トム・ホーバス

「4試合続けて違う選手が活躍、このチームの素晴らしいところ」

バスケットボール女子日本代表は、東京オリンピックの準々決勝でベルギーを86-85と撃破し、史上初となる4強入りを果たした。この試合、日本は第3クォーター中盤に13点のリードを許し、第4クォーターも途中で同点に追いつくも先行できない苦しい展開が続いたが、それでも粘り強く戦い、残り16秒に林咲希の3ポイントシュートで後半最初のリードを奪うと劇的な逆転勝利を収めた。

指揮官トム・ホーバスは劣勢が続いたことを「試合は多くの山あり谷ありで、第4クォーターは爪の先で崖にしがついている状況でした」と表現した。そこからひっくり返すことができた理由に「第4クォーター途中から守備の強度を高め、相手に気分良くプレーさせず、いくつかのターンオーバーを誘うことができました」とディフェンスを挙げる。

それでも最大の勝因を「信じること」と言い切る。「私たちは自分たちのことを信じています。彼女たちは特別なユニットです」

これこそが日本の強さの源であり、だからこそホーバスはあの歴史を変えた一撃を放つ前、3ポイントシュート7本中2本と確率の良くなかった林咲希を最後まで起用し続けた。「最後の林選手のシュートは、打った瞬間に入ると思いました。残り4分ぐらいの時、調子があまり良くないように見えて、交代した方が良いかなと思っていました。でも、いつでもどこでも決めてくれるので、林選手を信じ抜いて良かったです」

最も小さな日本がベスト4進出を果たしたことで、世界のバスケットボール界からの関心も高まっている。海外メディアから日本女子のバスケットボール文化について聞かれたホーバスは、「私は、幸運にも12名のジムラッツをコーチするチャンスを得ています」と、女子バスケ全体の先輩たちが築き、代々継承されてきた『ハードワークが当然』の雰囲気を語る。

「みんな毎朝6時からシュート練習をして、朝食を取って10時から12時半まで練習します。昼食を挟んで15時半から18時半まで練習をして夕食。その後はまたシュート練習をする。オフの日もシュート練習はやっています。走らないと気分が良くないマラソンランナーと同じように、私たちの選手はみんな一日中ずっと練習しています」

そして指揮官は他にも、特定の選手のパフォーマンスに多くを依存せず、日替わりでヒロインが出てくるところを強みに挙げる。「最後まで戦い続け、ここまで4試合続けて違う選手がステップアップして活躍してくれています。これこそ、このチームの素晴らしいところです」

トム・ホーバス

準々決勝の相手、ベルギーに謝罪「はしゃぎすぎたことを後悔しています」

準決勝の相手はフランスとなる。予選グループでは勝利を収めているが「連戦は好きじゃない。相手は私たちのスピード、スタイルを分かっているからです」と指揮官は警戒を強める。

一方で、史上初の4強進出の達成感によるメンタルの変化は心配していない。「もちろん私たちの仕事はまだ終わっていないです。ここから、これまでと同じ適切な精神状態に戻れるのかが試されますが、私たちは対処できるでしょう。セミファイナル進出で満足していない。あと2つ勝ちたいです」

最後に、是非とも紹介したいのはホーバスの共同会見における第一声だ。「まず、ベルギーのコーチ、選手たちについて申し訳ないことをしたと伝えました。彼女たちは謙虚さ、品位を持った素晴らしいチームです」と試合後、劇的勝利に興奮するのは致し方ないのに、相手の心情をはばかることができずに感情を爆発させてしまったと謝罪したのだ。

「私たちはいつも彼女たちと今日のような白熱した試合を行なっています。自分がはしゃぎすぎたことを後悔しています。あの態度は、ベルギーに敬意を持っていないことの現れではありません。私は20秒間、正気を失っていました。あのような感情になったのは久しぶりで、自分でも驚きでした」

日本文化が大切にする相手への敬意を忘れない謙虚さ、思慮深さを体現するホーバスは、日本代表の指揮官として、その能力に加え、人間性でも最適の人物だ。

トム・ホーバス

「自分自身、チームメート、スタッフを信頼することで多くのことができます」

そして、いよいよあと2勝と迫った頂点へ向けての思いを語る。

「就任会見で私のゴール、夢は東京オリンピックの決勝でアメリカに勝つことと語りました。その時、みんな笑っていましたが、もしかしたら今は他の人たちもこの目標を信じてくれているかもしれません。私はそれを信じているし、ロッカールームのみんなも信じています。そして、自分自身、チームメート、スタッフを信頼することで多くのことができます。素晴らしい5年間を過ごせています」

2016年のリオ大会で決勝トーナメント進出と躍進を果たした日本代表だが、準々決勝でアメリカに敗れている。フランスとは因縁があり、予選ラウンド最終戦でフランスに「13点差以上の勝ち」を収めていれば、準々決勝でアメリカを避けることができ、そうすればさらに上も目指すことができた。自分たちが上位でのグループリーグ突破を確保できる試合運びをするフランスに対し、日本は優勢に試合を進めるものの押し切ることはできず、79-71で勝利を収めたもののアメリカを避けることはできなかった。

ただ、今回は金メダル獲得が目標で、相手がどこであれ倒すしかない。今日は因縁のフランスと決着をつけ、アメリカvsセルビアの勝者とファイナルで対戦する。ホーバスが2017年1月の就任会見で語った「決勝でアメリカを倒して金メダルを」の言葉が現実になるかどうか。まずは今日勝つことが絶対条件だ。

信じることで生み出される力を重視する指揮官の背中を少しでも押せるように、今からでも代表の金メダル獲得をより多くの人が信じ、多くの声援を送ってくれることを願う。