発信を続ける。B3参入チームに移籍し、ヘッドコーチに相応しい人物が見付からなければ自分が引き受ける。どれも身体を張った、キャリアを賭けた挑戦だ。現在はトライフープ岡山のヘッドコーチ兼GM。それでいて先日には、3×3の選手として岡山からスリストム広島へ移籍している。「実はこれは戦略でもあって──」と、比留木は自分の生き様を解説してくれた。

「勝つ時も負ける時も俺たちはチームでしょ」という言葉

──トライフープ岡山のチーム状況を受けて、急遽ヘッドコーチとGMをやるようになって1年と数カ月、今は充実感や面白さをどこに見いだしていますか?

チーム作りの大きな責任を負っていて、チームって本当に生き物だと感じるところですね。良いヤツばかり集めたら刺激が足りず、必要なぶつかり合いが選手やスタッフの中に生まれなくて、選手とかコーチが不満を言ってきたりもするんですけど、「チームだから自分で解決してごらん」と突き放してみたり、「大変だね」と言いながら「いいぞ、もっとやれ」と思っていたり(笑)。

これはビジネスの世界でもスポーツの世界でも同じで、一つのゴールに向かって仲良しこよしで向かっていく日本人は、そこへの過程でぶつかると個人的な思惑があるんじゃないかと思われがちです。例えば僕と大森勇アシスタントコーチはケンカばかりです。ケンカというか、議論ですね。でもそれは僕らの中で尾を引かない。なぜかと言うと勝ちたいという目的があって、その中で議論をしてどこかで落としどころを付けるからです。でも、議論しないと問題は永遠に解決しません。足首の捻挫と違って寝ていれば治るものじゃないので。放っておいて治るかもしれませんが、議論すれば一夜で解決するかもしれない。そうやって必要なぶつかり合いをチームの中にもたらすのはすごく面白いですね。

コーチにはそれぞれ得意分野があって、選手もいろんな特技、スキルを持っています。それを組み合わせながら全員がチームにとって必要な存在なんだと伝えていくのも面白いです。どうしても試合で活躍する選手やヘッドコーチが目立つ業界ではありますが、誰かが他の誰かよりチームにとって価値があるのかと言えば、僕はそれは役割が違うだけで、全員等しく価値があるととらえていますし、そういうチームでありたいんです。

──言葉で言うのは簡単ですけど、実際にチームで一つになるのは簡単ではないですよね。

そうですね。先日すごくうれしかったのは、僕がテクニカルを2つ取られて退場になって、それで負けた試合があったんです。試合後のロッカールームで「ヘッドコーチは主役である選手たちの背中を押すべきであって、間違っても君たちの足を引っ張ってはいけない。だから今日は自分が悪い」と言ったんです。そうしたら選手が「勝つ時も負ける時も俺たちはチームでしょ」、「次に勝てばいいんですから」と言ってくれました。慰めてくれたりフォローしてくれたのがうれしかったんじゃなくて、「勝つ時も負ける時もチームとして取り組むんだ」という考えをしっかり認識していてくれた。これは昨シーズンからの大きな違いだし、B3にいる他のチームとの違いだと思います。

どうしても日本人と外国人、選手とスタッフ、若手とベテランみたいな差はあります。でもウチは比較的それがないのが強みだと思います。アシスタントコーチ陣、フロントの力を借りながらいろんなことをやって、それが選手やスタッフの成長に繋がっていくのを見ることができる。これは充実感以外の何物でもないですよね。

比留木謙司

「僕がプレーしたいのはあくまで僕の主観、エゴです」

──5人制の仕事は継続しつつ、3×3のプレーヤーとしては岡山からスリストム広島への移籍が発表されました。

前任のヘッドコーチが辞任することになって、予算の問題やキャリアの問題、マーケットに良い人材がいないこともあって後任探しは難航しました。言い方は悪いけど、ライセンスだけ取ればコーチングができると思っている人、実際にコーチングができるし頭も切れるけど選手のリスペクトを得られないようなキャリアの人ではダメなんです。満足のいく人材がいない中で、言わば消去法で僕がヘッドコーチをやることになりました。

僕は別に望んでこの役割に就いたわけではないのですが、だからといって1%も手は抜かず、選手ってすごく感受性が高い生き物なので毎日彼らに魂ごとぶつかる気持ちでやっていますけど、やっぱりプレーはしたいんですよ。だからリリースにも載せましたが、僕がプレーしたいのはあくまで僕の主観、エゴです。ただ、僕はプレーしたいんだけど、その場所がトライフープなのかと言えば、僕はGMとしてヘッドコーチとして僕がいない方がいいと思ったので、今回は選手としての僕が違うチームでプレーすることを選択しました。

──コンディション作りはどうしているんですか? トライフープの練習はヘッドコーチとして指導しているんですよね?

