中部第一

この夏、中部第一は初めて全国制覇を果たした。それでも常田健コーチに慢心は全く見られない。彼の頭にあるのは、北陸を相手に1回戦負けに終わった昨年のウインターカップだ。自分たちの力を出しきらないまま敗れた悔しさは、ウインターカップが近づくにつれて蘇ってくる。常田コーチは「ウインターカップでの悔しい思いはウインターカップでしか払拭できません。インターハイで優勝してもそこは乗り越えられるものではない」と語る。中部第一は、『夏と冬の2冠』ではなく、ただただウインターカップ優勝を見据えている。

去年の大会は「選手個々が持っている力を出して負けたわけではない」

──夏のインターハイを制し、初めて日本一になりました。優勝したことでどのような変化がありましたか?

多くの人に喜んでもらえました。学園もすごく喜んでくれて、理事長が練習を視察して選手たちに声を掛けてくれたり、日進市長にも来ていただきました。また県庁で愛知県知事に挨拶させていただいたり。テレビの取材もこれまでとは比較にならないほど多かったですね。

──全国優勝を果たしたことで、チームに『王者の自覚』みたいなものは芽生えましたか?

インターハイの後は私が国体のU-16を見て、さあこれからという時に愛知でもまた感染が増え始めたので、インターハイが終わって9月いっぱいまでは練習試合ができず、チームで練習をしても、それを試す機会がなかなか持てませんでした。ウチは県外から来ている寮生も多いのでワクチン接種を10月頭までに2回終わらせたのですが、3つのグループに分けて接種したので、誰かが副反応でダウンしていて全員揃って練習ができない、という時期がかなりありました。選手たちが緩んでいるとは思いませんでしたが、ようやく練習試合を入れられるようになったのが10月で、県予選は不安が多い中で臨むことになりました。

──昨年もコロナの影響に振り回されました。一難去ってまた一難、の状況が続いていますね。

去年はすごく「なぜウチだけが」という感覚になったのですが、今年はどこもそうだと分かっていて「ウチだけが遅れを取っているわけじゃない」と思うことができました。ワクチンを打てば大丈夫だろう、と思えたのも去年よりは良かったです。

──ウインターカップが近づく今、どのようなチーム作りに取り組んでいますか。

ご存じの通り大変な組み合わせになったので、初戦から気の抜けない試合が続きます。去年のウインターカップで感じたのは、コロナで満足のいく練習ができないまま臨んだにしても、選手個々が持っている力を出して負けたわけではない、ということです。相手が強かった、良いチームだったのは置いといて、自分たちのやってきたことを出した上での負けだったかと言えば、そうではありませんでした。

だから今、選手たちに言っているのは「自分の持っているものを出しきる習慣を身に着けろ」ということです。そのためには常に出しきる練習が必要です。ダッシュ1本、ディフェンスにしてもオフェンスにしても、自分の持っているものを出す習慣を作らないと、力を出せずじまいで終わってしまいます。それだけは避けたいという感じで準備をしています。

中部第一

「厳しい試合ばかりとなるウインターカップを楽しめるように」

──組み合わせ抽選の結果がすごいことになりました。おそらく初戦が洛南、次が大濠か開志国際、その後も強豪ばかりとの対戦が予想されます。この抽選結果を見て、率直にどんな感想を持ちましたか?

「マジかよ」と思いました(笑)。どう言葉を掛けたらいいのか分からなかったのか、誰も電話してきませんでした。私自身、左のヤマには強いチームが結構集まるんじゃないかと思っていたんですが、ここまでとは思いませんでした。

普通なら大会の中でいろいろ試しながら勝ち上がっていくこともできるでしょうが、このヤマでは毎試合が必死の戦いになります。初戦で気持ちをマックスに持っていくと言いたいところですが、実際にそうしたら後は下がる一方です。3回戦に照準を定めたら最初の試合で食われてしまうかもしれない。ベスト8では絶対消耗させられるだろうし、それでようやく準決勝か、と考えてしまいます。実際に大変だと思います。インターハイで優勝したチームが強豪とばかり対戦する組み合わせになって、「第1シードって何だっけ?」と思ってしまうのが本当のところです(笑)。

──監督室には『ブレるな常田』という言葉が掲げてあります。

習字の先生をしている親御さんが書いてくれました。自分自身に言い聞かせる意味で飾っていますが、でもブレますよね(笑)。

──選手たちにはどんな声を掛けましたか?

