ベッキー・ハモン

ブレイザーズの新ヘッドコーチ最終候補に残るも選ばれず

ベッキー・ハモンはNBAで初の女性ヘッドコーチに最も近い位置にいる。しかし、このオフもチャンスは回って来ないようだ。元WNBAのスター選手であるハモンは、2014年にスパーズのアシスタントコーチに就任。現在に至るまでグレッグ・ポポビッチの下で働いている。

NBA屈指の名将であるポポビッチの下でコーチ修業をしながら、ベッキーはヘッドコーチとして独立する意思を常に表明してきた。いずれ彼女にはチャンスが来るだろう、と誰もが思っているが、その時はなかなか訪れない。これまでバックス、ニックス、ピストンズ、ペイサーズ、サンダーと様々なチームのヘッドコーチ候補に名前が挙がったが、その先のステップに進むことはなかった。今オフもテリー・ストッツ解任を決めたトレイルブレイザーズで最終候補に残ったものの、チャウンシー・ビラップスが選ばれた。

もっとも、今回のブレイザーズのヘッドコーチ選定には良からぬ噂もある。本命のビラップスに過去の婦女暴行疑惑が取り沙汰され、女性蔑視の球団と見られることを嫌ったブレイザーズが、その風評を消すために女性のハモンを候補に加えた、という話だ。それが本当かどうかは分からないが、ハモンはオーナーとの面接にまで進みながら不採用とされた。

そのハモンが『NBC SPORTS』の取材に応じ、ブレイザーズに対して「競争の激しいビジネスですから、採用されなかったことに怒ってはいません。自分が2番手であることは分かっていましたが、それでいいと思っています。自分が何に直面しているのかは分かっているつもりです」と今の心境を語っている。

「一つひとつの経験を大切にし、そこから学んで次の機会のために成長しようとしています。私を雇う、雇わなかった理由は自分にはコントロールできない部分なので、与えられた瞬間にベストを尽くすことだけを考えたいです。それに、スパーズが私を評価してくれていることは分かっています。それでいいとも思っています」

NBAは多様性を受け入れる組織だが、『男の世界』でもある。ポポビッチは最初に彼女を雇い入れた時から一貫して、性別には関係なく一人のコーチとして、ハモンの手腕を評価すると同時に、彼女が向き合うであろう困難を早くから予想してこうコメントしている。「勇気があり、昔ながらの慣習にとらわれない人物がいるかどうか。簡単ではない。そういう世界に我々は生きているんだ」

マヌ・ジノビリ、ティム・ダンカン、トニー・パーカーを始め、実際に一緒に仕事をした多くの選手が彼女のコーチとしての実力を評価している。ただ、雇う側からすれば『NBA初の女性ヘッドコーチ』で注目を集めて失敗することが怖いのもまた確かだ。

その点についてハモンは「自分が初めての女性だから、という理由でニュースになりたくはありません。自分の能力が評価されて採用された、というニュースになってほしいんです」と語る。「注目を集めるのは当然だと思います。正しいことも間違ったこともするでしょう。それでも私の仕事は、選手たちのために働き、彼らの才能を誰よりも信じるリーダーであることです」

いずれハモンがヘッドコーチになる日は来るだろう──。そう言われてもう何年も経つが、コーチとして、リーダーとして、彼女の準備はすでに整っている。「女性だから」を気にせず、コーチとしての手腕だけを評価して「欲しい」と思う球団やオーナーが、いずれ出てくる。長く待たされてはいるが、『覚悟』を持った相手と組むことはハモンにとってもプラスになるはずだ。