バスケ日本代表を銀メダルへと導いたトム・ホーバスと振り返る東京オリンピック(後編)「日本バスケ界とWNBAを繋ぐ架け橋に」

バスケ日本代表を銀メダルへと導いたトム・ホーバスと振り返る東京オリンピック(後編)「日本バスケ界とWNBAを繋ぐ架け橋に」

2021/09/04 12:00
トム・ホーバス

女子バスケットボール日本代表は東京オリンピックで銀メダル獲得を成し遂げた。この快挙はチーム全員の貢献によってなし得たものだが、ヘッドコーチを務めたトム・ホーバスの卓越したリーダーシップと采配が根幹にあったことは間違いない。日本のバスケ界に燦然と輝く偉業を打ち立てた指揮官に、オリンピックの激闘、そこに到るまでの道のりをあらためて振り返ってもらった。

「多くのチームがこれから日本のスタイルをコピーするでしょう」

──選手だけでなく、コーチのリーダーシップについても大きな注目を集めています。母国アメリカのメディアにも取り上げられました。オリンピックを終えて、自身の変化はありますか。

日本代表、そして私が良い仕事をしたと評価されるのは光栄だし、日本の女子バスケ界にとっても素晴らしいことです。日本語を学び、日本でコーチになるのは簡単なことではありませんでした。この4年間も、高い目標を持ってチームを導くために多くの決断をする必要がありました。どの選手を起用するのか、プレースタイルなどいろいろな決断があり、その時には正しいかどうか分かりません。ただ、バスケットボール、そしてスポーツの良いところは勝ち負けがはっきり分かり、グレーな部分がないことです。私のビジョン、アイデアが、メダル獲得の助けになれたのはハッピーです。

この4年間に渡ってアメリカを倒す、メダルを取るために適切なことをやっていたのかどうか、実際にオリンピックを戦ってみるまで分かりませんでした。メダルを取れたことで多くのことが正しかったと言えます。システム、トレーニングのやり方、自分の下す決断により自信が持てるようになりました。

──あらためて自身のコーチングスタイルは、どんなものだと思いますか。

オールドスタイルと新しいやり方の両方を取り入れています。まずはファンダメンタルを重視して鍛え上げ、そこからオフェンス、ディフェンスともにより面白いことに取り組む。ファンダメンタルに関してはオールドスクールです。そこからNBAでトレンドになっているスタイルを導入しました。この4年間、新しいバスケットボールの戦い方についてたくさん勉強しました。そして選手たちに合うシステムを選びました。これはとてもやりがいのあるチャレンジでした。

多くのチームがこれから日本のスタイルをコピーするでしょう。見ていてとても楽しいですし、これこそうまく行けばアメリカを倒す可能性がある唯一のスタイルだと思います。私たちの戦い方がスタンダードになってほしい。NBAで3年か4年前のウォリアーズ、その前のスパーズの戦い方が大きな影響をリーグ全体に与えたのと同じことが、女子バスケ界で起こればいいですね。

それと同時に、日本のスタイルをコピーするのは簡単ではありません。私たちは今のプレーを作り上げるのに4年を費やし、その間に様々なアジャストを行ってきました。みんなにコピーされるのは光栄なことですが、日本もまたここから新しいアジャストを行い、どんどん良くなっていかなければいけないです。

トム・ホーバス

「日本の女子バスケットボール界が築いてきた文化はとても強力です」

──世界一と自信を持てる練習量をこなせたのは、ハードワークが当たり前という女子バスケ界の培ってきた伝統があってこそだと思います。この点について、コーチはどんな思いを持っていますか。

日本の女子バスケットボール界が築いてきた文化はとても強力です。選手たちが強い向上心を持って、たくさん練習をするのが当たり前となっている風土は素晴らしいものです。このシステムは上手く機能しているし、他の国が簡単に真似できるものではありません。でももしかしたら、中国や韓国は同じように練習しているかもしれません。これこそ私が最初、コーチとしてENEOSに来た時、とても驚くとともに、日本の強みだと感じたものです。

ENEOSと同じ環境にいたとして、アメリカの選手たちが同じ量の練習をするとは思いません。8年前、WNBAのフェニックス・マーキュリーにいた時、選手たちは本当にハードで集中した練習をしていました。中でもダイアナ・タラーシは、私が知る中で最もハードワークをこなす選手です。総じてWNBA選手たちはハードワークをしています。ただ、私たちほど長時間の練習はしていません。

──短い時間でいかに強度の高く効率的な練習をできるかを重視するコーチもいます。練習の質と量についてはどう考えますか。

私は練習を短くしたいですが、それでも1回で2時間くらいです。休憩時間はなく、常にクイック、ハイペースでメニューをこなしていくのが私のスタイルです。すべてのコーチで考え方は違うものです。それが正しいか悪いのかを判断する基準は、試合に勝つか負けるかです。私たちは銀メダルを取ったことで、この決断が正しかったことを示せたと思います。

──オリンピックで金メダルを取るため、これからの日本には何が必要でしょうか。

アジャストメントです。選手たちは自信を持ってプレーできています。そこから新しいスタイルへのアジャスト、クリエイト力を高めていく。そして新しい選手を加えることも必要です。

トム・ホーバス

「WNBAのチームでヘッドコーチになり、日本人選手を呼べたら…… 」

──個々の成長という部分では、WNBAなど海外リーグへの積極的な挑戦も大事になってくると思います。ただ、かつて渡嘉敷選手がWNBAのシアトル・ストームに在籍していた時は、同じポジションにアメリカ代表のブリアナ・スチュワートがいたことで出場機会の確保に苦しみました。持ち味を生かすことのできるチームを選べるかはとても重要ではないでしょうか。

今、WNBAでプレーできる力を持っている日本人選手が複数いることは間違いありません。これからの私の目標の一つが、日本バスケ界とWNBAを繋ぐ架け橋になることです。私がWNBAのチームでヘッドコーチになり、日本人選手を呼べたら、夢が実現したことになります。

仮に私がWNBAのヘッドコーチになって日本人選手を獲得した場合、英語と日本語の両方でコーチすればいいので問題にはなりません。通訳もいらないですし、日本の選手たちは私のシステムも知っているので、上手くフィットするでしょう。

そうでない場合、環境への順応は簡単ではありません。例えば町田(瑠唯)選手がラスベガス・エーシズでオリンピックのようなプレーをするのは難しいと思います。エーシズにはエリザベス・キャンベージ、アジャ・ウィルソンがいるので、とてもテンポは遅く、ローポストにボールを集めるパワーバスケットボールをします。それは町田選手のスタイルではないですよね。彼女はアップテンポで走る展開の中で力を発揮します。同じように林が活躍するには、走るバスケで3ポイントシューターを必要としているチームではないといけない。どんなチームでプレーするのか、状況をしっかり見極めることはとても大切です。

──最後にこの4年間の振り返り、そしてファンへのメッセージをお願いします。

とても長かったです。アジアカップで2度優勝したことはエキサイティングで、ワールドカップは辛い結果と山あり谷ありでしたが、チームがどんどん成長していく素晴らしい旅路でした。

ファンの皆さん、この4年間、本当に素晴らしいサポートをしてくれてありがとうございました。オリンピックで銀メダルを取れたのは皆さんのおかげです。10月にはWリーグが始まります。次のオリンピックで金メダルを取るにはさらにレベルアップしないといけないので、これからも応援してください。今はとても盛り上がっていますし、皆さんの力をもらってこの状況を続けていきたいです。ここまでありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

RECOMMEND