「フロアスペーサーであり、ディフェンダー」に徹するポルジンギス
マーベリックスは2シーズン連続でプレーオフのファーストラウンドでクリッパーズに阻まれた。若き天才、ルカ・ドンチッチがNBA3年目のシーズンでさらなる成長を遂げたにもかかわらず、チームは前進できなかった。2勝4敗だったのが3勝4敗になったのは半歩前進かもしれないが、そんな遅いペースでは、NBAファイナルに進出する前にドンチッチの選手寿命が尽きる。いや、それより先にドンチッチは別のチームでプレーしたいと思うようになるだろう。
マブスがドンチッチ中心のチームであることは間違いない。彼を支えるべき第一の存在は、チーム内で最も高給取りのクリスタプス・ポルジンギスだ。しかし、彼は戦犯として扱われている。昨シーズンのプレーオフでは膝の痛みを抱えながら3試合で23.7得点、8.7リバウンドを記録したポルジンギスは、今シーズンは13.1得点、5.4リバウンドとスタッツを落とした。今回は膝の状態が良くなったにもかかわらず、だ。ドンチッチは好調だったが、負担が大きすぎた。周囲がサポートできなかったという点で、その筆頭としてポルジンギスに批判の矛先が向くのは当然だ。
しかし、ドンチッチとポルジンギスのデュオが噛み合わないのはポルジンギスのプレースタイルや意欲の問題ではなく、ドンチッチにも問題がある。シーズンを重ねるごとにドンチッチの存在感は強くなり、彼がオフェンスの主導権を握るようになった。彼がボールを持って始まるフローオフェンスは、『ドンチッチに始まり、ドンチッチに終わる』と言っても過言ではない。
彼にはそれだけの才能がある。しかし、一人の選手がすべてを担うオフェンスには限界もある。彼が試合を支配すればするほど、他の選手はボールタッチの機会が減り、リズムに乗るのが難しくなる。ドンチッチはマブスオフェンスのファーストオプションであり、時にはセカンドオプション、サードオプションにもなる。ドンチッチはアシストも多いが、流れの中で誰を使うかは決めるのは彼であり、ポルジンギスはそれに合わせなければならない。
これが『使われる側』の選手であれば適応は難しくないのだが、ポルジンギスは違う。オールラウンドな能力を持った選手で、自分でポストアップを仕掛けたり、スクリーンからダイブしたり、あるいはポップして外からのシュートを放ってリズムをつかみたい。だが、今のマブスで彼が『自分のリズム』を求めるのは、クリッパーズに4回勝つより難しい。彼自身、プレーオフ敗退が決まった直後の会見で自身の役割を問われ、「フロアスペーサーであり、ディフェンダーだ」と答えている。
「得意な役割じゃないけど、ルーキーに戻ったつもりでやっていた。リバウンドを取り、ディフェンスで頑張って、コートを走る。試合に影響を与えられるならどんな小さなことでもやろうとした。プレーオフでもそれを実践した」と彼は言う。記者から「その役割を続けることをどう思うか」と問われるとポルジンギスは「分からない」と答えた。
チーム一番の高級取りがスペーシングとディフェンスをしている。もう一つはスポットシューターの役割だが、彼が誰かのリズムでプレーすることに今も四苦八苦しているのは明らかだ。ドンチッチの才能を理解し、コート外でも親交があるからこそポルジンギスは受け入れているが、「これでは自分の良さが生きない」と叫びたい気分に違いない。
マブスファンの多くは敗戦の憤りをポルジンギスにぶつけ、トレードすべきだと考えている。だが、彼のケガと残り3年1億ドルの年俸を考えれば、マブスの望む形でのトレードが成立するはずはない。受け入れがたいだろうが、冷静に考えればプレーを変えるべきはドンチッチだ。そしてこれは、指揮官リック・カーライルの問題でもある。
一人のスター選手の力で勝てる時代ではない。おそらくその最後はレブロンのキャバリアーズだろう。ステフィン・カリーとクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンのトリオにケビン・デュラントが加わったウォリアーズに散々に敗れ、レイカーズに移った1年後にアンソニー・デイビスを迎え入れたことで、その時代は完全に終わった。もしくはジェームズ・ハーデンの周囲にシューターを並べて勝負し続けたロケッツが最後なのかもしれない。
しかし、今はレブロンもハーデンもワンマンプレーで勝とうとはしない。リーダーシップは発揮するにしても、コート上では自分よりも仲間の力を引き出すことに重きを置き、チームの総力戦を仕掛けている。自分のスタッツが落ちるのは承知の上だ。
マブスはその逆を行っている。昨シーズンはドンチッチとポルジンギスの力関係はまだバランスが取れていたが、今では完全にドンチッチが王様だ。彼はその才能すべてを発揮し、毎試合ものすごいスタッツを残すが、チームは勝てない。もし幸運に恵まれてクリッパーズに勝っていたとしても、この戦い方でジャズにも勝てるとは到底思えない。
ドンチッチ自身、今回のプレーオフでは自分のすべてを出し尽くしたはず。それでもファーストラウンド敗退という現実を突きつけられ、どう変わるかが問われる。ただ、それを導くのは22歳の彼自身ではなく、マブスという球団そのものであるべきだ。オーナーのマーク・キューバン、そしてヘッドコーチのリック・カーライルは、2年後、5年後まで見据えてチームが次に進む道を選択しなければならない。