ポール・ジョージ

「これで彼は少し休むことができる。その間は自分たちが支えるんだ」

クリッパーズにとっては大きな1勝だった。ジャズとのカンファレンスセミファイナル第5戦、カワイ・レナードが膝を痛めて戦線離脱したクリッパーズに敵地ユタで勝ち目があると誰が予想しただろうか? しかし、ポール・ジョージが37得点を挙げてチームを牽引した。指揮官のタロン・ルーは「試合が始まる前、ジョージが『今日は僕に任せてくれ』と言ったんだ」と明かす。それだけ気持ちが入っていた。

40分のプレータイムを通してジョージは果敢に攻め続けた。カワイが不在となり、これまで以上に相手ディフェンスに警戒されていたにもかかわらずフィールドゴール22本中12本を決め、フリースローは11本中10本を決めた。「この試合で自分がやらなきゃならないことは分かっていた」とジョージは語る。

カワイのケガを聞いた時は「大きなショックを受けた」と言うジョージだが、「でもカワイにとってこれを良い方向に持って行かなきゃいけないと思った。これで彼は少し休むことができる。その間は自分たちが支えるんだ」と気持ちを切り替え、自分がチームのファーストオプションになる覚悟を固めた。

「ペイサーズではチームを僕が引っ張らなきゃいけなかった。ここでは世界最高の選手の一人であるカワイと一緒にプレーできるけど、その彼がいない今は僕が先頭に立たなきゃいけない。インディアナ時代のメンタリティに戻ったんだ。大変ではなかったよ。自分がすでに経験したことのある役割をまた担うだけのこと。ただ自分を信じてやるだけだった」

ずっと接戦が続いたが、後半が始まってすぐ逆転に成功したクリッパーズはリードを保ち続けた。ジャズは終盤になってドノバン・ミッチェルが強引なアタックから次々と得点を奪ったが、『エースの孤軍奮闘』は本来のチームの売りであるバランスアタックを損なうことに繋がった。逆にクリッパーズは勝負どころでレジー・ジャクソンの連続得点、ディフェンスマンのテレンス・マンが豪快なドライビングダンクでバスケット・カウントをもぎ取るなど、ジョージ以外のオプションも機能した。

かつてのポール・ジョージはペイサーズの『顔』として、レブロン・ジェームズのキャバリアーズに挑み続けていた。2017年オフにサンダーに移籍した時には、ケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックに続いて「MVPを狙う」と宣言した。しかし、競争の激しい西カンファレンスで彼は苦戦し、サンダーでの2シーズンはプレーオフファーストラウンド止まり。カワイの2番手になることを受け入れたクリッパーズでは、昨シーズンのカンファレンスセミファイナルでナゲッツ相手に3勝1敗から逆転負けを喫している。特に前回のプレーオフでは『バブル』の環境に馴染めなかったことがプレーにも響き、評価を落とすことになった。

常にエリート級のスタッツを残してはいるものの、より強いインパクトを残すのは常にカワイであり、ジョージ自身もそれを受け入れていた。だが、チームがこの非常事態に陥った時に、ジョージは『主役』としての存在感を取り戻した。

レジー・ジャクソンは「ポールは特別な存在なんだ。チームが勝つために必要なものすべてを彼がやってくれた。僕らの『兄貴』がやってくれた仕事を誇りに思うよ」と、ジョージに全幅の信頼を寄せる。

ジョージ自身も、周囲のサポートへの感謝を忘れなかった。「みんな僕がチームを引っ張ることを認めて、後押ししてくれた。僕の背中を押し続けてくれて、僕の気持ちを支えてくれたおかげだ」

カワイのケガはクリッパーズにとって大きな打撃だが、残る選手たちが結束する良い機会になった。相手のホームで3勝目を挙げたことで、カワイ抜きでも有利な状況で第6戦を迎えられる。因縁のユタで決定的な活躍ができたことは、ジョージにとって最高の刺激となるに違いない。これまでクリッパーズの評価は必ずしも高くはなかった。昨シーズンからの上積みはほとんどなく、ジャズに対しても苦戦が予想されたし、すでにカンファレンスセミファイナル突破を決めたサンズに対しても不利と見られただろう。だが、ここでカワイ抜きの状況を打ち破り、ジョージがチームを引っ張って、そこにケガを治したカワイがフレッシュな状態で戻って来たら何が起きるだろうか? クリッパーズが大きく化けるきっかけとなる、価値ある勝利だった。