今オフ、琉球ゴールデンキングスは大型補強で注目を集めたが、何よりも一番のインパクトは桶谷大ヘッドコーチの就任だ。bjリーグ時代のチーム創世記、2008年から4シーズンに渡って指揮を執り、リーグ優勝2度と申し分のない成績を残しているが、9年ぶりの琉球復帰は多くの人々にとって青天の霹靂だった。西地区の強豪ではあるが3シーズン連続でセミファイナル止まり。ここから脱却してのファイナル進出が至上命題で、就任1年目から大きなプレッシャーがかかる指揮官に、古巣復帰を決めた思いを聞いた。
「チャンピオンシップで勝つためのローテーションを組んでいく」
──キングス史上最高の選手層と言っていい、今シーズンのメンバーについてどういった手応えを得ていますか。
個の力がすごく高いメンバーが揃ったのはうれしいところですが、逆に言えばそれをまとめるというのが一番難しいところと見ています。これまでキングスを支えてきた岸本(隆一)、並里(成)、田代(直希)がいて、これから(コー)フリッピン、牧(隼利)、(渡邉)飛勇と若い選手たちがどう絡んでいけるか、そこは難しいですけど面白みであり、チームを作る上で楽しみなところです。
今回キングスがどのチームよりも確実に優れているのは選手層の厚さだと思っています。主力がケガをしたり、コンディションが上がらないことでスランプに陥るとチーム全体としても苦しくなってくるものですが、このロースターなら、そういう問題にも対処できる。フロントがこれだけ充実したメンバーを集めてくれたことは、コーチにとって本当にありがたいことです。
前半戦はいろいろな組み合わせがある中、どのシチュエーションでどういうメンバーがいいのかを見いだすことにチャレンジしていきます。ただ、後半戦はプレーオフの短期決戦で勝ち切れるだけの手札と、しっかりしたチームの形を作らないといけない。前半戦と後半戦では、正直戦い方が変わってくると思っています。
──中心選手でも1試合25分くらいでローテーションしていくような展開にしていきたいですか。
そうだと思いますね。若い選手には、プレータイムを与えないと成長していかない。昔、シカゴ・ブルズでNBA優勝を経験しているビル・カートライトと話した時、「いつもフィル・ジャクソンは、もちろん試合に勝たないといけないけど、ロスター10人でローテーションしていかないと誰かケガ人が出たときにプレーオフで戦えなくなる。だからこそシーズン中、マイケル・ジョーダン、スコッティ・ピッペンがいても、ベストメンバーがコートに立つのは第1クォーターの最初、第2クォーターの最後、第3クォーターの最初、第4クォーターの最後だけというシチュエーションが作られている」と聞かれました。そこからヒントを得て、レギュラーシーズンで勝つだけでなく、最後にチャンピオンシップで勝つためのローテーションを組んでいくのが大切だと考えています。
「自信を持って自分がやるべきことを100%やりきる」
──選手層は厚いとはいえ、フル代表の実績があるのは若い渡邉選手だけです。
新しい流れを作っていかなければと感じています。今のメンバーでA代表の経験者は飛勇だけですが、キングスには本当に力を持っている選手たちがたくさんいます。個々が最も良い輝き方をしてくれれば、どのチームよりも強くなれる。シーズン通してそれぞれの役割が形成されていく。その役割を全うした時に、間違いなくどのチームよりも強くなっていると思います。だからこそ、このチームが何を目指してどういう価値観、ビジョンを持って進んでいくのか、それを明確に選手たちに伝えていかないといけません。
──新戦力の中で、日本でのプレー経験は長いですが、今回が初めてのB1でキングスファンも最近のプレーを見る機会が少なかった小寺ハミルトンゲイリー選手の特徴を教えてください。
bjリーグ時代、滋賀レイクスターズで中心選手だった時とはプレースタイルが変わってきています。今はボールをサイドからサイドにまで動かせる選手になっている印象です。昨シーズンは茨城ロボッツに在籍していて、B2プレーオフを含めると仙台で8試合対戦しました。そこで彼が出てくるとボールは動くし、スクリーンをしっかりシューターに掛け続けられる。日本人選手が生き生きプレーしていたので、そういうところはキングスでもプラスになります。多分、長い時間出られる選手ではないですが、オフェンスが停滞した時に彼が入ることでボールをしっかりシェアしながら点数を取りに行くというような形ができる。彼がボールを動かす起点になってくれると思います。
──ファイナル進出を求められる状況は、プレッシャーを感じるのではありませんか?
周りの期待は高まっていて、絶対勝たないといけない、ファイナルで勝って日本一になることを求められている、と感じています。その中で行き着いた心境は、このポジションにまず自分がいられることに感謝しないといけない。この位置にいるチームの指揮官に指名される人は本当に限られています。だからこそ、期待に応えられずに失敗したらネガティブなことが起きるのは当たり前です。今は、自信を持って自分がやるべきことを100%やりきりたいと思います。
「結果を残し、キングスの新しい魅力を伝えていきたい」
──昨シーズンの戦いぶりを踏まえ、どういうところを強化しなければいけないか。特に課題となっていたインサイドゲームについて教えてください。
セミファイナルの千葉ジェッツ戦を見ていると、オフェンスリバウンドに絡みに行く姿勢はすごく見えていましたが、そこに行ったことでカウンターで走られている場面も多かったです。そこは修正しないといけない点で、本当にオフェンスの終わり方が重要と思っています、もちろんキングスはディフェンスからオフェンスに繋げていくチームで、自分たちのディフェンスをやるためにもオフェンスの終わり方をしっかり意識する、そのためにも自分たちにアドバンテージがあるところをどんどん突くオフェンスの遂行が重要になります。
──沖縄に戻って来て、あらためてファンの方たちへのメッセージ、シーズンに向けての意気込みをお願いします。
戻って来て何もかも新鮮で、後は懐かしい気持ちがあります。沖縄の海の広さ、空の高さは変わっていないと感じました。沖縄アリーナを見渡して、顔見知りも何人かいましたが、僕がいた時よりもキングスは大きくなってファン層も拡大しているので、僕自身は「はじめまして」の気持ちです。だからこそ結果を残し、キングスの新しい魅力を伝えていきたいです。
シーズンが開幕したら新しいことをどんどんチャレンジしていきたい。そして、キングスの一番の強みを生かし、どこよりもチームでオフェンス、ディフェンスを遂行していく。そのためのコーチングをしっかりやっていきたいと思います。