ジャマール・マレー

「1勝3敗からシリーズを突破する12番目のチームに」

2019-20シーズンのプレーオフで初めての『GAME7』はナゲッツvsジャズで行われることになった。西カンファレンス3位のナゲッツと6位のジャズの対決は、そのままジャマール・マレーとドノバン・ミッチェルの両エース対決でもある。ナゲッツは2勝3敗と後がない状態で迎えた第6戦を、マレーの50得点の爆発で119-107と制し、3勝3敗に持ち込んだ

マレーの50得点に対し、ミッチェルは44得点。その差は43分と40分というプレータイムにあったのかもしれない。第3クォーター残り2分、ミッチェルが一度ベンチに下がった時点では79-76でナゲッツの3点リードという状況だった。ただ、そこから第3クォーター終了までに点差は9に広がった。このタイミングでマレ―が休んだのは第3クォーター残り2.5秒からクォーター終了まで。そのまま彼は最後までプレーを続けた。

ナゲッツはこのシリーズ、ニコラ・ヨキッチがルディ・ゴベアのディフェンスに苦しみ、ゴール下のシュートやペイントエリア外からのジャンプシュートがなかなか決まらない。ボール運びはヨキッチを始め周囲がサポートするが、仕掛けるのはもっぱらマレーであり、その負担は大きい。それでもミッチェルの得点ラッシュが刺激になり、最終クォーターの時間が進むにつれて集中は研ぎ澄まされ、疲労を超えていった。

マレーはフィールドゴール24本中17本成功、3ポイントシュートは12本中9本成功と驚異的な確率をマーク。残り2分にミッチェルが44得点目となる難しい3ポイントシュートをねじ込んだ直後、ステップバックの3ポイントシュートを決め返す。最後は残り53秒、ヨキッチのアシストから3ポイントシュートを決めて、粘るミッチェルとジャズを振り切った。

勝利を決めた直後、コート上でのインタビューで満足に話せないほどマレーはエネルギーを使い果たしていた。その後、ロッカールームに引き上げる前にも通路に座り込み、しばらく動けなかった。シャワーを浴びて会見に応じた際は落ち着きを取り戻していたが、それだけ疲労困憊していた。

「感情があふれ出してきたんだ。言葉で表現するのは難しいけど、様々な感情を抱えながらプレーすることで自分自身を成長させたいと思っている。バスケットボールがなかったら僕は今どこで何をしているんだろうか。そんなことを考えていた」とマレーは語る。「そして、このシューズが僕に力を与えてくれたんだ」

マレーは前の試合から、『Black Lives Matter』活動でクローズアップされる2人の人物のイラストが描かれたシューズを履いてプレーしている。右足にはミネアポリスで警官に拘束された際に死亡したジョージ・フロイド氏、左足には人違いで麻薬取締官に射殺されたブレオナ・テーラー氏が描かれている。

「何かのために戦うことは意味がある。僕らは長い間ずっと戦ってきて、疲れることにさえ疲れてしまった。それは勝ち負けには関係ない。NBA全体で大義のためにプレーして、どんな方法であれかかわっていこうと全力を尽くしている。NBAが意見を発信するプラットフォームとして使えるようサポートしてくれて、本当に感謝している。感情的になるのは僕だけの問題じゃないからで、人の命の問題だからだ。父、息子、兄弟が目の前で7発撃たれることを想像してほしい。僕に何ができるのだろうかと考えるよ。多分、第7戦をプレーすることぐらいしかできないだろうね」

大きすぎる感情の起伏は、時としてコート上のパフォーマンスに悪影響を与える。平静を保つのが難しい状況で、いつも以上のプレーができるのはなぜだろうか。そう問われたマレーはこう答える。

「人生は面白いもので、目の前には次々と壁が現れる。乗り越えることもあれば、回り道することもあり、一度立ち止まって計画を見直すこともある。今回の僕らは先発を2人も失って、経験の浅いルーキーがプレーするようになり、僕はこれまで以上に発言するようになった。シュートの数も増えた。チームが僕を信頼してくれることが大きい。コーチに自分の意見を言うこともあるけど、信頼してもらっていると感じる。だから、みんなを失望させないように頑張るだけさ」

「このチームはお互いを信頼して、1勝3敗からシリーズを突破する12番目のチームになろうとしている。ジェレミー(グラント)やメイソン(プラムリー)は素晴らしい活躍をしているし、ヨキッチはいつものヨキッチだし、モンテ(モリス)やトーリー(グレッグ)もシリーズを通して良い仕事をしている。名前を挙げればキリがないけど、チーム全員の努力の結果なんだ。僕らはこれからも一緒に戦い続けていく。GAME7に頭を切り替えて、集中するんだ」

ちなみにこのシリーズでのマレーは第4戦と第6戦で50得点をマーク。ミッチェルは初戦で57得点、第4戦で51得点を記録している。『TNT』によれば、プレーオフの1シリーズで50得点を2回以上達成したのは、過去に1988年のマイケル・ジョーダンと2001年のアレン・アイバーソンの2人しかいないという。その記録に並ぶ2人が同じシリーズで直接対決しているということになる。

「勝ちたいと思ってプレーしている。コンスタントに質の高いプレーを求められているけど、実際にやるのは簡単じゃない。偉大な選手は毎試合やるものさ。1試合だけじゃなく毎試合やれるから偉大なんだ。僕は毎試合、全力でプレーする」とマレーは言う。

マレーか、ミッチェルか。GAME7も『エース対決』という構図になりそうだ。