「次のステップへ進むべきところにいるという点で、2年前のサンズに似ている」
ペリカンズはスタン・ヴァン・ガンディの更迭を早々に発表したが、後任ヘッドコーチの発表は遅れた。他のチームが来シーズンの指揮官を次々と発表していく中でファンは待たされたが、それは後任に内定していたウィリー・グリーンが、サンズのアシスタントコーチとしてプレーオフを戦っていたからだ。NBAファイナルが終わるとすぐに、正式発表が行われている。
グリーンは2003年から2015年までの現役12シーズンでセブンティシクサーズ、ホーネッツ、ホークス、クリッパーズ、マジックでプレーし、引退後はウォリアーズでアシスタントコーチを担当して2017年、2018年のNBA連覇に貢献。ここ2シーズンはサンズでモンティ・ウィリアムズのアシスタントコーチを務め、サンズの躍進に一役買った。
ペリカンズはここ数年でヘッドコーチの入れ替わりが激しい。グリーンは面談の際、フロントにその懸念を正直に伝えたそうだ。球団側はヴァン・ガンディが若い選手たちとのコミュニケーションを欠いたことを指摘し、『今いる選手を育てて勝つ』という方針で一致したことで合意に至った。アシスタントコーチとして多くの実績を積んでも、ヘッドコーチのチャンスに恵まれない者は多い。だが、グリーンはその壁を乗り越えて機会をつかんだ。
就任会見でのグリーンは「才能ある選手が揃い、次のステップへ進むべきところにいるという点で、2年前のサンズに似ている。実際にそのステップを踏み出すのが我々の目標となる」と抱負を語っている。
グリーンが現役時代にここでプレーしたのは、チームがまだ『ホーネッツ』と呼ばれていた2010-11シーズンだけ。それでも、モンティの下で、そしてクリス・ポールとともにプレーした経験は、今に至る大きな影響を彼に与えた。ポールはグリーンを兄と慕い、クリッパーズ時代にはフロントに育成コーチとして彼を雇い入れるようアドバイスしていたそうだ。そしてモンティは実際に彼をアシスタントコーチに据えている。グリーン曰く、この3人に共通するのは「勝ちたいという気持ち」だ。日々の練習から試合で勝つことを意識し、そのために何が必要かを考える。3人とも、その哲学を持っていた。
そのグリーンは現在、サマーリーグで采配を振るっている。その中でトップチームをどう率いるかを語る機会も多い。「ザイオンとブランドンにプレーを託すつもりだ」と、ザイオン・ウイリアムソンとブランドン・イングラムの両エースを立てつつも、「彼らだけでなく全員がボールを動かす。判断のスピードと正確さを重視し、ドライブ&キックでディフェンスを翻弄したい」と、速いテンポのバスケを目指すことを明かしている。
そして彼は、自身が若手だった当時のベテランたちへの感謝を「人間的に優れたベテランたちは、いつ練習に行ってもコートにいて、プロとは何かを私に教えてくれた」と語る。それと同時にアシスタントコーチとして学んだことを「コーチは人のために尽くす仕事で、そのためには自分が何を考え、何を信じるかはさして重要ではない。チームにとってプラスになるよう、常に高いレベルでコミュニケーションを取ることが必要だ」と説明する。立場を変えた今は、若手たちの良き指南役になろうとしている。
ペリカンズはザイオンとイングラムのコアこそ変わらないが、ホーネッツからデボンテ・グラハム、グリズリーズからヨナス・バランチュナス、ブルズからトーマス・サトランスキーと経験ある選手が加わっており、まずは彼らをフィットさせる必要がある。さらにニキール・アレクサンダー・ウォーカーとジャクソン・ヘイズ、ナジ・マーシャル、カイラ・ルイスJr.とNBAキャリア1年か2年の若手を主力へと成長させなければならない。
すべて上手く噛み合っても、激戦の西地区で順位を上げていくのは簡単ではない。ザイオンとイングラムが揃った直近の2シーズンでも30勝42敗、31勝41敗と勝率5割には遠く、プレーオフ進出を逃している。チームにポテンシャルはあっても、そこに火をつけるのは簡単ではない。マーシャルとルイスJr.はサマーリーグに参加しており、いち早く新たな指揮官の下でのプレーを経験している。ドラフト1巡目17位のトレイ・マーフィー三世、2巡目の35位で指名されたハーブ・ジョーンズも結果を出している。
ペリカンズが西カンファレンスの強豪へとステップアップするには、ザイオンとイングラムだけでバスケをするのではなく、チーム全体の底上げが欠かせない。選手たちのポテンシャルをどう引き出すか、グリーンのお手並み拝見だ。