効果的に得点を決めることで、代表での存在感を取り戻す
イランとの2戦目。勝たなければならないホームゲームを接戦で落としたのは、新たなオフェンスシステムに気を取られてディフェンスの激しさが影を潜めてしまい、イランのトランジションゲームに付き合ってしまったからだ。ピック&ロールからの攻め手を生み出す方向性を示すことはできたが、ディフェンスにおいてはまだチームが機能していない。一つのチームになるには、まだまだ時間を要する。
そんな中で、この2連戦を通して持ち味を発揮した選手といえば田中大貴の名前が上がるだろう。
1戦目はベンチスタートながら、24分の出場で12得点2アシストをマークして効果的に得点を重ねた。2戦目はスタメンで出場し、前半に劣勢だった試合を互角に持って行くきっかけを作った。前半終了間際に3ポイントシュート2本と、イランが取ったタイムアウト後にドライブからの得点を決めて3連続ゴールで逆転に導く活躍。28分54秒のプレーで14得点3アシストを記録した。
スタメンでもベンチメンバーでも存在感を見せつけた田中は、2連戦の手応えをこう語る。
「ピック&ロールを使ってからの攻撃は自分の一つの武器だし、自分はそこからフィニッシュすることも、アシストでパスをさばくこともできるので、これからはもっとオフェンスのオプションを増やして日本代表に貢献していきたい」
攻撃の起点作りをすることで見つけた代表での『居場所』
イランとの2連戦で役割を果たす姿を見ていると、田中が7月のオリンピック世界最終予選(以下OQT)において、12名の選考から落選した選手であることなど忘れてしまう。
「なぜ?」との議論が起きた田中の落選だが、日本代表における田中の欠点として、何でもそつなくこなすが、これといった特色が見えにくかったことがある。2014年のアジア競技大会でも、2015年のアジア選手権においても、アルバルク東京でのエースとしての活躍に比べると、日本代表での物足りなさは否めなかった。
ゆえに、プレータイムは激減。また、そこで人を押し退けて『俺が俺が』とアピールするようなタイプでもない。
自身もOQT前には「これまでは器用貧乏になっていたので、何か武器を作らないといけない」と語っており、これまでの自分と決別しなければならないことは理解していた。
そこで、前ヘッドコーチである長谷川健志は田中の持ち味を出すために、OQT前にポイントガードのポジションを任せた。ボールを持つことからスタートすれば、自らプレーをクリエイトする田中の長所が出やすくなるという発想からだった。
しかしポイントガードをこなせば、ゲーム作りに気を遣うために、球際に絡むことを怠ってしまう。これは同じく比江島慎(シーホース三河)にも言えることだが、本職ではない田中や比江島がポイントガードを務めることは、サイズやディフェンス面では利点であってもトランジションの展開は作りにくく、リバウンドやルーズボールに跳び込んでほしいところでも反応が遅く、足が止まってしまう傾向があった。
ポイントガードを経験したことで、ゲーム作りの考え方や引き出しを増やすことはできたが、やはり田中は2番(シューティングガード)か3番(スモールフォワード)のポジションで効果的に得点を取るスタイルのほうがマッチする。
特に今回のように、ピック&ロールというスタイルを主流にすることは、アルバルク東京でやっているスタイルと同じように攻撃の『起点作り』に参加できるのが大きな利点である。ポイントガードとしての起点作りには合格点が出なかったが、ピックを使って自身がオフェンスの起点になることはフィットした。ルカ・パヴィチェヴィッチ体制のもと、ようやく『居場所』を見つけたのだ。
落選の無念を経験に変え、2020年に向けて再スタート
昨夏、OQTの落選時に田中は無念さを押し殺してこう語っていた。
「大学生の頃から代表活動をしていたので、ここで落とされることは悔しさというよりも情けなかった。東京オリンピックのことを考えれば、OQTという世界の舞台を経験しておきたかったし、それができなかったことは明らかにマイナスです」
あれから7カ月――。田中はアルバルク東京の中心選手としてBリーグで存在感を示し、「やっぱり田中は必要だ」と納得させるプレーを見せて日の丸の舞台に戻ってきた。
「一戦目の国歌斉唱の時に、やっぱり日本代表はいいなと感じました。昨年のOQTを経験することはもうできないけれど、選ばれなかったのが東京オリンピックでなくて良かったと思うことにしたい。2020年には絶対に活躍したいので、もうこのポジションは譲りません。あの時に落ちた経験があるから今があると言えるようにこれから頑張っていきたいし、アピールしていきたい。そのためにはディフェンスをもっとしっかりやらないといけません。自分はディフェンスでもアピールできる選手だと思うので」
個性を取り戻した田中大貴は、2020年に向けて再出発を誓う。