文=大島和人 写真=B.LEAGUE

サクレ加入でベンチに回るも、先発の座を取り戻す

プロスポーツ選手は旅が多い職業だし、『移籍』という名の転勤も多い。とはいえアールティ・グインの国境を越えたキャリアには驚かされる。彼はアメリカのテキサス州出身で、ベイラー大学を卒業すると2004年にフィンランドのチームでプロ生活をスタートさせた。

そこからスウェーデン、ドイツ、トルコ、ウクライナ、フランス、ギリシャ、ポーランド、イスラエル、ロシアと欧州のクラブを渡り歩いている。2016年夏にサンロッカーズ渋谷入りした36歳の彼にとって、日本はフィンランドから数えて11カ国目だった。

グインはSR渋谷に加入すると開幕から10試合連続で2桁得点を記録するなど、オフェンスの軸になった。208cm120kgという体格を誇る彼だが、持ち味は3ポイントシュート。ピック&ポップという外側に開く形から、シュートを沈めるのが彼とSR渋谷の十八番だ。25日の京都ハンナリーズ戦を終えた時点で彼の3ポイントシュート成功率は44.7%、これはB1全体の2位という高率だ。

ただ1月上旬に元NBAの大物ロバート・サクレが加入し、『共存』がすんなり実現しているわけではない。グインは1月22日の仙台戦から6試合連続で先発を外れ、プレータイムや得点もはっきりと減っていた。しかしサクレが体調不良で欠場した22日の琉球ゴールデンキングス戦で24得点の活躍を見せると、25日の京都戦もチーム最多の16得点を記録。チームの中で再浮上しつつある。

25日の試合は、勝負どころで貴重な働きを見せた。グインは第3クォーターの残り3分56秒、残り3分29秒と立て続けに3ポイントシュートを成功。46-46のタイスコアから、6点のリードを生む連発だった。

京都の浜口炎ヘッドコーチが「グイン選手の守り方は色々と約束事があったけれど、大事なところで連続スリーを決められて、あそこはもったいなかった」と悔いる試合の分かれ目だった。最終的にはSR渋谷が75-66で京都を下している。

SR渋谷のBTテーブスヘッドコーチはグインのハイスコアについて、理由をこう説明する。「もう少しオフェンスを積極的にということで、使い方を少し変えた。ピックの2対2のところでもう一回ピックを掛けに行ったり、速攻の中でドラッグスクリーンをかけに行ったりということで、彼がいい気持ちでオフェンスに入れている」

とはいえサクレが来日してから1カ月半という時間の短さもあり、連携にはまだ改善の余地がある。そこはグインも「もっとサクレと関わってプレーするところは、もう少し時間のかかるところ」と認める通りだ。逆に言うとサクレとグイン、そしてチームの連携が深まれば、グインの得点も増えていくだろう。

10カ国でプレーしたグインが見た『日本のバスケット』

25日の京都戦では対戦相手のマーカス・ダブも20得点、13リバウンドの活躍を見せた。ダブとの『初対決』について記者に問われたグインは「彼とはイスラエルリーグで一緒にプレーしていた」と切り出し、我々を驚かせた。

グインがヨーロッパ各国のリーグで既に遭遇していた選手が、B1には何人もいるとのこと。例えば先週の琉球戦で対戦したラモント・ハミルトン、レイショーン・テリーの2名もやはり来日前に対戦歴があった。「2人とはどこの国で?」と問うと、困り顔で「忘れちゃったよ」とグイン。流石に10カ以上でプレーしていると、記憶も混乱するようだ。

年齢と豊富なキャリアがあるだけあって、グインはどんな質問にも自然体で、落ち着いて答えていた。初のアジア、日本での生活についても「行った国に対応しようと思っているし、日本で何か不自由に感じることはない」と言い切る。少々の環境の変化に動じることはもうないのだろう。なお、好きな日本食を尋ねると「鰻の寿司」とピンポイントの答えが返ってきた。

ただ「過去にプレーした国々と日本を比較してどう考えるか?」という質問を彼にすると、彼はしばらく考え込んでしまった。ヨーロッパのバスケについては「いくつかの国はすごく組織的にプレーしたし、ある国はラン&ガンで走るスタイルだし、他の国はその両方持っている国もあった。国によって違うなと思った」と振り返る。「組織的にプレーする国」を具体的に挙げてもらうとスペイン、ギリシャ、リトアニアの3カ国だ。

日本は彼に言わせると「走るチームもあれば、組織的にやるチームもあるし、両方の要素を持つチームもある」という、スタイル的には豊かな国なのだという。

ワールドカップや五輪の出場権を自力でつかめるようになるために、日本は世界のバスケから様々なものを学ばねばならない。アメリカで生まれてバスケを学び、ヨーロッパの10カ国でプレーしたグインの経験値は、Bリーグに還元し得る貴重な財産なのかもしれない。