今シーズンのBリーグは、アジア特別枠で多くの若きフィリピン選手がプレーしている。その中でも最初に大きなインパクトを与えたのは新潟アルビレックスBBのコービー・パラスだ。開幕戦でいきなり25得点の大活躍、その後も恵まれた身体能力を生かしたダイナミックなプレーでファンを魅了している。そのパラスに、Bリーグの印象、自身のバスケットボール観を語ってもらった。
「多くの人々に試合を見に来て、チームをサポートしてもらいたい」
──デビュー戦からいきなりの大暴れで、新潟の主力選手として活躍されています。ここまでの自身のプレーをどう評価していますか。
バスケットボールはチームスポーツなので、自分のスタッツは気にしていません。チームの勝利に貢献するため何でもやる。それだけに集中しています。それより試合に負けると悲しいです。大事なのはどれだけハードワークできるか。そこには皆さんがソーシャルメディアやテレビで見ることができないたくさんのことがあります。みんなハードに練習をしています。皆さんがチーム練習を見ることができたら分かるのですが、僕は練習では良いプレーができていません。チームメートが素晴らしいディフェンスをしているからです。素晴らしいコーチとチームメートのおかげで良いパフォーマンスができています。
──フィリピンの大学でプレーを続けるのではなく、Bリーグに来ることを決めた理由を教えてください。
フィリピンでは新型コロナウィルスの影響で、この2年間あらゆる大学スポーツが行われていません。そして、Bリーグはアジアを代表するプロリーグの一つです。だから、ここにいられることに感謝しています。大学のチームで日本に遠征して、日本を代表する強豪大学と対戦しました。そこでBリーグの発展ぶりについて聞きました。そして2020年、サーディ(ラベナ)がフィリピン人選手として初めてBリーグでプレーしています。Bリーグがどんなに素晴らしいのか理解していました。
Bリーグは大学とは全く違います。みんな自分たちがチーム、地元の街、特にブースターのために戦うことを分かっています。ユーロリーグやNBAでプレー経験のある外国籍選手がいて、とても競争が激しいリーグです。また、ペースがとても速いです。例えばNBAは1対1が多いです。ユーロリーグは、それぞれの国でスタイルが違っています。Bリーグでは、ほとんどの日本人選手たちはスピードがあり、みんなリバウンドを取りにいきます。あらゆるリーグでフィジカルは重要ですが、このペースとフィジカルに慣れる必要があります。
──新潟を選んだ決め手はどんなところでしたか。
熱心にオファーしてくれた唯一のチームが新潟でした。僕の返答について期限を設けることなく、戦力となる選手を必要としているとだけ伝えてくれました。新潟の真摯な態度はありがたかったし、チームの一員になれて幸せです。
新潟がどんな場所なのかは知らなくて、サーディからは東京から離れた場所だと聞いていました。とても穏やかな街で気に入っています。フィリピンは常に暖かく、今でも新潟は寒いと感じますが、アメリカでは大学1年生の時に雪が降るところで過ごしていました。いろいろと設備を整え、寒さへの準備をしています。
──チームメートとなった日本の選手たちの印象を教えてください。
日本人選手は、僕がこれまで出会ってきた中で最もハードワークするメンバーの中に入ります。たとえばキミさん(佐藤公威)は、プロ17年目ですが、熱心に練習しています。また、バスケットボールに限らず日本の人々は本当によく働いていると思います。これにはとても感銘を受けています。
──新潟ファンについての印象を教えてください。
皆さん素晴らしいです。新潟でプレーするのは初めてですが、これからもっと多くの人々に試合を見に来て、チームをサポートしてもらいたいです。すべてのブースターに感謝をしています。皆さんがいなければ、チームは今のような支援を受けることができないです。
「バスケットボールでプレッシャーを感じることは全くありません」
──日本の暮らしには慣れましたか。
今はバスケットボールとトレーニングに集中する暮らしです。日本食は大好きですし、日本の皆さんはまず敬意を持って接してくれるので大好きです。日本食でよく食べるのは牛丼ですが、寿司がNo.1です。他には焼肉も大好きです。フィリピンにいる時も食べていましたが、実際に日本で食べると全く違います。日本の方が新鮮で、地域の特産品を味わえるのが良いですね。
