若手育成が進まない2年間の遅れを埋める、優勝に向けた一手
セブンティシクサーズの2020-21シーズンを締めくくったのは、不甲斐ないパフォーマンスに怒ったファンによる「ベン・シモンズをトレードしろ」のチャントだった。この時点で、戦犯となったシモンズの居場所はシクサーズにもうないものと思われた。
あれから2カ月半、様々なトレードの可能性が議論されてきた。『The Athletic』によれば、ウォリアーズはシーズン終了直後にシクサーズと交渉したが、アンドリュー・ウィギンズとジェームズ・ワイズマン、1巡目指名権4つを要求されて交渉を打ち切ったという。シクサーズはあくまでシモンズを有力なオールスター選手としてトレードしようとしている。ウォリアーズに限らずどのチームにも高い要求を突き付けたことは容易に想像できる。
しかし、ここに来てシモンズが正式にトレードを要求し、シクサーズのトレーニングキャンプに参加する意思がないことを明らかにした。シクサーズはプレーオフの数週間で評価を暴落させたシモンズを擁護する動きを全く取ってこなかった。シモンズから不信感を抱かれても無理はない。そして今のシクサーズは、納得できる条件でのトレードが成立しなければ残留させればいい、というプランを修正せざるを得なくなっている。
そうなった場合、ウォリアーズは有力な移籍先として再浮上する。シモンズから見れば、優勝争いができて最高のシューターが揃い、速いペースでスペースを作り出すウォリアーズのバスケは魅力的だ。一方でウォリアーズからすれば、トレードの条件が折り合ったとしても、ドレイモンド・グリーンとプレースタイルが重なる点は非常に厄介だ。
それでも、ウォリアーズにも動く理由がある。クレイ・トンプソンのクリスマス前後での復帰がほぼ確実となった今、NBA優勝を実現できるロスターの構築が必要となっている。クレイがケガをして連覇が途切れた2019年の夏から、NBAは変化し続けている。スーパースターを集めた上で、まだ力のあるベテランを最低保証額で加えて層を厚くするチーム作りで西ではレイカーズ、東ではネッツが優勝候補の筆頭となっている。ステフィン・カリーとトンプソンの『スプラッシュ・ブラザーズ』が復活し、コート上の指揮官であるグリーンが健在でも、今は彼ら全員が30代であり、クレイの復帰が優勝を約束するものではない。
クレイの復帰を待つ2年間、若手を育てて現行のスタイルに組み合わせる取り組みを続けてきたが、いくら才能ある選手であっても1年や2年で『王朝』のバスケにインパクトを与える存在にはなれない。そういう意味で、リスクはあってもシモンズを獲得してウォリアーズのスタイルをブラッシュアップする取り組みはあってもいいはずだ。
今であればシクサーズはトレードの条件を下げざるを得ない。サラリーを合わせるためにウィギンズの放出はやむを得ないが、以前より交渉はまとめやすくなっているはずだ。
カリー、クレイ、グリーンの負担を減らし、2年間の遅れを取り戻す決定打となる補強としてこのトレードを成立させる。シモンズにとってはこれ以上なくモチベーションをかき立てられるはず。自信を取り戻しさえすれば、シュート力に難を抱えていてもなおオールスター選手の魅力がある。リスクのある賭けではあるが、やってみる価値は大きい。