ケガに苦しんだ本橋と宮澤夕貴の復活が最大の収穫に
オリンピックの初戦まであと10日。ようやく本橋菜子が本来のパフォーマンスを取り戻し、日本代表の関係者は安堵していることだろう。本橋は昨年11月の代表強化合宿中に右膝前十字靭帯損傷の大ケガを負い、Wリーグのシーズンを棒に振った。オリンピックに間に合うかどうかもギリギリで、代表合宿がスタートした時点ではまだチーム練習に参加できず、少しずつコンディションを上げてきた。それでも2日前のベルギー戦では力強いアタックを出せず、出場したもののプレータイムはわずか2分半だった。
それが今日のプエルトリコ戦で、本橋は全く別のパフォーマンスを見せる。ポイントガードとしては先発の町田瑠唯、宮崎早織に続く3番手での登場となったが、切れ味の鋭いドライブ、そこからの得点とアシスト、またディフェンスでもアグレッシブなプレーを貫き、13分のプレーで11得点2アシストを記録。2日前には見られなかったコート上での笑顔も出た。
試合後の会見で本橋は「80%ぐらいまでは戻って来た感覚がある」と語り、「出た時間は積極的にアタックする、空いたら打つことを意識していて、ディフェンスがスクリーンした時にアンダーを通ったら3ポイントシュートを狙ったり、サイズのミスマッチが出たらアタックすることを意識して、そこは良かった」と自分のプレーを振り返る。
先発の5人が素晴らしい連携を見せ、セカンドユニットの選手もそれぞれ個性を出してチームに貢献した試合となったが、それ以上に今日の収穫として大きかったのは、ケガからの復帰段階にあった本橋と宮澤夕貴が、ついに突き抜けたパフォーマンスを見せたことだ。ヘッドコーチのトム・ホーバスは「この10日間の合宿で、2人はあまり良いバスケをやっていない。この試合でやっとできた」とうれしそうに語る。もともと宮澤はこのチームのエーススコアラーで、本橋は先発のポイントガードだ。ギリギリではあっても、この2人が間に合ったことでチームとしては様々な計算が立つ。
「励まして応援してくれたおかげで、乗り越えることができました」
本橋に話を戻すと、今日の段階で80%まで戻すことができれば、もうオリンピックで本来のプレーができると期待しても良いだろう。彼女自身、「バスケができる喜びを感じつつも、五輪の大きな舞台で、ここまで一緒に戦ってきた仲間の分も、選んでいただいた私は頑張らないといけないという思いを持っている」と、プレーできる喜びと責任感の両方を感じている。
「スターターになることはないと思いますが、そこにこだわりはなくて、出た時間に自分の役割をしっかり果たすことがチームの勝利に貢献できることなので、やるべきことは変わりません。ただ自分が出た時に役割を徹底することだけを意識している」と本橋は言う。本橋がどれだけコンディションを戻せるか分からない状況で、町田をポイントガードの軸とするチーム作りは上手く進んできた。今回、本橋の役割はシックスマンとして攻守のギアを上げることになりそうだ。
ディフェンスでも今日の本橋のプレーは光った。ボールへの執着心を押し出し、パスコースを限定するチームメートの動きに連動してスティールを狙い、それがかなわなくてもパスを手に引っ掛けて相手の攻撃のリズムを乱した。今も右膝には大きなサポーターが目立つが、トップスピードでボールを追い掛けてジャンプし、ストップし、方向転換して鋭く加速する動きはケガの影響を感じさせない。
「間に合わないんじゃないかって思う余裕もないぐらい毎日必死にやっていました。でも、心が折れることはなかったけど、しんどい時期はあって、でもそういう時に近くに支えてくれる人や連絡をくれる人もいて、そういう人たちが励まして応援してくれたおかげで、乗り越えることができました」と、本橋はこれまでの道のりを振り返る。
トム・ホーバスの「もうやるしかない、オリンピックが楽しみ」という言葉はチーム全員が共通して持っているものだ。本橋も「ここまで来たらやるしかないという気持ちで、自分もチームメートも信じてコートに立っています」と語る。
「あと10日で残り少ないですが、一日一日を大切に、やれる準備をしっかりして、本番で金メダルを獲得できるように、日本らしいバスケで全力で戦っていきたいと思います」