クーリーに頼らないビッグラインナップが機能
琉球ゴールデンキングスは、9月30日に沖縄アリーナで行われたアルバルク東京との2021-22シーズンの先出し開幕戦を63−62で制した。琉球は出だしから高確率でミドルシュートを決めるA東京に先手を取られ、多くの時間帯で10点前後のリードを許すなど第3クォーター終了時には45-54と苦しい展開が続いた。しかし、第4クォーターは琉球の伝統である激しくプレッシャーをかけるディフェンスで、A東京のフィールドゴールを15本中2本成功に抑え込み、このクォーターを18-8とし、見事な逆転勝利を達成した。
琉球の桶谷大ヘッドコーチは、このように試合を振り返る。「第1クォーター、アルバルクさんが良い流れでスコアしていき、自分たちはターンオーバーやジャック(クーリー)のファウルトラブルでリズムが良くなく、主導権を少し取られてしまいました。そこから第3クォーターまでは我慢の展開でした。そして、第3クォーターの最後に3ビッグがある程度ハマってスムーズに点数が取れ出したので、第4クォーターもそのまま続けて良いランがきました」
そして指揮官は、勝因として我慢できたことを強調した。「選手たちにずっと言っていたのは、出だしから40分間、冷静にプレーを続ける。何があっても落ち着いてプレーすることです。最初は開幕戦ということで固くなったり、高揚感があってアグレッシブに行き過ぎたり審判と話し合いをし過ぎるところはありました。それでもゲームに集中をして、しんどい時間帯でも我慢と、選手たち同士でも話し合いができていました」
桶谷ヘッドコーチが言及したように、第4クォーターの逆転を導いたのは帰化枠の小寺ハミルトンゲイリーをセンターに使い、揃って機動力とボールプッシュに優れたアレン・ダーラム、ドウェイン・エバンスを同時起用する3ビッグと、これまでの琉球になかったラインナップの存在が大きかった。
特に前半はゴール下へと積極的なアタックをしかけるもアレックス・カーク、セバスチャン・サイズ、ライアン・ロシターの堅守に阻まれインサイドで思うように得点できなかった。それが3ビッグによるエバンスの3番起用によって、日本人選手とのマッチアップで生まれたアドバンテージを生かし、ゴール下で着実に得点できるようになった。
過去2シーズン、琉球はクーリーが絶対的な大黒柱としてチームを牽引してきた。しかし、この試合のクーリーは序盤からファウルトラブルで波に乗れず。残り43秒に並里成とのコンビプレーで決勝点となるレイアップを決めたが、試合全体では19分の出場と本調子ではなく、第4クォーターも3分47秒のプレータイムに留まった。
最後のディフェンスでは「クーリーを入れていると、ガードとクーリーのところのボールピックでアタックされる。そこでドウェインを入れるとスイッチが可能になるので、3ビッグで守ったほうがいいと思いました」と指揮官は語り、リバウンドの要であるクーリーはコートに立たなかった。この判断自体は妥当なものだが、そもそもここ一番でクーリーを起用しない選択肢が取れるところに、これまでにない層の厚さが出ている。
「一つずつ成長して幹の太いチームにしていきたい」
開幕前にインタビューした際、桶谷ヘッドコーチは「前半戦はいろいろな組み合わせがある中、どのシチュエーションでどういうメンバーが良いのかを見いだすことにチャレンジしていきます」と語っていた。そして最後のクーリー不在のディフェンスを含め、揃って調子の良くなかった並里とクーリーの2人にここ一番のオフェンスを任せるなど、この発言通りの積極的な選手起用が実っての勝利だった。
また、同じ新戦力では、先発起用のコー・フリッピンは6得点2リバウンド1アシストに留まったが、スタッツに出ない部分でもエナジーあふれるプレーで存在感を発揮した。桶谷ヘッドコーチは、8失点に抑えた第4クォーターのディフェンスにおける貢献を称えている。「オフェンスはあまりしっくりきていなかったのは正直あります。ただ、ディフェンスでは相当アルバルクさんが嫌がっていた。彼らのやりたいプレーができなくなかったのは、フリッピンのおかげもあると思います」
試合全体ではディフェンスの踏ん張りは見えたが、オフェンスでの不要なターンオーバーも多く、反省点が少なくないのは事実。ただ、ここまで触れたように新戦力が開幕戦でしっかりと実力を発揮し、チーム内の競争意識がより高まるのは大きなプラス材料だ。
岸本隆一は底上げされた戦力の効果を語る。「3ビッグは今までになかったオプションで、今シーズンを通してすごく僕たちの武器になっていくラインナップと感じました。ただ、そこだけに頼ってはダメという危機感を同じように持っています。彼らだけでなく周りの選手もどんどんステップアップしていく。僕もそうですが、チームが強くなっていくには必要です」
これから様々な選択にチャレンジするからこそ、時には上手くいかない、苦しい思いをすることもあるだろう。ただ、桶谷ヘッドコーチはそれを折込み済みで「ハマるラインナップを見つけることができない試合になっても、勝ちながら一つずつ成長して幹の太いチームにしていきたいです」と決意を語る。
最後になるが、桶谷ヘッドコーチにとってこの試合は琉球の指揮官としては実に9年ぶりの公式戦となった。「試合後の最後、コートの中央でインタビューを受けた時、懐かしさと本当に自分がここに立っているのかなという不思議さがありました。ただ、沖縄のファンの人はバスケットボールをよく知っていて、真摯で熱い。こういう場所でコーチができるのは幸せだと再確認しました」
桶谷ヘッドコーチにとって、琉球での第2章のスタートは大きな可能性を抱かせるものとなった。