島田慎二

Bリーグはさらなる発展のため2026-27シーズンから『エクスパンション型』へのリーグ再編を実施する。最低10クラブ、最大18クラブをまずは予定している新B1に所属するためには、競技成績ではなく3つの条件を満たすことが求められる。年間売上12億円、平均観客数4000人、収容人数5000人以上などの基準を満たしたアリーナだ。

様々な課題も見えている一方、Bリーグは誕生からここまで総体的に言えば成長を続けている。だからこそ、現在の昇降格制度をなくし、ホームを体育館ではなくアリーナにすることを求めるなどドラスティックな改革を行うことへの懐疑的な意見は少なくない。そういった声も届いている中、それでも新しい形を推進していく理由を、島田慎二チェアマンに聞いた。

『3つの条件』は売上12億円、観客数4000人、収容人数5000人以上のアリーナ

──今回、Bリーグでは特設サイトを公開し、より具体的に新しいリーグの形やそこに至る過程を説明しています。なぜ、『新B1』の初回審査をリーグスタートの2年前となる2024-25シーズンの前に行うのですか。

なぜ2年前かと言えば、バスケットボールはアリーナを利用するソフトの一つで、1年のうちで約30日プラスアルファを占めるのみだからです。残りの335日でバスケ以外のイベントを誘致して埋め込んでいかないと、地元が潤っていきません。そのためには、ある一定の猶予期間が必要なので、2年前の段階でバスケットのスケジュールを決めて、空いた日を他のイベントで埋めてもらえるようにしたいんです。ホームの会場がアリーナではなく今と同じ体育館で良ければ、1年前からの審査で良かったです。

──「体育館ではなくアリーナで」にこだわる理由をあらためて教えてください。

バスケットボール界がさらに成長して、地域を活性化していく理念を実現させるためには、バスケットが盛り上がるだけではいけない。バスケットは一つのソフトで、バスケットを通してアリーナができることで、他の素晴らしいコンサートやイベントがそれぞれの地元で開催できるようになるし、アリーナを軸に地域が活性化していくことが大切だからです。

──『夢のアリーナ』の代表的な存在が沖縄アリーナです。それ以外で今、新B1の基準を満たしているアリーナはありますか。例えばBリーグの開幕ゲームが行われた代々木第一体育館は条件を満たしていますか?

代々木第一はスイートルームなどの基準を満たせていません。基本的に今ある体育館では基準を満たしていないので取り壊して違うものを作るか、今あるものを大きく改修するなどリノベーションするしかありません。正直、ハードルは高いと思います。簡単ではないからこそ基準を明確にして、こういう風に変わりますと、昨シーズンはずっと全国を飛び回り知事など地元自治体の方々とその話をしてきました。

──これまで新B1に所属するには2026-27シーズンの開幕前に基準を満たすアリーナが必要でした。それが施工者、実施設計の計画が決定済みなどの条件つきで、2028-29シーズンまでに利用可能なら大丈夫と条件が緩和されました。

これまでは2024年から審査に入り、2026-27シーズンにスタートするので、それまでにアリーナが完成していて売上12億円、平均4000人とすべてを満たす必要があったので、「急いでください」と伝えていました。ただ、それでは時間が少ないです。また、夢のアリーナ構想と大きな目的を持って動いているのに、2026年に間に合わせたいための安易な改修を行って要件をパスするための仕様になるのは避けたい。そういう考えもあり、2028年までに延ばすことを認めました。

Bリーグ

「この5年の間にリーグの勢力図が大きく変わってもおかしくない」

──最低10クラブ、最大18クラブが想定されている新B1の初回審査は4次までありますが、チェアマンとしてはどの段階で、どれくらいのクラブ数が決まっていくのか。現段階での見通しを教えてください。

1次審査でパスできるのは、3つの条件を2022-23、2023-24シーズンと連続で達成していることです。これを満たせるのは数クラブだけになると思います。2次審査になると12億円、4000人を2023-24シーズンに達成し、アリーナが2028年までに完成すればよい。これはかなり増えてくると思います。

そして、多くのクラブにパスできる可能性があるのは3次審査で、アリーナが2028年までに間に合い、「12億円かつ3000人」もしくは「4000人かつ9億円」のどちらかを満たせばOKとします。ここまで10クラブに達していなかった場合は、3000人、9億円以上を条件とする4次審査を行います。ここで18クラブ以上となった場合はクラブの歴史、今までの財務状況を鑑みてリーグが判断します。

──大企業が資本に入らず、独立系で活動している地方のクラブでは、新B1の基準をクリアするのは難しい。そういう意見も出ていますが、チェアマンの見解を聞かせてください。

この新しい仕組みは地方衰退ではなく、地方をなんとか盛り上げていくための施策と考えています。独立系か、大資本が入ってくるのかは、クラブや地域の思想の問題ではないでしょうか。己の道を行くと独立系で多くの支援を集めるのも一つの方法ですし、それでは限界があるとM&Aなどを行って大資本を迎え入れる、地域密着と大資本のハイブリッド経営を模索することも一つの選択肢で、各クラブ、地域の哲学によって違いが出てくるものです。リーグはそのどちらを求めているわけでもありません。12億円、4000人までなら地方でも十分に達成可能と思って設定しています。アリーナについても、地域の財政面など状況にあったそれぞれのタイミングで完成すればいいと思います。

