Bリーグ創設からここまで、B2から昇格してB1に初挑戦するチームは例外なく大苦戦を強いられてきた。インテンシティの高さ、ディフェンス戦術の徹底、サイズと選手層など、様々な要素で少なくない差があり、それが『B1の壁』として立ちふさがる。だが、今シーズンの信州ブレイブウォリアーズは20勝34敗と、昇格チームとして最も多くの勝ち星を挙げた。大型補強があったわけではなくB1未経験の選手も多かったが、これまでの継続路線で実力を伸ばし、B1で戦えるチームとなった。このチームを作り上げたヘッドコーチ、勝久マイケルに2020-21シーズンを振り返ってもらった。
「大変な状況でもチームのスピリットを殺さないこと」
──信州ブレイブウォリアーズにとってB1初挑戦のシーズンは、54試合を戦って20勝34敗に終わりました。ヘッドコーチはこのシーズンをどう振り返りますか。
大変なシーズンでもあり、悔しいことがいっぱいあったシーズンでもあり、とても良い経験をチームでさせてもらったシーズンでもあり……。いろんな感情がありますが、一番大きいのは悔しさですね。でも学ぶことも多かったし、良い経験になった部分もたくさんあって、次に繋がるシーズンだったと思います。
──新型コロナウイルスの影響で外国籍選手の合流が遅れ、序盤戦は本来やりたかったバスケがなかなかできなかったと思います。
そういう状況のチームは我々だけではありませんでした。それでもトレーニングキャンプで5対5ができない中で、全員でベストを尽くしました。ただでさえ今シーズンはチャレンジで、強いメンタリティが必要でした。その中でキャプテンのマック(アンソニー・マクヘンリー)とウェイン(マーシャル)が不在でした。しかし、『それでも勝つ』というメンタリティで試合に臨み、できることすべてをやっていれば、そこで積み上げたものはチーム全員が揃った時に絶対に生きてくる、と考えていました。
大変な状況でもチームのスピリットを殺さないこと。これは非常に大切だと思っていて、厳しい状況で開幕を迎えましたが、そこで頭を下げていたらチームは悪い方向に向かっていたと思います。秋田との開幕戦で大敗しても次の試合ではバウンスバックして、翌週の宇都宮戦も同じような流れで、その2試合ではそのようなメンタリティを持ってプレーできていたと思います。
例えば開幕戦で当たった秋田を例に挙げれば、リーグ屈指の激しいディフェンスをするチームです。そのプレッシャーで1戦目はターンオーバーが23と非常に多かった。2戦目はキャンプからやってきた、プレッシャーに対してどうアタックするかという部分をより遂行できました。土曜と日曜の間に成長が見られたことで、開幕6連敗でしたけど自信に繋がった部分もあったので、何とか乗り越えることができました。
──強いメンタリティを実際にチームに根付かせるのは大変ですよね。そのために工夫したことなどはありますか。
毎日の練習とすべての試合の中でメンタリティの話をし続けてきました。そして、成功を自信に繋げて、やるべきことを一つひとつ40分間やり続ければ、必ず勝つチャンスはある、ということを信じてもらおうとしました。もう一つは、一人ひとりが責任感を持つことです。セルフィッシュな選手は1人もいませんが、ただ単純にアンセルフィッシュということと、チームでプレーすることは別物だと思います。我々には、静かな選手たちが多いです。一人ひとりが引っ張るという責任感だったり、コミュニケーションを取りながらチームが一つになって戦わなければいけないということも何度も話したシーズンでした。
「自分たちの力を信じて高いレベルを追い求めていく」
──開幕6連敗からスタートしたチームは、選手が揃ってきたこともあって勝ちが伸び始めました。
その後は、開幕当初にスピリットを殺さずに力を蓄えたことが生きました。みんなが合流した時に頭が下がっていて、そこから立て直すのではなかったことが大きいです。マックとウェインは長くこのチームでプレーしているのですぐ貢献できましたし、彼らがいることで(小野)龍猛など、本来のポジションに戻れる選手もいました。全員揃ってから少しずつ我々のバスケットが見られるようになってきました。
月曜に三河、水曜に滋賀、土曜に琉球という日程で3連勝できたことは大きかったと思います。水曜日に勝ちながらも、我々がコントロールできるはずの部分を遂行していないことや、ルーズボールで負けていたことなどで、チームには厳しい言葉をかけていました。みんなに厳しくしていることは分かっているけど、やるべきことを40分間遂行すれば勝つべきと信じているからこそ、より高いスタンダードを求めているということを琉球戦の前に伝えて、そしてその試合に勝つことができたので、より自信に繋がったのかなと思います。その後はまたいろんな壁にぶつかるんですけど、それは一つのきっかけになったと思います。
──年が明けたぐらいから、またなかなか勝てない時期がやってきました。
