井手口孝

11月3日にアクシオン福岡で行われたウインターカップ福岡県予選の決勝では、佐藤涼成と轟琉維のガード陣がスピードで福岡大学附属大濠のディフェンスを切り裂いて得点を量産し、福岡第一が勝利した。6月のインターハイ予選では大濠に敗れ、連続出場が途切れている。その後のチーム作りは新型コロナウイルスに大きく妨げられた。部員数100人の大所帯の福岡第一バスケ部の中で感染者が出て、しばらくは練習が全くできず、再開後も活動はかなり制限された。チーム作りのあるべきステップをかなり飛ばして臨んだ県決勝だけに、快勝してもなお井手口孝コーチに気の緩みはない。試合ができることに感謝しつつ、ウインターカップまでにチーム力を少しでも高めて優勝を狙いにいく。

「勝つには勝ちましたが、チームがどれぐらいの位置にいるかは分からない」

──ウインターカップの県予選決勝で大濠を破りました。『福岡県で勝つ』ことの価値をどう考えていますか?

ウインターカップのシードを取るのは別にして、地元でやる最後の試合ですから、選手たちは勝って終わりたい気持ちが強かったと思います。私の場合、今年は試合ができること自体が去年以上に感謝感謝で、これだけ勝ちにこだわらない試合は初めてでした。選手の前では「何としてでも勝つ」という姿勢は出しますが、準決勝までマスク着用で試合をしたのは、とにかく決勝戦の舞台に立たせようという気持ちがあったからです。準決勝に勝てばウインターカップ出場が決まるので、準決勝でマスクを外そうと思っていたのですが、マネージャーが「でも先生、マスクを外して練習をしていたいので、むしろやりにくくなるかもしれません」と言うので、準決勝までマスクをしました。準決勝が終わって、月曜と火曜にマスクを外して練習して、水曜の決勝に臨みました。8月にバスケ部でコロナを出してしまい、そこから練習試合もできない中での大会でしたが、終わってみれば上出来でした。

──大濠が相手だからようやくマスクを外して本気を出した、というようにも端からは見えました。

それは考えていなかったですね。例えばどちらかのチームに陽性者が出た場合、マスクをしていることでどれだけ免れるか分からないですけど、それで生き延びる可能性が出るかもしれないという思いでした。

──それでも福岡県を勝って勢いを付けて、ウインターカップを迎えられます。

今年になって、選手たちが力を出し切るゲームはインターハイ予選と県大会、今回のウインターカップ予選の決勝で、これでやっと3試合目なんです。だから、まだまだ強いのか弱いのか分かりません。いろんなチームと対戦して、自分たちが通用するかどうか確認していく作業が本来ならたくさんあって、そこで手応えを得られます。ですが、今回は勝つには勝ちましたが、チームがどれぐらいの位置にいるかは分からないです。

井手口孝

「ずば抜けた選手もいますが、実力が同じぐらいであれば3年生を選びます」

──主力の早田流星選手を欠く状況で大濠に勝ちました。この点からしても良い位置にいるのではないかと思います。

早田だけではないのですが、今のウチには絶対的な選手がいません。だから誰かが欠けても補うことができます。先日の決勝でも10人ぐらい使ったんですが、そんなに変わりませんでした。戦力になる選手がたくさんいるとも言えますし、力がある選手がいないから替えが効くだけかもしれない。それもまだ大濠さんとやっただけなので、分からないんです。ただ、早田が戻るのは大きなアドバンテージです。キャプテンなので精神的にも大きいです。今回もベンチに入れるだけでも入れようという意見がスタッフから出ました。ただ私は「今日が最後の試合じゃないから」と、他の3年生にチャンスを与えました。

──2年生の轟琉維選手に1年生の崎濱秀斗選手と、下級生に使える戦力がいる中で3年生を重用しました。

ウチには100人の部員がいます。今は20人から25人でグループ分けをして練習し、いわゆるレギュラーチームに近い選手たちから15人を決めるのですが、来年や再来年のことを考えて下級生を入れる考え方もあります。だけど私は、今まで3年間やってきたものを信じて、一人でも多くの3年生を入れたいです。実際に3年生を信じた時の方が良い結果が出ています。そうじゃなければ、毎日毎日やっていることが大したものじゃない、ということになってしまう。誰もが認めるずば抜けた選手もいますが、実力が同じぐらいであれば3年生を選びます。

──今年は絶対的な選手がいないという話でしたが、佐藤涼成選手や轟選手はそうは見えないですか?

