「ここで毎日一緒に戦っているチームメートは兄弟で、お互いのために戦う」
バックスはNBAファイナルで2連敗から3連勝を収め、優勝に王手を掛けて明日の第6戦に臨む。レブロン・ジェームズやステフィン・カリーに続いてヤニス・アデトクンボがリーグの主役に躍り出るまであと1勝。今のバックスはアデトクンボだけでなく、クリス・ミドルトンとドリュー・ホリデーの『ビッグ3』がチームの核となっており、安定感のある戦いぶりができている。
しかし、今のバックスをグッドチームから本当に強いチームへと変える要素となっているのはハードワークと闘争心であり、それをもたらすPJ・タッカーやボビー・ポーティスといった『仕事人』の働きぶりも無視できない。プレーの質ではサンズが上回っていても、劣勢になっても踏み留まり、押し返す力を彼らが発揮することで、バックスは粘り強く勝ちを積み重ねている。
中でもポーティスは、今やバックスファンのアイドル的存在になりつつある。相手チームのファンはアデトクンボがフリースローを打つ際に、ルーティーンに時間のかかる彼を焦らせようとカウントを大合唱するが、バックスファンはポーティスがハッスルするたびに「Bobby! Bobby! Bobby!」のチャントで盛り上がる。
ミドルトンは「ボビーはみんなにエネルギーを与えてくれる。時には自分に喝を入れるために、叫んだり怒鳴ったりしてくれる人が必要だ。感情を表に出しすぎることを好まない人もいるだろうし、実は僕もそういうタイプだけど、彼は勇気と自信を持って声を上げてくれる。僕らにとって必要な存在なんだ」と語る。
しかしポーティスは、「自分のイメージは理解している。長い間、チームメートを殴った男として見られていた」と語る。
2017-18シーズン開幕直前、ブルズで3年目を迎えていた彼は練習中にニコラ・ミロティッチを殴り、あごの骨を折る重傷を負わせた。彼は謝罪したがわだかまりは残り、その1年後に4000万ドルを超える契約延長を断ってブルズからトレードされた。ウィザーズ、ニックスとチームを変えながらもローテーションに入り、常に2桁得点を記録してきた選手であるにもかかわらず、その評価はなかなか上がらなかった。
それは「チームメートを殴った男」のイメージがあったからだろう。彼が試合で出すエナジーは荒々しく、味方にも害をなすのではないかと恐れられた。彼によれば、変化のきっかけは新型コロナウイルスのパンデミックによりもたらされた。昨シーズンの『バブル』でのリーグ再開にニックスは招待されず、気晴らしをすることもできない長いオフを過ごす間、彼は自宅にこもって自分の内面と向き合った。そしてアデトクンボに電話を掛けて自分を売り込んだ。格安の契約は、ポーティスが自分の評価を変えることを優先して自ら選んだものだ。
ホーム2連戦となったNBAファイナル第3戦と第4戦の間に、ポーティスは自分の顔と『Bobby! Bobby! Bobby!』の文字がプリントされたTシャツをファンが着ていることに気付いた。その数はあっという間にふくれ上がり、第5戦ではパット・カナートンがそのTシャツを着て試合後の会見に応じた。
ポーティスは言う。「アリーナに向かう車の中から、何人かのファンが着ているのに気付いた。驚いたよ。注意して見てみると、アリーナでも結構着ている人がいた。パットが着てくれたのも、僕にとっては特別な出来事だ。ここで毎日一緒に戦っているチームメートは兄弟で、お互いのために戦う。これはこのチームの結束力を示すものだし、僕にとっては望んでいた世界なんだ」
ただ、これはすべてポーティスが自ら勝ち取ったものだ。「僕はずっと一生懸命プレーして、チームのために全力を尽くしてきたつもりだ。フィフティフィフティのボールを追いかけ、リバウンドに飛び込み、コーナースリーを打つ。チームが勝つために必要なことはすべてやる。兄弟のためにね。ミルウォーキーは労働者の街で、みんな家族のために額に汗して一生懸命働いている。バックスのプレースタイルも同じ。だからこそ街が一つになっているし、僕のプレースタイルが受け入れてもらえるんだと思う」
「他のチームからはもっと条件の良いオファーがあった。それでもここに来たのは、勝利の文化の中で自分の役割を果たしたかったからだ。6年間のNBAキャリアで4つ目のチームになるけど、このチームの文化は素晴らしいものだし、チームメートもコーチも僕を信じてくれている。だからこそ、僕はコートに出て思い切りプレーできるんだ。人生で初めて平穏な日々を過ごしているし、このチームと一緒にいることで僕は自分自身を取り戻すことができた。この機会を与えてもらったことに感謝している」
そして彼はこう付け加えた。「ここまでは順調だね。でも、あと1勝だ」