リッキー・ルビオ

若い選手が多いキャブズで、ルビオの知性が素晴らしいアクセントに

バスケットボールの男子日本代表は、東京オリンピックの初戦でスペインを相手に11点差の接戦を演じました。ところが、何かもう一つでもアップセットを起こせば逆転可能な点差であった一方で、点差以上の違いを感じずにはいられない『永遠に埋まらない11点差』にも見えました。それはゲームメーカーとして時間と点差をコントロールするリッキー・ルビオがいるかいないかの差でした。

ワールドカップでMVPに選ばれた『世界一のポイントガード』のルビオですが、個人の突破力や得点力を重視するアメリカでは正当な評価を得ておらず、見事な活躍をしていたオリンピック期間中にも、再建中のキャバリアーズへとトレードされてしまいました。本人もショックを受け、NBAでプレーを続ける意欲を失っていたとも言われていました。

それでも気持ちを切り替えて臨んだ今シーズンは、これまで通りフィールドゴール成功率36%という低空飛行ながら、6.5アシストに2.6ターンオーバーで、ゲームメイカーとして華麗に活躍しています。エースのコリン・セクストンを欠きながら、キャブスはここまで18勝12敗と大躍進を果たしています。

キャブスの得点はリーグ19位の106.6ながら、アシスト数24.9本はリーグ9位に位置しており、連動性を重視する形が明確に出ています。個人の成績を見ると新人王最右翼といわれるエバン・モーブリーの加入があるものの、フィールドゴール成功率は47%に留まっており、ビッグマンとしてインサイドを圧倒しているわけではありません。3年目のダリウス・ガーランドは3ポイントシュート成功率を39%と伸ばしていますが、個人の成績を見れば昨シーズンから劇的に向上したわけでもありません。

しかしセクストンも含めると8人が2桁得点しているように、バランスアタックで的を絞らせないオフェンスがキャブズの強みとなっています。ルビオとガーランドの両ポイントガードと、インサイドでパスを散らせるモーブリーの展開力がカギとなり、勝利を積み上げてきました。試合によって違う選手がハイスコアを記録するのも特徴で、相手ディフェンスの弱点を見極める巧みな駆け引きも目立ちます。若い選手が多いチームで、ルビオの知性が素晴らしいアクセントになっているのです。

バランスの良さは相手ディフェンスからすると対応するのが難しいのですが、試合が進むにつれて慣れも出てきます。そのためキャブスは先行逃げ切りスタイルになっており、前半の得失点差が+5.1点もある一方で、後半は-0.1点と失速してしまいます。それでも試合を見ていると「よく0.1点で済んでいる」という印象を受けます。勝てるチームは後半に強いパターンが多いことを考えると、若いキャブスが逃げ切れているのは不思議なことでもあります。

チームを逆転勝利に導くには、苦しい局面で個人能力で得点することは重要で、それはルビオには向いていない役割かもしれません。一方で時間と点差をコントロールし、追い上げを食らいながらもリードを有効活用し、試合終了時点で勝っている状況に持っていくことに関して、ルビオの右に出るポイントガードはいません。若さと勢いとバランスアタックで得た前半の貯金を使って、ゲームをクローズさせていくルビオの能力により、キャブスの勝率は跳ね上がっています。

特に相手がリズムに乗りそうな時のルビオは、隙を見つけて意外性のあるパスを通して得点を演出することもあれば、相手から見えない角度で飛び出してのスティールなど、身体能力ではなく状況判断によるスーパープレーで流れを断ち切ります。また、そんなルビオに触発されるように、チーム全体がボールのないところでも妥協しないプレーを繰り返すようになり、キャブスは再建段階のチームらしからぬ、しぶとい勝ち方ができるようになりました。

これまでジャズとサンズでも、ルビオはチーム全体を成長させるキーマンを演じてきました。最も長く在籍したウルブズを除けば、ルビオがもたらす知性でチームは成長するのですが、チームが成熟段階になると、シュート能力の低いルビオがトレードで放出されてきました。そうしてたどり着いたキャブスは、これまで以上に厳しい環境に思われましたが、予想に反して見事にチームを引き上げています。個人の成長ではなく、チームを成長させるという点でルビオほど頼りになるポイントガードはいないことを示している今シーズンの活躍です。