急ピッチで身体を動かしてるんで、毎日毎日痛いです(笑)。トライフープの練習は昼間にやっていて、夜に県内の強豪クラブチームに行ったり、大学生の練習に入れてもらったり。ウチのスポンサーで個人トレーニングも治療もできるOGウェルネスという施設があって、4月からそこでウチの外国籍選手がトレーニングするのですが、通訳が必要なので僕が一緒に行ってウエイトもやろうと思っています。

──5人制のヘッドコーチとGMを兼任するだけでも大変なのに、選手もあきらめないモチベーションはどこから来るのですか?

実はこれは戦略でもあって、僕は今までのキャリアでも自分の価値を上げるために他の人がやらないことに取り組んできたところがあります。5人制でバリバリやっていたプレーヤーで3人制に参戦したのも僕と蒲谷正之が最初でしたし、bjからJBLに行く選択も僕は割と早かったです。バスケ選手でSNSの運用を真面目にやりだした第一人者でもあります。

SNSについては、Bリーグができる前とか1年目だと、有名な選手はフォロワーが多いけど全然面白くない。有名じゃない選手はフォロワーが付いていないし、面白くない。なんで面白くないかと言えば、選手たちの顔や普段の生活、マインドが全然見えてこないからです。僕は別に日本代表に入る選手ではなかったですが、お客さんに楽しんでもらいたいから何かしたいと思った時に、枠から飛び出る必要があった。その一つがSNSだったと思うんですよ。B1のプレーヤーでありながらB3に参入するチームに行き、GMをやるのも異色だと思うし、Bリーグのユーモア賞ももらったかと思えばFIBAに文句を言ってリーグから制裁を喰らったり(笑)。

話を戻してそのモチベーションはどこから来るのかと言えば、僕が面白いことをやってトライフープが少しでも見てもらえるのならプラス、なおかつ僕も生活していくために、僕のことを応援してくれる人がいないと困る。そのためにはずっと比留木謙司であり続けるということが大事だと思っています。比留木謙司とは何なのか。面白いこと、自分の軸をブラさないことが僕を応援してくれる人たちの僕の好きなところだと思うんです。なので、それに応えることが僕のモチベーションになっています。

比留木謙司

「皆さん是非、チャンネル登録をよろしくお願いします(笑)」

──では、面白く、自分の軸をブラさない比留木謙司は、今後どうなっていきたいですか?

世の中が今後どうなっていくかは分からない中で、バスケット界も僕自身も常に変化は求められます。その中で僕は自分がやりたいこと、そして僕を応援してくれる人たちが「あいつがやるなら背中を押してやろう」と思ってくれるようなことをどんどん見付けてやっていきたいです。これは完全に趣味だからカッコ良いことを言った後に言うことじゃないんですけど、噂によると僕に似た人がゲーム実況を始めてYoutubeチャンネルを開設したらしくて、『ひるけんチャンネル』って言うんですけど、皆さん是非、チャンネル登録をよろしくお願いします(笑)。

──かなり脱線した後ですが、トライフープ岡山については今後どうしていきたいですか?

トライフープが成功するかどうか、これが今の僕の優先順位では一番高いです。もっと言えば、「あいつがいたおかげで岡山は今こういう素晴らしいチームになったよね」と言われるようになりたい。それが僕の当面の目標であり、それが達成するまでは岡山にいる覚悟です。ただ立場はヘッドコーチ、GM、選手のどれでもこだわりはなくて、ヘッドコーチも結構楽しいんですよ。選手を見ているのは本当に面白い。あいつら壁にぶつかったり、文句を言ったり、その5分後には何かパッとひらめいて練習に取り組んだり、その1週間後にはできるようになっていたり。

今ここで成長するんだ、チームを良くするためにこれをやるんだ、というプロフェッショナルのマインドを持っているかどうかは顔つきで分かります。でも、それがどのタイミングで来るかは分かりません。それでも選手たちは悩んだりぶつかったりしながら前に進んでいて、それを見ていると本当にゾクゾクしますよ。選手の成長もそうだし、チームとして取り組んでいることがハマった時には「ほら見ただろ、俺たち自信を持って取り組んで、できたんだぜ、勝てるんだよ」って顔をしてます。そうやって一つの物事に取り組んで、それが達成できた時の喜びは、もしかすると選手として自分がプレーして感じるもの以上に大きいかもしれないですね。

──最後に、応援してくれるファンの方々へのメッセージをお願いします。

今はトライフープ岡山でヘッドコーチとGMをやっていますし、選手としてはスリストム広島でプレーします。それぞれどちらも注目してもらいたいです。というか、僕がいれば何かしら面白いことがあると思って注目していてほしいです。最近ではテレビのお仕事なんかもいただいていて、バスケット界のあちこちにひょこひょこ現れるので、いろんなところで皆さんのお目にかかることがあると思います。そこで「なんか面白いことやってるなコイツ」と思ってもらえたらうれしいです。