トム・ホーバス

表彰台の選手たちを「父親のような気持ちで見守っていました」

東京オリンピック決勝、バスケットボール女子日本代表はアメリカに敗れて惜しくも優勝を逃した。しかし、バスケットボールでは史上初となるメダルを獲得し、新しい歴史を打ち立てた。指揮官トム・ホーバスは、これからも色褪せることのないオリンピックでの躍進を終えた感想をこう語る。

「私たちがチームとして歩んでいたこの旅路は長く、山あり谷ありでした。しかし、銀メダルを手にした選手たちの誇らしげな表情を見て、これまでの苦労が報われました。日本バスケットボール界、選手、スタッフにとって本当に良かった。この気持ちは、これからの数日間でより深まると思います」

世界のトップ3しか出席することができない表彰式にいる選手たちの姿に、こみ上げるものがあったと彼は続ける。「あのステージにいる選手たちを父親のような気持ちで見守っていました。とても感傷的になりましたが、それは素晴らしいことです」

アメリカとの決勝の試合内容については「私が予想していたものと違いました」と振り返り、女王の適応力を称えた。

「もっと効果的にいろいろなことができると思っていました。しかし、彼女たちのディフェンスに圧倒されてしまい、私たちはリズムを奪われました。守備ではインサイドゲームを全く止めることができなかったです。アメリカはグループリーグの対戦の時よりレベルアップしていました」

ただ、同時に「今日はチーム全員がオリンピックの決勝で得点したと言えるようになりました。これはとても素晴らしいことです」と未来へ繋がる収穫も得られた。何よりも「悔しいです。勝つチャンスはあるのは当たり前です」と、頂点は決して手の届かない位置ではないとあらためて感じている。

惜しくも金メダルは獲れなかったが、「このステージで、日本の綺麗なバスケットボールを本当に見せたかった。それはよくやれたと思いました」と、ホーバスが語っていたもう一つの目標は見事に達成できた。

トム・ホーバス

「教えたいことはいっぱいあります。いつも勉強です」

日本女子バスケの地位は間違いなく、これまでで最も上のステージに到達した。「日本の女子バスケにとって新しい時代となります。多くのファンが増え、より多くのサポートを得られるようになるでしょう。アメリカを倒すには今回の戦いを新しいスタンダードとした上で、ハードワークを続け、勝つためのゲームプランを練っていくしかない」

ホーバスは言う。「私たちにとってこれは終わりではなく、始まりです」

女子バスケ新時代の先導者として、彼以上の人材はいない。「本当に分からないです。JBAの人たちが何をしたいのか話しを聞きたいです」と、本人は去就について白紙を強調するが、「選手たちと長い間、一緒にやったので仲はすごく良いです。教えたいことはいっぱいあります。いつも勉強です。4年前と今のバスケは全然違います」とチームへの愛情を隠そうとはしなかった。

ホーバス、選手、スタッフにはまずはゆっくりと静養してもらいたい。しかし、強化を司る技術委員会にとっては、このオリンピックでさらに評価を高めた指揮官を引き止めるための環境整備、中長期的なビジョンの確立など安息の暇はない。オリンピックでの躍進が生み出した上昇気流を維持するため、ここから日本バスケットボール協会にとっての大一番が始まるのだ。

ここからすぐ、9月末にはアジアカップが開幕する。そこでホーバスが変わらず日本代表の指揮を執っていることを願う。ただ、今は女子バスケットボール界が紡いできた速く、激しく、何よりも美しいバスケットボールで世界中のファンを魅了し、オリンピックでのメダル獲得に導いてくれたことへの最大限の感謝で締めくくりたい。