年明け前からもですが、とても悔しい負け方の試合がありました。例えば12月の京都戦では残り3分で10点リードから引っくり返される、すごく悔しい負け方。ターンオーバーと、KJ(松井啓十郎)を空けてしまって負けてしまいました。でも、あそこでも学んで次の試合では本当に気持ちの入ったディフェンスができていたり、ミスから学んでを繰り返すシーズンでした。初めて連勝した新潟戦の後、年明けの北海道戦での2連敗は痛かったです。勝つこと、連勝することがなかなか厳しかったです。
でも壁に当たってはバウンスバックして、最後の最後でやっと4連勝できた時に「ここから波に乗れると思うタイミングがシーズン中に何回かありましたが、ここでこそ勢いをつけられる」とチームのみんなは思っていたと思います。ビッグラインナップも機能し始めて、アウェーでは悔しい連敗をした北海道にやり返すことができたのも良かったです。そのタイミングで今度はコロナで試合が中止になってしまいました。
──シーズンを通して最も成長したのはメンタリティだと思いますが、それ以外に挙げられるものはありますか。
まずはターンオーバーですね。B2とはインテンシティとフィジカリティが違うので、ただボールをもらうだけでも厳しいところからのスタートでした。相手の方が速い、大きい、フィジカルが強いというマッチアップの時も、どう改善するかを繰り返しながらシーズンを戦ううちにターンオーバーは少しずつ減りました。
新加入選手がシステムの理解を深めてチームにどんどんフィットしていったこともチームとして成長していった要因の一つだと思います。例えばルーキーのヤン・ジェミンがコートに立てる時間が長くなったり、(西山)達哉がケガをした時にエド(山本エドワード)がステップアップしてくれたり。 龍猛がビッグラインアップの起点になりましたし、チームの遂行力も少しずつ成長はありました。それでも一番成長したのはやっぱりメンタリティですね。それを開幕と似たような、人数のいない状況で最後のホームゲームで勝てたのはその表れかなと思います。
「我々の目標は、日本一に向けて日々成長していくこと」
──複数年での契約延長が発表されました。この成長を来シーズンにどう繋げていきますか?
今シーズンの経験は来シーズンに繋がると思います。選手たちが肌で感じたことも次に繋がりますし、コーチとしても今シーズンに学んだことを次に繋げて、彼らがより成功するポジションにおいてあげられるように考えたいと思います。編成によっては細かい戦術は変わるかもしれませんが、我々のフィロソフィー、コアなバスケットのコンセプトは変わりません。『Play the right way』、それは正しいプレーのやり方は一つだけという意味ではなく、個人のスタッツではなくチームのためにとか、魅せるためではなく勝利のためにプレーだとか、ゲームをリスペクトしてハードにプレーすること。自分たちでコントロールできることをできる限り徹底すること。そういったことを大事にし続けてます。日本一を目指して日々成長していくことが引き続き我々の目標です。プロセスにフォーカスして、自分たちがなれるベストなチームになれるように努力をし続けたいと思っています。
──それでも「何がベストか」と考えたら、その定義はいろいろありますよね。
自分たちのバスケットの中で、自分たちでコントロールできる部分を徹底してやれているか。自分たちのバスケットの遂行力、コミュニケーション、エナジー。ヘッドコーチである私としては、選手の力を最大限に生かせているか、どれくらいチームとして戦えているのか。それがベストに繋がると考えます。
──やり甲斐があるのと同時に、責任も大きい仕事です。オンとオフの切り替えはB1でも上手くできていますか?
バスケとそうでない部分を切り替えられるべきで、自分もしたいと思いつつ、負けを家に持ち帰ってしまいますし、スイッチをオフにできませんね。それで家族には大変な思いをさせてしまいます。でも子供が3歳と0歳なので、家に帰れば家族に癒されます。
──新シーズンに向けた再始動はどの時期からですか?
私はバスケットボールオペレーションズもやっているので、一人ひとりと面談をしたり、来シーズンの編成を考えたりとシーズンが終わった直後から動いています。編成がパッと終われば、シーズン中は我慢してくれた家族をどこかに連れて行って、私自身もリラックスしたいと思いますが、そんなシーズンは今まで一度もないですね。毎回、時間がかかります(笑)。
──日本一に向けて日々成長するチームを見守ってくれている、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
今シーズン、コロナ禍の中で試合会場に来るのは大変なことだったと思います。本当に感謝しています。アップダウンが激しいシーズンを通して、またチャンピオンシップ進出がなくなった終盤の試合でも、選手たちは会場に来てくださる皆さんが「来て良かった」と思えるように精一杯頑張ったと思います。日本一を目指す長い道のりの中で、必要な経験をすることができた1年でした。そのプロセスの一部である今シーズン、悔しいことも多かったですが、楽しんでいただけたら良かったと思います。来シーズンも引き続きチームとして頑張りますので、応援をよろしくお願いします。
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