辻直人

「今のままではダメ、今までにないことを」

川崎ブレイブサンダースはホーム開幕節となった10月10日、11日の大阪エヴェッサ戦に連勝を収め、3勝1敗と白星を先行させている。特に11日の試合は、ここまで当たりが来なかった3ポイントシュートが成功率46%と爆発し、88-53と圧勝した。

11日の試合で3ポイントシュート5本中3本成功の11得点を記録した辻直人は、今のチーム状況をこのように見ている。「この土日は本当に良かったです。土曜日の細かい部分での反省点を日曜日に改善できました。開幕2試合はシュートが入らなかったのが、ここでシュートが入った部分は一安心です。ただ、ディフェンスの強度が激しいチームと戦った時に自分たちのプレーができるのか。そこへの自信はついていないです」

開幕から3試合連続で先発出場していた辻だが、11日はベンチスタートとなった。それでも起用法の違いに困惑することなく、高いパフォーマンスを見せた。「集中力を切らさずにオフシーズンから取り組んでいたスキル、シュートのところで少しは良い部分が出せました。それをこれからの試合でも継続して出し、スキルをもっと増やしていく。そうしていくことでシーズン終盤にもっと良いパフォーマンスを出せるようになりたいです」

この言葉に象徴されるように今シーズンの辻はこれまでと違う姿を見せている。辻といえばオフボールスクリーンなどボールがない所の動きで相手のマークを外し、キャッチ&シュートでアウトサイドから決めるのが代表的な得点パターンとして知られている。それが、今シーズンは自らドリブルで相手守備をかわしてのシュートも光る。まだ開幕4試合終了時点ではあるが、ここまでのシュートセレクションを見ると2ポイントシュートは基本的にゴール下でのイージーシュートで、あとは3ポイントシュートと、得点効率を重視する現代バスケットボールに沿っている。それは2点シュートが計5本(4本成功)のみの数字にも表れている。

辻が「それは意識しています」と語るように、この変化は偶然ではなく意図的なものだ。「自分の強みは3ポイントシュートです。今はピックを使った時に横にずれてシュートは打てていますが、他にも相手がスイッチしビッグマンに対応された時の3ポイント、ステップバックからの3ポイントと他のバリエーションはまだまだ出せる。そこを伸ばしていきたい」と、自分がユーザーとなりピック&ロールから様々な動きで長距離シュートを放っていくのが大きなテーマとなっている。

辻直人

「ジャマール・マレー、デビン・ブッカーも見るように」

ボールハンドラーとしての辻といえば、篠山竜青、藤井祐眞が相次いで離脱した今年の天皇杯で司令塔を務めた時の活躍が記憶に新しい。しかし「ハンドラーとしてやっていきたいと思ったのはこの1年、2年の話ではないです」と、本人が意識していたのはもっと前からだ。

「Bリーグの初年度くらいにイ・サンボムさん(中村太地が在籍している韓国KBL原州DBプロミのヘッドコーチ)とオフにご飯を食べた時、ピック&ロールの技術は身体能力とか関係ない。だから、これを身に着けるだけでキャリアが数年は伸びると言われたのがきっかけです」

ただ、重要性は理解しつつも、故障や代表活動もあって本格的に取り組むタイミングを逃してしまっていた。それが、「昨シーズンはぱっとしないシーズンを過ごし、このままだとそれを引きずって今シーズンも同じようなことになってしまう。今のままではダメという不安が大きく、それなら今までにないことを取り入れようと思ったのがきっかけです」と大きな危機感の下、今オフに新たな武器を本格的に求めることを決意した。そのためにチーム活動と並行して外部でもトレーニングを積むようになった。

また、ハンドラーをより意識することで、注目する選手も変わってきている。「理想は今までだったらNBAだとレイ・アレンで、(ステフィン)カリー、クレイ・トンプソンを好きで見ていました。それが今はジャマール・マレー、デビン・ブッカーも見るようになっています。彼らのペイントに入る前の動き、ピックを使ってシュートをよく打つ。そういう部分の上手い選手をより見るようになりました」

辻直人

「勝負を懸けている思いの強さは、日程の辛さを上回ります」

復活のために、まずは良かった頃の自分を取り戻して、マイナスを埋めることに注力するのも1つの選択肢だ。しかし、「新しいことにチャレンジすることに楽しさを感じられる」と、辻はそうしなかった。

その一方で「今もシューターという意識はあり、そこで負けたくないのは大前提としてあります」と、自らの代名詞への矜恃は変わらない。「もちろんオフボールのところで3ポイントシュートを作ってもらい打つパターンも武器の一つです。ただ、それだけでは相手ディフェンスに対策を練られてしまう。今後もより長く現役生活を続けるためにはそういうプレーだけではなく、ピック&ロールからいかにできるのかかすごく重要です。そのスキルをもっと身につけていきたいと思います」

次の第3節を終えると、リーグ戦は平日ゲームが3週連続で入る過酷な日程が本格化する。ただ、辻はそれも自身をより成長させることができるとポシティブにとらえている。「本当にタフになってきますが、今シーズンに勝負を懸けている思いの強さは、日程の辛さを上回ります。ハードなディフェンスを相手にすることで、いろいろな課題を見つけながらシーズンを過ごす。それがファイナルで良い結果に結びつく要因になる。チームの勝利、自分の成長に向けてフォーカスしていきたいと思います」

「手応えは昨シーズンよりもいいです。ただ、取り組んできたことを試合では完全に出せていない。見直した時、ここはこうすべきだったという部分はたくさんある。今は一歩、踏み出せたくらいだと思います」

辻が求めているのは『変化』ではなく『進化』だ。彼が自身の望む姿へと変貌を遂げた時、それは川崎にとって王座奪還への大きな切り札を手に入れたことになる。それくらいのインパクトを残せるものに今、辻は挑戦している。