──まだ、この新フォーマットは発表されたばかりで、バスケットボールファンの中でも浸透していない。よく分からないからこそ、懐疑的な声が出ている側面はあると思います。

今は変革期であり、基準を明確にし、理念を伝えることが大切です。それは物事を変えるためには説明責任があるからです。どうしても事業観点からの言及が多くなることで、「バスケの本質から外れている」と見られがちですが、この新しいフォーマットでいったん3つのカテゴリーに分かれてスタートし、1年、2年と経っていけば全体の違和感はなくなっていくと思います。そして最終的に事業力がなければ競技力は上がっていかないことを強調したいです。

新B1から漏れると不安を抱えるファンの方たちの心情は理解しています。ただ、今の昇降格制度でも、クラブが安定してB1にいられるわけではありません。新シーズンからB3に参入する長崎ヴェルカ、アルティーリ千葉のような資金力を持った新規クラブ、さらにM&Aによって大企業の資本力を得るクラブはこれからもっと増えてくると思います。この5年の間にリーグの勢力図が大きく変わってもおかしくないです。

これは当然ですが、みんな今を生きていて、ファンの皆さんも目の前のシーズンについて考えるものです。ただ、私は未来のために動いているので、そこでミスマッチが生まれてしまうのは致し方ないとも考えています。私は叩かれ役でいいと思います。ここまでバスケ界を支えてくださってきた皆さんへの配慮をしなければいけないが、同時に改革が必要であることへのご理解をしていただかなければいけない。

現実としてこれから変わらないと、バスケットボール界は将来的にはもっと大変なことになります。だからこそ何よりも結果で示すしかない。沖縄のように皆さんが非日常を感じられるようなアリーナが2026-27シーズンに増え、皆さんに「こういう世界観を目指してリーグは動いていたのか」と思ってもらえるようにするしかないです。

島田慎二

「ファンの皆さんに加え、地域社会を喜ばす環境を作り上げていく」

──特にこのオフシーズンは選手の移籍が活性化しています。それに伴って選手の待遇が向上していくのは、リーグとしても歓迎すべき事柄です。ただ、コロナ禍で各クラブの売上が落ちている中で、年俸が上がっています。リーグ全体の流れとして、売上と反比例し人件費が上がっていることは、経営面でいうと健全ではないと思いますが、どのように見ていますか。

コロナ禍で世の中が厳しい中、ちょっと早いペースではという気持ちはあります。勢力図が変わるという意味では面白いですが、リーグはクラブを支えるためのコロナ支援金を総額8億6000万円出しており、経営の担保として降格を一時的に止めています。そこを踏まえると、リーグの思いとは裏腹な流れになっていると感じます。

人件費は売り上げの40%くらいが理想で、経営の成長に応じて増やしていくのがあるべき姿です。自分たちで稼いだお金で払える範囲によって最大限の価値を生んでいく。勝ちたいから親会社のスポンサー料金を増やして戦力を強化していくことは理想的とはいえないです。ただ、この状況を100%否定することはないです。

今の流れをある程度良しとしているのは、リーグの将来構想があって2024年に評価されることが決まっているからでもあります。平均4000人まで入場者数を増やすためには、強いチーム、魅力的なチームが必要となる。そこへの危機感からこの1年、2年で一気にチームを魅力的にして、ファンを集めないといけないと意識しているクラブが投資を増やしている。そこを視野に入れての人件費アップだと理解しないといけない部分はあります。

──最後になりますが、今回の改革についてチェアマンはファンの皆さんにどんなメッセージを発信していきたいですか。

会場が今より非日常の空間となり、それを見て高揚し、ファンになってくれる人が増える。お客さんでアリーナがいっぱいとなり、各クラブがより稼げることで選手たちの年俸が上がり、クラブスタッフの報酬が上がる。各地に人気クラブができることで人々の新たな交流が生まれ、地元の飲食業、ホテル業など経済の活性化に貢献できる。ファンの皆さんに加え、地域社会を喜ばす環境を作り上げていくために、この改革を行っていきます。

また、バスケットボールはコートに立つのが5人のみで、他のチームスポーツと比べても人件費の差が結果に反映されやすい。このオフシーズンの移籍の動向を見てもその流れは顕著です。だからこそ先回りをして、競技力に左右されずトップリーグにいることで地域に経済効果をもたらし、愛されていくクラブになっていける道筋を整えたいと思います。

たとえ2026年が無理でも、しっかりとした計画を立てクラブを成長させていけば28年、30年と自分たちにあったタイミングで新B1の地位を獲得できます。入れ替え戦での競争に常にさらされるより、地域と協力してどれだけ自分たちの価値を高めていけるのか。幸せになる選択肢として、『競争相手は己にある』ことが正しいと私は思っています。

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