ジャ・モラント

プレーオフの攻防において得点、アシストとフル回転

「選手の本当の価値はプレーオフでこそ分かる」とは良く言ったもので、負けられない緊張感のある戦いで実力を発揮するメンタリティと、相手チームに対策されても乗り越えられる多彩なスキルが求められる中でステップアップしてこそ『本当のスター選手』と言えます。レギュラーシーズン最終戦から、プレーイン・トーナメント、プレーオフと続いたこの2週間で、ジャ・モラントほど濃密な経験を重ね、選手としての価値を上げた選手はいなかったのではないでしょうか。

昨シーズンの新人王であるモラントは、高い身体能力を誇るものの、個人での強引な仕掛けで得点を奪うのではなく、常に冷静にゲームメークできるのが最大の強みでした。レギュラーシーズンの成績はともにチームハイの19.1得点、7.4アシストで、オールスターにも選出されました。コンビプレーを駆使し、7人が2桁得点を記録するグリズリーズのチームオフェンスを機能させることが仕事で、21歳という若さに似合わぬ完成度の高いポイントガードとしてプレーし続けました。

8位の座を懸けたレギュラーシーズン最終戦のウォリアーズ戦では、シーズン通りのプレーで9アシストを記録し、スターター全員が2桁得点のバランスアタックを実現しましたが、46得点を奪ったステフィン・カリーの前に分厚い『強豪の壁』を感じる敗戦となりました。プレーインで再戦しても勝てる見込みがあるとは思えないほど、両チームには大きな差がありました。

『負けられない戦い』ではお互いに徹底した対策を講じ、得意なプレーを潰してきます。そんな中でもカリーは、徹底したマークやダブルチームの対策を取られても、個人能力で対策を無効化し、チームを勝利に導く真のスーパースターです。5日後に行われたプレーインの再戦でもカリーは徹底したマークで大いに苦しみましたが、シーズン平均を大きく上回る39得点を記録し、自らの得点でプレーオフを引き寄せに来ました。

シーズンを通してコントロール役に徹していたモラントでしたが、カリーのプレーに感じるものがあったのか、プレーインでは突如として自分で得点を奪いに行く姿勢を見せました。熱意だけでなく結果としてもキャリアハイの29ものフィールドゴールを放って35得点を奪う活躍で、見事に勝利をつかみ取りました。ここまでモラントが激しく自己主張する姿初めて見ましたが、自らの力でプレーオフの切符を手にしたことで、さらなる進化を遂げることになります。

モラントはジャズとのファーストラウンド初戦で26得点4アシストで勝利に貢献すると、第2戦では47得点を奪い、続く第3戦での28得点と合わせ、3試合で100得点を上回りました。プレーオフデビューから3試合で100点以上を記録したのは、カリーム・アブドゥル・ジャバー、ウィルト・チェンバレン、ジョージ・マイカン以来、史上4人目でしたが、このレジェンドにコントロール型のポイントガードであるモラントの名前が続くとは、信じられないステップアップでした。

しかし、モラントの真価が発揮されたのは、むしろその後の2試合でした。得点こそ23得点、27得点に留まったものの、それぞれ12アシスト、11アシストとモラント本来の良さであるパス能力でオフェンスを組み立てました。モラントがハイスコアをあげていたのは、切れ味鋭いドライブから相手のリムプロテクターがブロックに出てこれない少し遠い距離の難しいフローターを正確に決めていたことが大きかったものの、同じ相手との試合が続くプレーオフでは次第に対応されます。まさにジャズのディフェンスがモラントを止める手段を見つけ始めた頃に、今度は両コーナーに大きなキックアウトパスを通し、アシストを量産したのです。

プレーインの時点でモラントに求められていたのは、強引でも自分で得点を奪いに行く普段とは違うプレーでのステップアップでしたが、その得点方法も知れ渡った中で今度はディフェンスの狙いの逆を突くアシストで、強引さだけでなく高い判断力も発揮したのです。シーズン以上の結果を残すメンテリティだけでなく、ハイレベルな攻防の中でも通用する豊富なスキルで、プレーの引き出しの多さを見せつけてくれました。

高い得点能力を誇る選手も、パス能力を誇る選手もいますが、両方を兼ね備えた上でディフェンスの逆を取るプレーを選択する判断力を、プレーオフという大舞台で存分に発揮できるのは限られたスーパースターのみ。グリズリーズは惜しくも1勝4敗で敗れましたが、ステップアップし続けるモラントの真の価値に酔いしれたファーストラウンドでした。