本橋菜子

「今の私にできることを全部、このコートに置いてこようと思って」

「本当にここまで来るのに長い長い道のりでした。でも結果としてこうやってメダルを取ることができて本当にうれしく思います」

バスケットボール女子日本代表が、東京オリンピックで日本バスケット界史上初となる銀メダル獲得の快挙を成し遂げた直後のインタビューで、本橋菜子はこう語った。

2018年の代表初招集から結果を出し続けてチームに定着し、2019年のアジアカップでは大会MVPに輝くなど、日本代表で順風満帆な道のりを歩んできた本橋だが、昨年11月の強化合宿で右膝前十字靭帯損傷の大ケガを負った。東京オリンピックでの復帰が間に合うか危ぶまれたが、指揮官のトム・ホーバスはリハビリを続ける本橋を代表候補メンバーに呼び続け、本人もその期待に応えて完全復帰を果たし、銀メダル獲得に貢献した。

「ここまでの道のりを考えた時に、本当にいろんなことが蘇って、込み上げてきて、自然と涙が出ました」と、決勝戦が終わった直後に流した涙の理由を本橋は語った。

「あの時からここまでの道のりで、本当に苦しくて何度も逃げ出したいと思うことはありました。それでも、本当にたくさんの方々に応援していただいて、支えていただいてここまで来ることができて『良くやったな』って、自分のことを少し褒めてあげたいと思います」

アメリカとの決勝は敗れたものの、本橋は18分43秒のプレータイムで、3ポイントシュート5本中4本成功を含む16得点5リバウンド4アシスト1スティールを記録。アメリカの徹底されたディフェンスに苦しみ、オフェンスが重くなった日本に勢いを与えた。

本橋は「もう泣いても笑ってもこれが最後の一試合だったので、今の私にできることを全部、このコートに置いてこようと思って試合に挑みました」と言い、「最後は自分の空いているチャンスを狙うことができて、自分ができることは全部できたかなと思います」と語ったものの、あくまでも「コートに出た時間で本当に自分の役割を果たしただけです」と続けた。

本橋菜子

「良いチームメートに恵まれて、その一員であることをすごく誇りに思います」

ホーバスヘッドコーチが2017年に日本代表の指揮官に就任してから『東京オリンピックでの金メダル獲得』を目標に掲げ、チームはここまで歩んできた。わずか1勝足りず目標達成とはいかなかったが、得るものはたくさんあり、その中でも本橋は『仲間』の存在を挙げた。

「本当にこの仲間と一緒に厳しい練習を乗り越えてきました。この12人だけじゃなくて、それまでもいろんな合宿でいろんな仲間たちと切磋琢磨してきて、その人たちからもいろいろなことを学ぶことができました。本当に『こんな最高なチームはあるのかな?』と思うぐらい良いチームメートに恵まれて、その一員であることをすごく誇りに思います。メダル以上に、この仲間と戦えて本当に良かったなと思います」

「もちろんメダルが取れたのはすごくうれしいですけど、やっぱりこのチームで最後まで日本のバスケットで戦うことができたのが、本当に何よりもうれしいです」

目指していた金メダル獲得とはならなかったが「銀メダルですが、達成感がすごくあります」と言った本橋の言葉にすべてが詰まっている。そして、日本中に興奮と感動を与え、世界のバスケットファンに日本のバスケの面白さを証明したことも間違いない。

開催が1年延期となった東京オリンピックの幕が閉じ、銀メダル獲得を成し遂げた日本代表には次の期待も高まるが、「今はもう『やっと終わった』っていう開放感があるので(笑)、先のことは考えられないです」と本橋は笑顔で語りつつ、こう続けた。

「Wリーグが始まりますし、メダルを取れて今やっと日本のバスケットが注目されて、ここがチャンスだと思うので、Wリーグでもっともっとバスケットを盛り上げていけたらと思います」