今回は上手く行きましたが、前回は全くでした。6月から11月まで、実力が極端に伸びたわけでもありません。轟はケガがあって2カ月ぐらい練習していません。今回の試合では、あの2人は上手く行きました。もちろん、持っている力があるからですけど、また同じことができるとは限らないです。ただ、大きなきっかけになるゲームだったとは思います。

──轟選手は、井手口コーチから「お前が点を取りに行け」と言われたと話していました。

彼の場合は新人戦もなくて、5月の予選で初めてスタートで出ても、まだ下級生で立場も実力も足りていなくて、何とかコートに出ている状況でした。インターハイ予選の最後は彼の3ポイントシュートが外れて負けて、おそらく彼のバスケット人生で一番悔しかった瞬間でしょう。その後にケガを過ごしたのですが、コロナで練習ができなかったことで逆に良いリハビリができたと思います。心と身体が万全になったことでプレーが安定し、身体つきもたくましくなりました。

それで「相手のガードは岩下(准平)くんも針間(大知)くんも3年生だけど、お前のドライブは止められないぞ。だからお前がどんどん行って点を取って来い」と、彼の気持ちを押すような言葉を掛けました。同じようなことは佐藤にも言ったのですが、そこは大濠さんも予想できなかったかもしれません。やっぱり(ヌンビ・マトゥンガ)マイクのところ、フォワードで攻めるのがセオリーですから。そういう意味では、ウインターカップではいわゆる背の高いグループ、3番から5番のポジションの選手がどれだけ自分の持っているスキルを出せるかに期待したいです。

井手口孝

「足りないところばかり。ですが、これからすごく伸びる可能性もある」

──ウインターカップ本大会に向けて、どうチームを仕上げていきますか?

バスケットのスタイルとして、県大会の決勝は目指すところに近いイメージはあります。そこをもう少しアグレッシブに、ハードに。ウチはディフェンスからしかないので、そこをワンランク上げてウインターカップに臨みたいです。

──過去と比べて、今のチームの実力をどう見ますか?

過去に優勝したチームと比べれば足りないところばかりですよ。ただ、今がそうであって、これからすごく伸びる可能性もあると思っています。例年だったら今はピークに近いところで仕上げに掛かっていますが、今年は新人戦の1月ぐらいの感じです。だから時間はありませんが、まだまだ伸びる幅は残っているという感じです。

11月に練習試合を少し増やして、いろんなパターンを試しながらトーナメントの中でアジャストできるような準備をしていきます。そういった練習試合では、後から「あの時と同じ場面だ」、「あの時のチームの守り方だ」、「あの攻め方だ」というのが必ず出てきますから。今のチームにはまだそれがなくて、自分たちのことを一生懸命やっているだけです。それを11月中にどれぐらいやれるかですね。

──大濠以外に、「ここには負けたくない」というチームを挙げるとすれば、どこですか?

やっぱり去年負けた明成ですね。全部を見たわけじゃないから分かりませんが、(山﨑)一渉くんと(菅野)ブルースくんの力がかなり伸びているはずですから一番強いという印象です。それに冬の佐藤久夫先生は強いので(笑)。だいたい明成とは分が悪いんです。佐藤先生を私が尊敬しすぎているから勝てないんだ、と周りの人に言われることもあります。ただ、指導者としての大きな目標だし、大先輩ですからね。なかなか勝たせてくれません(笑)。

──最後に、ウインターカップの意気込みをお願いします。

県大会を勝ったことでシード権を得られて、良い組み合わせになりそうなので、優勝を狙っていきたいです。