東京オリンピックで男子の日本代表は『世界での1勝』を挙げられなかった。だが、自国開催の大会としては、また2年後にワールドカップが控えている。3カ国共催のこの大会、日本代表はグループリーグを沖縄アリーナで戦うことになる。今年11月からホーム&アウェーで12試合が行われるワールドカップ、来年夏に順延されたアジアカップと、強化の機会は非常に多い。2019年のワールドカップから日本代表の確かな成長は見て取れるが、世界と渡り合うレベルはまだはるか先にある。
今後も長く八村塁と渡邊雄太は日本代表の『コア』になるだろうが、Bリーグを主戦場とする『国内組』の成長も欠かせない。さらに求められるのは、これまでの代表で中心を担った選手を脅かし、追い落とす新たな選手たちの台頭だ。フリオ・ラマスは2019年ワールドカップのチームを時間をかけて作り上げ、その後はコロナの影響もあって新たなメンバーをほとんど試すことなくオリンピックまでを戦ってきた。だが、これからは若手にもチャンスがやって来る。未来は遠い先の話ではない。2023年の日本代表で主軸を張る、それだけの期待を寄せるに足る選手を紹介したい。
ディフェンスで多くを要求する川崎は、前田の成長には理想的な環境
日本代表がサイズ、フィジカルで世界の列強に劣るのは揺るぎない事実で、このマイナスを克服するにはスピードと運動量を強調し、3ポイントシュートで相手を上回るスモールバスケットの戦術を採用するのが最も合理的な選択肢だろう。それは、東京オリンピックで銀メダルを獲得した女子代表の戦いぶりが証明している。
一方、東京オリンピックの男子代表は、渡邊雄太や八村塁などのビッグマンがリバウンドを取って自らボールプッシュを行うスピード感のあるバスケットボールはできていたが、そこから3ポイントシュートで相手に脅威を与える場面はほとんどなかった。その結果として勝てなかったのだかが、シューターがいかに大事な存在かがあらためて浮き彫りになったと言える。
今のBリーグで最も期待すべき若手シューターは、川崎ブレイブサンダースの前田悟だ。ここ2シーズン連続で3ポイントシュート成功率、成功数でともにリーグトップ10入りという数字が、それを雄弁に示している。青山学院大での彼はむしろインサイドを主戦場としており、大学4年時の関東大学リーグでは3ポイントシュートの試投数が計70本に対し、2点シュートが172本と大きな差があった。だが、192cmのサイズは大学では通用しても、Bリーグになるとゴール下で得点を重ねていくのは難しい。どんな選手にもアジャストは必要だが、前田は『プロ仕様』にスムーズに適応していく。
特別指定選手を経て入団した富山グラウジーズでのプロ1年目、大黒柱ジョシュア・スミスがシーズン早々に離脱した中、3ポイントシュートを武器に宇都直輝と並ぶ日本人エースとして奮闘し、1試合平均11.5得点、リーグ6位の3ポイントシュート成功率39.9%を記録して新人王に輝いた。
昨シーズンも2桁得点をコンスタントに記録し、1年目の活躍がフロックでなかったことを証明。クイックリリースから放たれる3ポイントシュートは富山のハイパワーオフェンスの起爆剤となっていたが、この爆発力は日本代表でも大きな武器となるはずだ。
富山で非凡なシュート力を開花させた前田は、今オフに川崎へと移籍した。オフェンスマインドの強い富山に対し、川崎は激しいディフェンスを基盤とするチーム。いくら得点力があっても、出場機会を得るにはタフな守備をこなせることが第一条件となる。チームの方向性は富山と大きく違うが、だからこそ前田がより総合力の高い選手へと成長するには理想的な環境と言えよう。
この4年間、代表ではピック&ロールからクリエイトできるハンドリング能力を持った選手が重宝されてきた。それは世界のトレンドを踏まえると妥当な流れではあるが、相手からすれば異なる個性をうまく融合させたチームバスケこそ対応しにくい。さらに言えば、チームで作り出したズレをシューターが射抜くスタイルこそ、これからの代表により求められるものだろう。
日本が目指すべきスモールバスケットボールの破壊力を高めるためには、絶対的なシューターの存在は欠かせない。その役割を担える可能性を前田は間違いなく備えている。川崎で総合力を高め、試合終盤を任される地位を確立した時には、前田には自然と日本代表でのチャンスも巡って来ているはずだ。