──パラス選手以外にもラベナ兄弟、ドワイト・ラモス選手、レイ・パークス・ジュニア選手など多くのフィリピン選手がBリーグでプレーしていることをどう感じていますか。
今、皆さんはフィリピンに多くの素晴らしい選手がいることを知りつつあると思います。これまでそういった機会がありませんでした。フィピリンは発展途上の国で、貧困などいろいろな問題を抱えています。だからこそ、僕や友人の選手たちがそんな人々に多くの楽しみを与えたいです。僕はこのチームにいられることに本当に感謝しています。それはラベナ兄弟、ドワイト(ラモス)、リアノ兄弟など他の選手たちも同じだと思います。
──フィリピン人対決で注目されることにプレッシャーはありますか。
バスケットボールでプレッシャーを感じることは全くありません。毎日、食べ物を買うのに苦労したり、コロナのパンデミックで職を失うなど生きることが大変な人々のことを思う時にプレッシャーを感じます。Bリーグでプレーできるのはありがたいことです。日本の皆さんが、このリーグを素晴らしいものにしています。パンデミックの中でも、このような環境にいられてとても幸運です。
──これまでの活躍でパラス選手への注目度はどんどん高まっています。
今の状況はチームメートのおかげです。そしてハードワークが実を結んだと思いますが、これはまだ始まりにすぎません。まだシーズンの半分にも達していないですし、毎日できる限りのことをしていくだけです。自分やチームに過大な期待をすることなく、今やるべきことに集中していきます。
2019年、新型コロナウィルスによるパンデミックが起きて以降、競技レベルでは1試合もバスケットボールをプレーしていませんでした。だからまだ本来の調子ではありません。人々によく何%かと聞かれますが、まだ80%くらいです。もっとコンディションを高めていかないといけないです。
自分のプレーを見ると、すぐに疲れているのが分かります。2週間の隔離生活の影響もあります。今は毎日練習できることに感謝していますし、毎日が僕にとって良くなっていけるチャンスです。人々の期待は失望へと変わってしまうものですが、それを気にせずに自分のやることに専念します。大事なのはシーズンを通してハードワークすることで、それが報われることを望んでいます。
「試合に負けてもバスケットボールの本質を見なければいけない」
──フィリピンの元トップ選手だった父親、コービーという名前について重圧に感じることはありますか。
父はフィリピンの『生ける伝説』です。フィリピンで最も偉大な選手の一人で、僕にたくさんのモチベーションを与えています。子供の頃から父のような実績を残し、人々に応援される選手になりたいと思っていました。父の存在がプレッシャーになったことはありません。偉大な父がいて幸運だと思っています。コービーの名前については、コービー・ブライアントが亡くなって以降、どれだけ重要なものかより意識しています。僕はただハードワークをするだけです。先ほども言いましたが、バスケットボールでプレッシャーを感じることはありません。コロナ禍の中でもプレーできることに感謝しています。
──日本のバスケットボールファンに、コービー・パラスとはどんな選手と紹介したいですか。
試合に出場しても、そうでなくても、コーチの求めることを何でもこなす選手です。バスケットボールはチームスポーツであり、スター選手や中心選手が特別だとは思っていません。ベンチにいる選手もコートに立っている選手と同じく重要です。
──この考えは、父の教えですか。どんな体験が影響していますか。
子供の頃から、僕は周囲に関心を持たれていました。みんなが僕に『自分ではない誰か』になってほしいと思っていました。みんなが僕に何かを期待していました。そういった中で育つことで、試合に負けてもバスケットボールの本質を見なければいけないと学びました。バスケットボールはチェスやテニスのような個人競技ではなくチームスポーツで、選手は多くの支えで成り立っています。コーチ、マネージメントに加え、バスケットボール以外の人々の助けも、試合でプレーするためには同じくらい大切です。
──最後にファンへのメッセージをお願いします。
また、多くの試合が残っており、試合会場、テレビのどちらでも皆さんに応援をしてもらいたいです。皆さんのサポートは本当に感謝しています。僕とチームはすべての試合で100%を出すことを約束します。