選手たちと向き合う時は気持ちを切り替えられます。最初に言ったのは「組み合わせが良いから優勝を狙おう、じゃないだろう。相手がどこであろうが目標は日本一なんだから、この組み合わせを見て1試合も気が抜けないことが予想される以上は、日頃の練習の質、モチベーション、考え方を設定し直そう」でした。実際に大会に臨んだ時、この組み合わせを楽しいと思えるか、不安や恐怖にかられるのか、それはここからの準備次第です。厳しい試合ばかりとなるウインターカップを楽しめるように、良い練習を積み重ねていこうと話しました。

中部第一

「決勝の舞台に行きたい、そこで勝ちたいという思いはあります」

──それぞれの選手のどういったところに期待しているかを教えてください。

ガードの下山(瑛司)には、もう少し的確な判断、声を出してチームを引っ張ってほしいとインターハイが終わってからずっと求めています。福田(健人)は大きい捻挫をインターハイ直後にしてしまい、十分に練習ができないまま予選に入っています。今は練習ができているので、ウインターカップではやってくれると期待してます。とにかくベストコンディションを作ってほしいです。坂本(康成)はディフェンスをもうちょっと頑張ってくれれば。(田中)流嘉洲はプレーの幅を広げたいと思っていて、今はちょっと背伸びをしすぎている感じ。試合の中で自分が何でチームに貢献できるかの軸はズレてほしくないです。ですが練習での努力も伝わってくるし、将来を考えても良いチャレンジなので、公式戦で勝負できるプレーかどうかの精査をこれからやってほしいです。そして一番はアブ(アブドゥレイ・トラオレ)、留学生の彼がチームの屋台骨なので、ファウルトラブルを避けてしっかりやってくれれば、というところです。日本語の理解力もかなり上がっているのですが、失敗するのが嫌でしゃべらないんですよね。恥ずかしいというかおとなしいです。

──組み合わせは別として、インターハイで優勝したことで追われる立場となります。

愛知県で追われる立場は経験していますが、全体的にレベルが違うので、どう調整していくかは難しいですね。これまでは自分たちよりも上のカテゴリーとたくさん練習試合をしているのですが、それで結構勝つんですよ。これまでだったら歯が立たないカテゴリーの相手と良い試合をするので、力はあると思います。だから逆に、練習で私が「ダメだ」と言っても、選手たちは試合で通用するから、どう受け止めているかは難しいところです。

──この組み合わせを勝ち抜いて優勝できたら、ただの優勝とは違った重みがあると思います。

そうですね。今回は有観客になってくれたら良いと思います。インターハイは関係者や対戦校の生徒さんたちだけで、静かな中での試合でした。できればやっぱり、関係者だけじゃなくて多くのバスケットボールファン、高校バスケファンの前でバスケットがしたいです。だからコロナが落ち着いたままで大会を迎えられれば。1年間で最後の大会ですし、インターハイより大会も演出されています。去年は1回戦で負けて、明成が勝ち上がっていくのを見ていました。やっぱり決勝の舞台に行きたい、そこで勝ちたいという思いはあります。

──最後にあらためて、ウインターカップへの意気込みをお願いします。

去年の1回戦負けは本当に悔しくて、それが私自身も中部第一高校としても今年の原動力になっています。ウインターカップでの悔しい思いはウインターカップでしか払拭できません。インターハイで優勝してもそこは乗り越えられるものではないので。今の3年生と一番長くバスケットができるように頑張っていきます。