シェイ・ギルジャス・アレクサンダー

リーグの覇権を握るべく、批判を受けながらも大胆な手法を推し進める

サンダーは先月、シェイ・ギルジャス・アレクサンダーとの契約延長に合意した。『ESPN』によれば5年で1億720万ドル(約190億円)で、彼がオールNBAに選出されれば2億700万ドル(約230億円)までアップする。アレクサンダーはNBA3年目の昨シーズンに平均得点を23.7まで伸ばし、名実ともにサンダーのエースとなったものの、シーズン途中に右足の足底筋膜炎で戦線離脱。わずか35試合の出場に留まった。

サンダーはその時点で19勝24敗と勝率5割、そしてプレーオフ進出を狙える位置に付けていたが、若きエースの離脱で方針転換。アル・フォーホードをチームから外して勝ちを捨て、ドラフト指名権を取りに行き、アレクサンダー離脱後は3勝26敗でシーズンを終えた。

サンダーのチーム編成を司るサム・プレスティGMは、ラッセル・ウェストブルックの放出を機に独自のやり方を推し進めてきた。ポール・ジョージ、クリス・ポール、ホーフォードにケンバ・ウォーカーとオールスター選手を続々と手放し、スティーブン・アダムズやデニス・シュルーダーも放出して、ドラフト指名権をかき集めている。昨シーズン後半にサンダーがやったのは露骨なタンク(ドラフト指名権を得るために故意に負けること)で、ルールを外れてはいなくてもリーグの価値を貶めるものだ。しかし、プレスティがこのやり方を大胆に推し進めているのは、これが再建の必勝法だと確信しているからに他ならない。

チームの顔ぶれは2シーズンで完全に入れ替わった。23歳のアレクサンダーがエースとなり、それに続くタレントを多数擁している。テオ・マレドンにトレ・マン、ルーゲンツ・ドート、ダリアス・ベイズリー、アレクセイ・ポクシェフスキー、そしてドラフト1巡目6位指名のジョシュ・ギディ。経験不足で主力としての安定した働きが計算できるわけではないが、いつブレイクしてもおかしくないポテンシャルの持ち主であり、なおかつ全員がアレクサンダーよりも若い23歳以下だ。

この中で最も経験があるのはドートで、『バブル』のプレーオフでエースキラーとしてブレイクし、昨シーズンはオフェンス面でも大きな成長を見せた。ハードワークと闘争心を前面に押し出す、サンダーらしいファイターでありながらスキル面での成長も見て取れる。マレドンは目立たないが試合の流れを読むバスケIQを備えたガードで、ベイズリーはサイズがある上にプレーメークもできる多彩なストレッチ4だ。ポクシェフスキーは『細すぎる7フッター』として、コートより先にSNSで話題となったが、ヨーロッパから来た英語を話せない1年目の選手としては十分すぎる数字(24.2分出場で8.2得点、4.7リバウンド、2.2アシスト)を残しており、新シーズンにこれを超えるのは間違いない。

今オフもプレスティGMはNBAが何を争うリーグなのか分かっていないかのように、指名権を集めるゲームに興じた。それでも、アレクサンダーの契約は彼の思惑を表しているように思える。アレクサンダーがオールNBAへと成長した時こそ、サンダーは『勝ちに行く』に方針を切り替えるのだ。

ドラフト指名権は抱えすぎても使いきれない。有望な若手の人数は今でさえ限界で、これ以上いてもプレータイムを与えられない。だが、指名権は『勝ちに行く』方針に切り替えた後でも使い勝手が良く、自前で育てられないポジションの選手はトレードで手に入れられる。再建中のチームが陥る一番の問題は、チーム構想に合わない高額年俸のベテランを抱え込んでしまうことだが、サンダーにそれはあり得ない。アレクサンダーとの契約延長を決めた後でもサラリーキャップには柔軟性があり、来年オフのフリーエージェント市場に打って出ることもできる。

プレスティがサンダーのGMに就任したのは2007年の夏で、チームはまだシアトル・スーパーソニックスと呼ばれていた。ケビン・デュラントとジェームズ・ハーデン、ラッセル・ウェストブルックの『若きビッグ3』をキープできずに2012年にハーデンをロケッツにトレードしたことは、彼が犯した最初の大きな失敗だった。ケビン・デュラントの慰留に失敗したのが第2の失敗だ。いずれもチームを成長させるのか勝ちに行くのか、その方針を明確にしなかった結果として起きた失敗であり、プレスティはそれを繰り返さないため、決して方針を曖昧にしない。

もっとも、アレクサンダーがオールNBAへと成長しなければ、『勝ちに行く』のボタンを押すことはできない。3000万ドル近くの年俸を手にするようになったことで、アレクサンダーにはこれまでにない責任がのしかかる。23歳の選手がこれほどまでにはっきりと『フランチャイズを背負う』のは珍しい。それでも、彼が真のエースへと成長すれば、あとは今のスーパースターたちが衰えていくのを尻目に、年々成長するサンダーがリーグを支配する時代が訪れるかもしれない。

アレクサンダーは昨シーズンを終えた時点での会見でこう語っている。「この1年で僕ら一人ひとりが大きく成長した。みんな個性的なヤツらだけどチームのことを第一に考えたし、それぞれ自分の課題と向き合い、努力と工夫をしてステップアップできたと思う。その結果としてチームも大きく前進した。でもこれは、チームとして大きなことを成し遂げる最初の一歩に過ぎないと思っているよ」

『小さな街のチームは勝てない』という常識は、この夏にバックスが覆した。デュラントがニューヨークで、ウェストブルックがロサンゼルスでNBA優勝を狙う一方で、大都市に収奪されるだけではない仕組みをサンダーは作り上げようとしている。プレスティの壮大な計画が今後どう進んでいくのか、若いタレントたちの成長ぶりと合わせて注目したい。