セルビア代表

「成功した選手もいるが、失敗した選手の方が圧倒的に多い」

先月末にセルビア代表のヘッドコーチに就任したスベティスラフ・ペシッチが、今の若い選手がこぞってNBAを目指す傾向に警鐘を鳴らしている。

ぺシッチはこれまでにバルセロナ、バイエルン・ミュンヘンといったヨーロッパの名門チーム、ユーゴスラビア代表を率い、代表レベルでも指導者として豊富な実績を誇る。その彼が『Mozzart Sport』とのインタビューで、昨シーズンからサンダーでプレーするアレクセイ・ポクシェフスキーを始めとするセルビア出身の若手について聞かれた際、「海の水は減り、手の届くところにアメリカがある」と、独特な言い回しで現代の傾向について語った。

「ポクシェフスキーには才能がある。ただ、彼より才能があってまだNBAでプレーしていない選手がセルビアには何人もいて、そのすべてがNBAを意識している。私が心配するのは彼らのことだ。かつて海はもっと広かった。以前のヨーロッパの若い選手は、NBAから多くを学びながらも、代表でプレーすることを目標にしてきた。NBAでプレーすることも考えたが、簡単には海を渡れない時代だった。それが今では海の水は減り、手の届くところにアメリカがある。全員がNBAでプレーしたいと願っているし、そうでなくてもNBAでやっている練習を教えられるコーチを求めている。NBAの影響力はそこまで大きくなっているんだ」

ぺシッチはNBAの影響力の高まりをポジティブにはとらえていない。「代表チームで求められるものはNBAとは異なる」と彼は言う。「ユーゴ出身選手の多くがNBAに挑戦したが、その大半は失敗に終わっている。その多くは才能が開花する前に海外に出ていった選手だ。成功した者もいるが、失敗の方が圧倒的に多い。人々に影響力のあるメディアは、失敗例も報じるべきだ」

「私の故郷には『夜明け前に光るものはない』ということわざがある。物事には踏むべき順序がある。素晴らしい才能を持った若者はセルビアにたくさんいるが、私はまずこの目で見て、感じてみたい。図抜けた才能があっても、若手は葦のような存在なんだ。成長するのも早いが、簡単に枯れてしまう」

セルビア出身の選手としては、ナゲッツのニコラ・ヨキッチが昨シーズンにシーズンMVPを受賞した。ヨーロッパ出身選手で言えばバックスのヤニス・アデトクンボはNBA優勝を勝ち取り、マーベリックスのルカ・ドンチッチもリーグ屈指のスターの仲間入りを果たしている。しかし、今では毎年多くのヨーロッパ出身選手がNBAに挑戦するが、大成するのは一握りだ。NBAに定着して一定の成功を収めはしても、控え選手として限定的な役割しか与えられない選手も多い。

冷戦が終結して世界の距離は縮まり、インターネットの普及で知識や意識の距離も縮まった。NBAで活躍するインターナショナル選手の数も年々増え、NBAはオンリーワンの存在として価値を高め続けている。だが、ぺシッチはその陰にある問題に目を向けている。ヨーロッパの選手が『青田買い』されるケースはこの先も増えていくだろう。選手は自分のキャリアを自分の判断で築いていくものだが、NBAの誘惑に目がくらみ、冷静な判断を下せないことは容易に想像できる。そこで判断を間違った選手が将来有望なキャリアを台無しにしないよう、彼は代表ヘッドコーチの立場から警鐘を鳴らしている。