保岡龍斗

保岡龍斗は『3×3』男子日本代表として東京オリンピックに出場し、決勝トーナメント進出に貢献した。夢を叶えオリンピアンとなったが「びっくりするほど反響がない」と苦笑いを浮かべる。それでも保岡は秋田ノーザンハピネッツで6年目を迎え、フランチャイズプレーヤーとしての存在感を高めている。スラッシャーという新しい役割を与えられた保岡はエースの気概を持って新シーズンへ臨む。

「娘に恋してるかもしれないです(笑)」

──シーズン終了直後には代表活動もあり、濃密な夏を過ごしてきたと思います。東京オリンピック出場も含め、どんな夏でしたか?

Bリーグが終わり、ファン感謝祭があって、その3日後には3×3の合宿がありました。約2カ月間、海外で試合をしたり国内で合宿をしていたので、精神的にも休みたい気持ちはありました。ただ、自分は2019年からオリンピックを目指していて、ここで妥協したら目の前にチャンスがあるのにそれを逃してしまうと思ったので、甘い気持ちを殺して、鬼になって頑張りました。一生に一度のチャンスだと思い、悔いのないように精一杯やった結果、メンバーにも選んでもらえたので、精神的にも進歩したと思います。

──オリンピックで印象に残っているエピソードを教えてください。

選手村の食堂には3×3だけじゃなく、いろんな国のアスリートがいました。その中でルカ・ドンチッチ選手やルディ・ゴベア選手などのNBA選手がゴロゴロいたので、彼らと同じ状況でご飯を食べれるなんて絶対あり得ないなと。そういう意味ではオリンピックは夢があるなって感じました。ドンチッチ選手は年下なんですけど、尊敬するプレーヤーなので、勇気を振り絞って少ない単語で写真を撮ってもらいました(笑)。

──それはすごいですね。やはり、オリンピックの反響は大きかったのではないでしょうか?

もっとあると思っていたんですけど、自分でもびっくりするぐらい反響はなかったです(笑)。いろんな人にオリンピックに出たら景色が変わると言われたんですけど、全くでした。落合(知也)さんはTOKIOのテレビ番組に出たりしたんですけど自分は……。女子がメダルを獲りましたし、いろんな競技でメダリストはたくさんいるので、メダルを取らなければ注目してもらえないのかなとちょっと思いました。

──それは切ないですね。忙しい日々を過ごされてきましたが、その中で一番リフレッシュとなったことは何でしょう?

やっぱり家族との時間ですね。娘と遊ぶことが一番のリフレッシュでした。空港に迎えに来てもらったんですけど、自分が歩いてくるのを娘が見ていて、「パパ」って言いながら恥ずかしそうにして、ドアを開けたらすごい照れていたので、その顔を見て安心感を感じました。今でも本当にデレデレです(笑)。『TOHOKU CUP』があって、3週間ぶりくらいにまた会ったんですけど、その時もすごい照れながら笑顔で迎えてくれました。娘に恋してるかもしれないです(笑)。

保岡龍斗

「日本一走るチームを目指しています」

──『TOHOKU CUP』の話も出ましたが、その大会で優勝し、チームの手応えはいかがでしょう?

プレシーズンも含めて、日に日に課題を克服して伸びているところが多いので、良い状態で進んでいるのかなと思います。ただ、自分たちが目指しているのはチャンピオンシップ、日本一で、自分も含めてまだ状況判断が良くないので、そこをもっと上げていきたいです。

日本一といってもステップがあるので、まずはチャンピオンシップに出場することが一番の目標です。昨シーズンはチャンピオンシップ出場の手前まで来ていたので、チャンスはあると思っています。今シーズンは『日本一走るチーム』を作ると言っているので、強みであるトランジションの効率を良くしていくためにも、状況判断はものすごく重要になってきます。

昨シーズンは速いオフェンスがコンセプトで、平均60回前後の攻撃回数でした。今シーズンは1試合を通して80回攻めることが目標です。『TOHOKU CUP』決勝の前半は35回でした。前半40回、後半40回と考えると5回足りなかったので、シンプルにもっと速く攻めたり、ディフェンスでスティールを誘発して攻撃回数を増やしたいです。そういう意味では、まだまだ自分たちの理想のバスケができていないので、もっと突き詰められると思うし、伸び代でもあると思います。

──フィールドゴール成功率よりも攻撃回数やペースが大事なんですね。

そうですね。シュートを決められても、クイックインバウンドをしてすぐに攻める。その中でチャンスがあったら、1回の攻撃で終わらせるのが自分たちの戦い方です。そういう意味で『日本一走るチーム』を目指しています。

──昨シーズンの保岡選手は数字だけを見ると、プレータイムが減少して主要スタッツも落としました。それはそのスタイルが関係しているのでしょうか?

2年前のシーズンはセットオフェンスが多く、2番や3番が攻めるフォーメーションが多かったので、自分に攻撃機会が多く回ってきました。昨シーズンから速い攻撃をするようになり、ポイントガードがプッシュするのでそのまま攻撃が終わることも多かったです。また、キャリアを通じてコーナーステイすることがほとんどありませんでした。アップテンポなスタイルにアジャストし切れず、その中で良いシュートセレクションを選べずに成功率が下がったと思います。

保岡龍斗

「小、中、高、大とチームのエースとしてやってきました」

──オリンピックに出場し結果を出したことで、注目度や期待値は上がると思います。新シーズンでの役割はこれまでと変わりますか?

チームは13人いるので毎試合誰か一人が外れる状況です。Bリーグと3×3は別モノですし、その競争にオリンピックは関係ありません。ディフェンスは2、3年前に比べて信頼してもらえるようになりました。3×3の試合を(前田)顕蔵さんが見てくれていて、ドライブを高く評価してくれました。今まではロングスリーやステップバックのスリーが自分のイメージだったと思いますが、今シーズンは中までドライブで行って欲しいと言われています。(多田)武史や、フルさん(古川孝敏)や、シゲさん(田口成浩)というすごいシューターがいるので、収縮させてキックアウトしたり、中に切り込んで2点を取るプレーを求められていると思います。

──オリンピックでのドライブはキレキレでした!

1対1だったら、ほとんどの選手を抜けるような感覚でした。あとは走れる体力もあると思っていて、プレシーズンでは何度かトランジションからレイアップを決めたシーンがあったので、新しい自分のスタイルが良い感じにフィットしていると感じています。

──オリンピックで貴重な経験を積み、スラッシャーという新たな役割を与えられ、名実ともにチームの顔となりつつありますが、チームを引っ張る気持ちも強くなってきたのではないでしょうか?

それは間違いなくあります。そういう気持ちは昨シーズンからあったんですけど上手くいきませんでした。自分は小、中、高、大とチームのエースとしてやってきました。秋田に長くいますし、自分がチームを引っ張っていく存在にならなければチャンピオンシップ出場も難しいと思うので、そういう意味でも今までにないくらい大事なシーズンになると思います。

──では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

保岡龍斗と言えば、ロングスリーというイメージが強かったと思います。ただ新シーズンは新たにスラッシャーという役割をもらったので、スピード感があって力強いドライブを何度も見せられるように頑張ります。

コロナ禍で声が出しづらいとは思うんですけど、何か違う形でアプローチしていただければ、自分のボルテージもどんどん上がり良いプレーが何回もできると思います。秋田に懸ける思いは今まで以上に強いので、ブースターさんも今まで以上に秋田を、そして自分を応援していただきたいです。