マイケル・ポーターJr.

5年のマックス契約がスタートする前から『選手生命の危機』に

ナゲッツにとっては考えられる限り最悪の展開となってしまった。11月7日のロケッツ戦を最後に腰の痛みで休養しているマイケル・ポーターJr.は、古傷の腰を手術することになり、今シーズンの残り試合は全休となる。

高校時代から将来を嘱望されたポーターJr.だが、そのキャリアは腰の問題に妨げられてきた。大学時代は腰の手術でほとんどプレーできず、2018年のNBAドラフトにエントリーするも、上位指名権を持っていた球団はことごとく指名を見送った。ドラフトを前にシカゴで開催されたコンバインで、ポーターJr.はあるNBA球団のドクターに腰を診察され、「トップレベルでのプレーは不可能だ」と診断された。特にクリッパーズは彼を指名するつもりでドクターの責任者を送り込んだが、診察した上で指名を撤回している。結局、14位指名でナゲッツへ。ここでも腰の手術を受け、デビューは1シーズン後に持ち越された。

デビューは1年半後ろ倒しになったが、コートに立ったポーターJr.はドラフトトップ3クラスのポテンシャルを見せる。打点が高くクイックリリースで放つジャンプシュートは相手が警戒していても止められず、またドライブでゴール下をこじ開ける強さもあり、リバウンドにも強い。決して得意ではなかったディフェンスも、2年目にはかなりの向上を見せた。

ニコラ・ヨキッチとジャマール・マレーに加えて、腰に爆弾を抱えたポーターJr.の指名が『当たり』だったことで、ナゲッツは一躍優勝候補へと躍り出る。『バブル』の2019-20シーズンにはカンファレンスファイナルに進出。レイカーズに敗れたものの、若いチームは経験を積み、さらに上に行くのは確実と思われた。

しかし、昨シーズンはマレーが膝に大ケガを負い、今度はポーターJr.が離脱。ポーターJr.のエージェントは「完全に回復するための手術だ」とコメントしているが、ナゲッツの管理下で行われた2度目の手術が本来そうあるべきだったはずだ。ポーターJr.は今シーズン開幕からずっと、腰に痛みを抱えながらプレーしていた。離脱が決まった後、本人は手術以外の方法を探ったとされるが、結局は3度目の手術を行うことになった。

問題は2つある。ポーターJr.が本当に回復するのか。そして、今シーズン開幕前に5年間のマックス額で契約を延長したことだ。

ポーターJr.は来シーズンのどの時点で、どれぐらいのコンディションで戻って来るのか。2度の手術をしたにもかかわらず、彼は痛みを抱えながらプレーし、3度目の手術も必要となった。消耗の激しいNBAでプレーする中で、「完全に回復する」ことがあり得るのだろうか?

さらに、ナゲッツとポーターJr.は来シーズンから始まる5年207億ドル(約220億円)の契約延長にサインしている。ポーターJr.が回復しなかった場合、この契約はナゲッツの将来に大きなダメージを及ぼす。マレーとアーロン・ゴードンとは2024-25シーズンまでの契約が保証されており、ヨキッチとは来年オフにスーパーマックス契約を結ぶ想定で、この期間がすべてNBA優勝を狙えるチャンスとなるはずだったが、ポーターJr.が不在、もしくはケガを抱えながら今シーズン序盤のようなプレーしかできないとなれば、計画は大きく傾く。

今シーズンはPJ・ドジアーの離脱もあり、もはや得点力不足はカバーできない。おそらくマレーの復帰も急がせす、来シーズンに万全を期すことになるだろう。ここまで9勝10敗と負け越しているナゲッツは、一般的な予想としてはヨキッチの奮闘により下位シードでプレーオフには進めても、ファーストラウンドを突破できるかどうか。カンファレンスファイナル進出の再現は少なくとも現時点では絶望的だし、この先の展開を考えても上積み要素はほとんどない。

他のチームであればタンクへと舵を切ってもおかしくない状況だが、昨シーズンMVPのヨキッチに「今シーズンは勝ちにいかない」と告げることはできない。ただ、チームは軌道修正を強いられるだろう。今後に向けて若手にプレータイムを与え、ヨキッチを軸に上手くやりくりして、プレーオフ進出を目指す。ただ、その先に希望を見いだせるのかどうか、今はポジティブな見方はほとんどできない。