金丸晃輔

「代表では3ポイントシュートだけを求められています」

今日21時から、5人制の男子日本代表が東京オリンピックの初戦でスペインと対戦する。

今回の日本代表では、八村塁と渡邊雄太のNBAプレーヤー2人が攻守の軸となる。史上最強との呼び声は高いが、長らく国際大会で勝てていない過去の日本と比べてどれだけ強くても大した意味はない。日本代表の立ち位置は『何とかして1勝をつかみ取れるか』といったところ。今日の対戦相手であるスペインは2年前のワールドカップの優勝チームで、3戦目で当たるアルゼンチンは準優勝のチーム。2戦目で当たるスロベニアはどうかと言えば、今日の試合でルカ・ドンチッチが48得点という圧巻のパフォーマンスでアルゼンチンを撃破した。

八村と渡邊は日本バスケ界の歴史において突出したプレーヤーであり、まだ若く伸びしろもある。だが、現実問題として今回のオリンピックで日本代表に『1勝』をもたらすだけの、ドンチッチのような力があるかと言えば、そうではない。日本としては2人に頼るのではなく、彼らを軸にしながらも12人全員がそれぞれの役割を全うし、世界の扉をこじ開けなくてはならない。

つまりは全員がキーマンなのだが、オフェンス面で特に期待したいのは金丸晃輔だ。長らく日本国内ではトップの得点能力を見せていたが、代表にはなぜか縁が薄く、2017年秋にワールドカップアジア予選の予備登録メンバー24名に入ったのが最後。その彼が代表に復帰したのは2020年の2月のことだ。

2019年のワールドカップでは3ポイントシュートの弱さが日本の足を引っ張った。現在のバスケでは、得点効率の高い3ポイントシュート抜きに勝利は見込めない。アジアでの予選を勝ち抜き、ワールドカップ出場に至るまでに多くのシューターが代表に呼ばれ、それぞれ持ち味を発揮したが、絶対的な存在としてチームに定着することはなかった。ケガの相次ぐ辻直人のプレーが安定せず、安藤周人はワールドカップで不発に終わった。ここでようやく金丸にチャンスが巡って来たというわけだ。

新型コロナウイルスの影響でほとんど代表活動ができなかった去年、2月のアジアカップ予選のチャイニーズタイペイ戦で、金丸は6本中3本と高確率で3ポイントシュートを沈め、17得点を記録した。「何点取ったかも大事ですけど、打つまでの流れが良い感じでできました。やれる自信は結構ありました」と、代表での手応えをつかんだ一戦となった。

この時、金丸は日本代表のバスケに自分のプレーを合わせる意味で、重要な発見をしている。「三河と同じようにはできません。代表では3ポイントシュートだけを求められています。空いたら打つことを練習からずっと言われています。僕が出ている時間帯は3ポイントシュートが欲しい、そういう狙いで使われていると思うので」

金丸晃輔

シューターの神髄「打てるのに打たないのが一番ダメですね」

チャイニーズタイペイとの試合でこの気付きを得て、実際にコートで結果を出したことで、金丸はオリンピックのロスター入りを勝ち取ったことになる。12人に選手が絞られる今夏の代表合宿で、彼はこんな思いで練習を重ねていた。

「呼ばれなかった時期の僕は3ポイントシュートだけじゃなく、スタイル的には2点の方が多かったけど、今シーズンも3ポイントシュートを重点的にプレーしました。コーチの目に留まるために、僕はシュートでインパクトを与えるしかないと思っていました。打てるのに打たないのはマイナス評価だし、誰にもプラスにならない。積極性だけは失わないように挑んでいました」

タイペイ戦を前にしたメディア対応で、金丸はワールドカップの惨敗を振り返り、「僕がいたとしても3ポイントシュートは簡単には打たせてもらえないと思って見ていました」と語っている。「世界のレベルが高い選手が集まるわけで、シュートどころかボールも持たせてもらえない。その中で確率良くシュートを決めていくには、やっぱり強靭なメンタルが必要だと思います。自由に行くよりはチームのシステムの中でフリーな状況が来て打つ、あとはアーリーで空いたら打つ感じです。ノーマークだったら打って良い、シュートを狙えと言われています。ノーマークじゃなかったら次の展開を作るのがチームの方針です。逆に打てるのに打たないのが一番ダメですね」

Bリーグでの彼は、5シーズン連続ベスト5に選出されるとともに、今シーズンはMVPも受賞した。だが、その多彩な得点能力は日本代表では封印するつもりだ。集中するのは、巡ってきたチャンスを確実に仕留めること。「打つ本数がそこまで多くないと考えると、やっぱり4割、5割は決めていかなきゃいけない」と彼は言う。

「僕が打つ場面はトップでピック&ロールが行われて、そこからズレが起きてキックアウトという形。本当に7割、8割はコーナーにキックアウトしてとかファストブレイクで打つとかでノーマークだと思うんです。そういうシーンは迷いなく打ち続けたい。そして、4割か5割は決めたい」

ワールドカップでは3ポイントシュートがなかったために、八村や渡邊のアタックは必要以上に警戒され、成功率が落ちた。そして、彼らの負担が必要以上に高まる原因にもなった。相手に「この14番に打たれてはいけない」と意識させるだけで、チームのオフェンスは回りやすくなる。チャンスが多くないのは承知の上。最初のチャンスを確実に決めて、あとは相手の注意を引き付ける。金丸がその仕事を全うできるかどうかが、日本のオフェンスの一つのカギとなる。